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東京都医師会 尾﨑治夫会長に聞く、新型コロナウイルスの感染経路 ~空気感染はする? 家庭内感染の予防や"変異"についても解説~

東京都医師会 尾﨑治夫会長に聞く、新型コロナウイルスの感染経路 ~空気感染はする? 家庭内感染の予防や"変異"についても解説~
尾﨑 治夫 先生

東京都医師会 会長、おざき内科循環器科クリニック 院長

尾﨑 治夫 先生

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年10月26日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルスの感染経路といえば飛沫感染、接触感染がよく知られていますが、最近では飛沫感染と空気感染の中間に位置する“エアロゾル感染”も挙げられるようになってきました。また、流行当初は分からなかった新型コロナウイルスの特徴が徐々に判明し、今後求められる“新しい生活様式”も見直す必要が生じてきています。

今回は新型コロナウイルスの感染経路やエアロゾル感染の特徴、新型コロナウイルスについて現在分かっていることなどについて、東京都医師会 会長の尾﨑(おざき) 治夫(はるお)先生にお話を伺いました。

飛沫感染とは、感染者のウイルスを含んだ飛沫(主に唾液)が飛び散り、それがほかの人の粘膜に触れることによって感染が成立する感染経路です。飛沫は1〜2m飛ぶと考えられており、近い距離で向かい合って会話をすると、感染してしまう可能性が高いです。人と人との距離を2m以上空け、マスクを着用することによって飛沫感染を予防できます。

一方、空気感染は“飛沫核感染”とも呼ばれ、空気中に舞った飛沫核を吸い込むことによってウイルスが直接気管支内に入り、感染が成立する感染経路です。飛沫核とは、感染者が発した飛沫から水分が蒸発し、より細かい粒子になった状態をいいます。飛沫核は飛沫よりも軽いため空気中に長時間漂いやすく、粒子が小さいために人が吸い込んだときに気管支や肺の奥まで到達し、感染を引き起こすことがあります。空気感染の予防方法としては、こまめな換気が重要です。単に窓を開けるだけではなく、2方向の窓を開けることによって風の流れをつくり、空気を入れ替えるようにします。

新型コロナウイルス感染症で考えられる空気感染は、従来の空気感染とは少し異なる感染経路です。厳密には、飛沫感染と空気感染の中間のような立ち位置にあり、昨今では“エアロゾル感染(マイクロ飛沫感染)”と表現されています。

エアロゾル感染には飛沫感染、空気感染、接触感染などのように世界的に統一された定義はありません。しかし一般的には気体の中に微粒子が浮遊している状態(エアロゾル)で、その中に感染者の飛沫などに含まれていたウイルスが含まれ、ほかの人がそれを吸い込むことによって感染することを指します。ここでは、空気感染をする病気のなかでも代表的な“麻疹はしか)”を例に挙げて、エアロゾル感染する新型コロナウイルスとの違いをご説明しましょう。

空気感染とエアロゾル感染の違い

空気感染では広い空間に飛沫核が浮遊することが予想されます。麻疹のように感染力が高く空気感染が生じる感染症の場合、たとえば電車1両に1人の感染者が居た場合には、その車両全域に飛沫核が広がると考えられます。そのため、もしその車両に麻疹にかかったことがなく免疫がない方や予防接種をしていない方が乗車していた場合、10人中9人程度の割合で感染してしまうことが予想されます。

しかし、エアロゾル感染の場合、エアロゾルは飛沫核ほど広い範囲に浮遊することはないため、感染が広がる範囲もより小さいです。普通の飛沫が1〜2m程度飛散するといわれているところ、エアロゾルは飛沫よりも軽いためにより長期間空気中に漂います。新型コロナウイルスの場合には、エアロゾル内で3時間残存すると考えられています。ただし、新型コロナウイルスは麻疹ほど感染力が強いわけではないため、エアロゾルが生じていても感染しない可能性もあります。

空気感染とエアロゾル感染の違い
画像提供:PIXTA

エアロゾル感染が発生しやすい環境

エアロゾル感染が発生しやすいのは、いわゆる“3つの密(3密)”が生じている環境です。換気の悪い狭い空間に多くの人が集まっている場合には、エアロゾルが発生しやすく、それを吸い込みやすくなってしまいます。特にそのような場所で大声を出してしまうと、飛沫が飛びやすいためにエアロゾルも発生しやすいと考えられます。狭い劇場やカラオケなどで感染が拡大しやすい理由はこのためです。

逆に屋外では多少人が密集したり声を出したりしても、飛沫が大気中に拡散してしまうためエアロゾル感染が生じることはほとんどありません。狭く換気の悪い所に集まり、大声を出す場合に、特に注意が必要です。

エアロゾル感染の予防方法

エアロゾル感染の予防方法としては、エアロゾル感染が発生しやすい3密の環境を避けることが大切です。また飛沫感染と空気感染の中間のような性質を持つことから、飛沫感染の予防に有効なマスクの着用を行い、空気感染の予防方法である換気をこまめに行うことが望ましいです。

最近分かってきている情報によれば、新型コロナウイルスはステンレスやプラスチックには72時間残存すると考えられています。

このようなデータを見ると、たしかに物の消毒をこまめに行うことも感染対策として有効なように思えるのですが、物の消毒には際限がなく、あまり神経質になるのも生活に不自由を感じ、考えものです。そのため、物の消毒については「できるときにやる」という心構えでいることがよいでしょう。

物の消毒よりも大切なことは顔を触る前に手を洗うこと

私が物の消毒以上に注意していただきたいことは、ご自身の顔を触る際には必ず直前に手を洗うということです。顔には目・鼻・口などの粘膜があり、これらを手で触れることによって手に付着したウイルスが粘膜に入り、接触感染が成立してしまう可能性があります。

現在では感染対策の意識が高まり、帰宅後や食事前、トイレの後などにこまめに手を洗う習慣が身についてきたと思います。これは大変喜ばしいことです。しかし、これからはそれに加えて手を洗っていない状態で目をこすったり、鼻をかいたりしないことを心がけていただきたいと思います。物に触れた後の手はウイルスに汚染されている可能性があるということを認識し、顔を触る前には手を洗う、あるいは消毒液で手指の消毒をすることを心がけましょう。

新型コロナウイルスの感染経路についてさまざまなことが明らかになってきましたが、感染リスクが高いと考えられる場所については流行初期と大きな差はないと考えます。人が集まり、会話をする、声を出すような場では感染リスクが高くなりがちです。

たとえば食事をする場所ではマスクを外す必要があるため、食べ物を食べたり、お酒を飲んだりしながら近い距離で会話をしていれば、当然感染のリスクは高くなってしまうでしょう。接待を伴う飲食店での食事などは、特にリスクが高いと考えられます。

一方で、当初危険視されていたスポーツクラブなどは、運動機器やロッカーの距離を離す、換気をするなどの感染対策が行われたことにより、かなり感染を防げるようになってきました。

一番は飲み会や外食の回数を減らすことが望ましいです。特に感染すると重症化してしまう高齢の方や持病を持つ方、お子さんなどと関わる方の場合には、ウイルスを持ち帰らないという意識を持ち、自覚を持って行動することが大切です。重症化リスクの高い方と特別接点のない方でも、せめて月の外食を2回程度に収め、1回1回の外食の間に10日程度間隔を開けていただきたいと考えます。このようにすることで、仮に外食の際に感染したとしても、さらなる感染拡大をさせずに済みます。

また、現在は多くの飲食店で感染対策が行われています。東京都の場合には、感染対策を行っている店舗には“感染防止徹底宣言ステッカー”が貼られていますので、ステッカーのあるお店を選ぶようにしましょう。また、入店時には手を消毒し、食事中は会話を控えるなどの工夫をしましょう。

現在行われている感染対策は引き続き慣行していただきたいです。しかし、マスクの着用については、場所によっては外すことを検討してもよいと思います。たとえば、屋外で周囲に人が少ない場合には、マスクを着用しなくてもよいでしょう。特に夏の暑い時期はマスクをつけ続けることによって熱中症など別の病気のリスクが高まることもあるため、状況によっては外すことも意識しましょう。

2020年6月19日より開始された厚生労働省の新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」も多くの方が利用し、感染対策に一定の有効性があると考えられます。

ただし、感染者と接触した可能性が生じた場合に一般の方がどのような行動を取ったらよいのかという点についてまだまだ課題があると考えます。いまだにPCR検査がなかなか受けられないというケースも生じており、感染しているかもしれないのに検査が受けられず困っている方もいます。今後は接触した可能性がある際に、かかりつけ医に相談し対処できるようなシステムなどを構築していくことが大切でしょう。

新型コロナウイルスは症状が現れる前から感染力を持っているため、家庭内感染が起こりやすいと考えられます。感染力は発病する2〜3日前から高まり、症状が現れた際にピークに達するといわれています。

そのため、一番感染力がある時期に感染に気付いておらず、マスクや部屋の隔離などの感染対策をせずに家庭で過ごしている可能性が高いのです。実際に症状が出て検査をし、その結果が出る頃には、すでに家庭内感染が成立してしまっている可能性が高いということです。

第一にウイルスを自宅に持ち込まないことが大切です。基本的な感染対策はもちろん、感染リスクがあるところに立ち寄らないようにし、通勤・通学の際に寄り道せずまっすぐ帰宅することなどを心がけましょう。特にご自宅に高齢の方や持病のある方、お子さんがいる場合には家族が責任を持ち、家庭にウイルスを持ち込まない工夫をしましょう。

日本は家が狭く、家庭内で感染対策をとることが難しい家庭が多いです。万一、ウイルスを持ち込むような暮らしをしている場合には、自宅内でもマスクを着用したり、生活する部屋を隔離したり、別々に食事をしたりする必要が出てくるでしょう。

新型コロナウイルスは最初に中国・武漢で現れたタイプから何回か変異しているといわれていて、現在日本で主流のタイプはいわゆる第一波(2020年3月〜5月上旬頃)の後に現れた東京タイプであると考えられます。

日本では最初に中国・武漢市のタイプが流入した後、ヨーロッパ・アメリカのタイプのものが流入し、第一波を迎えました。その後、時間の経過とともに東京タイプが発生し、全国に広がったと考えられています。

感染力は多少強まったかもしれません。しかし、重症化する例が増えた様子はないので、毒性については今のところ大きな変化はないと考えられます。

最初は不明な点が多かった新型コロナウイルスですが、医療機関が多くの経験を積むことによって徐々に重症化を防ぐ治療方法が確立したほか、クラスター対策や症状の様子などからより早期に感染を見つけることができるようになってきました。そのため、早期に適切な治療を行えるようになり、重症化を食い止められることも増えてきました。

今後のウイルスの変異については予測できません。しかし、日本よりも死者数の多い南米や北米のウイルスが日本に流入してきた場合には、現在とは違うタイプの新型コロナウイルスが流行する可能性もあると考えられます。

現在は海外渡航にも制限が生じていますが、その制限もいずれは徐々に緩めていかなければいけません。その際にどのように対応していくかは1つの課題になることでしょう。

新型コロナウイルスは人口の密集する都市部で流行し、問題になるウイルスです。そのため東京都医師会は大都市の代表として、新型コロナウイルスの感染対策に取り組んでいます。都会は便利な点も多く、多くの人が集まりますが、そのぶん今回のようなウイルスが流行したときには、混乱が生じて困ること、不自由なことも多々生じます。感染を抑え、自由な経済活動を行うためには、今東京にいる、あるいは東京に来る方全員でルールを守って生活していくことが必要です。しばらくは不自由を感じることがあるかもしれませんが、ルールを守って生活し、感染を抑えていけば、規制や制限もどんどん減ってくるはずです。

また新型コロナウイルスは感染経路が分かっており、予防方法も明確になってきています。そのため、いつまでも不自由な生活を続けるのではなく、過剰な対応はどんどん取り除くなど正しく恐れてルールを見直していくことも大切です。緊急事態宣言が出た頃は“Stay home”という言葉が各地で叫ばれていましたが、今は感染対策をして外出をすることも可能になってきました。絶対に守らなければならないところ、緩めてもよいところのメリハリを付けて感染対策をしていくようにしましょう。

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  • 東京都医師会 会長、おざき内科循環器科クリニック 院長

    日本内科学会 認定内科医

    尾﨑 治夫 先生

    東京都医師会会長を務め、疾病予防に有効なたばこ対策と要介護を未然に防ぐためのフレイル対策に特に力を入れている。東京都医師会だけでなく歯科医師会や薬剤師会など関係医療団体との密な連携をはかり、2025年に向けた医療体制の構築を行う。産業保健、学校保健を通じた職域や学校での健康づくりと教育の拡充にも精力的に取り組んでおり、がん教育や近年増加している若年層の性感染症対策のため、学生に対して授業を行うだけでなく、東京都下の学校医の積極的な啓発活動を呼びかけている。

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