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新型コロナウイルス感染症の“変異ウイルス”に現在のワクチンは効くのか~変異の特徴について~【3章】

新型コロナウイルス感染症の“変異ウイルス”に現在のワクチンは効くのか~変異の特徴について~【3章】
峰 宗太郎 先生

米国国立研究機関 博士研究員

峰 宗太郎 先生

目次
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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月01日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

世界中で混乱を巻き起こし、私たちの生活にさまざまな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。中国の武漢で初めて報告された新型コロナウイルスですが、のちにイギリス型の変異ウイルスが発見され、さらに南アフリカ型、ブラジル型の変異ウイルスが報告されたことで、その流行が懸念されています。現在話題となっている変異ウイルスに現行のワクチンは効くのか、変異ウイルスそれぞれの特徴について、峰 宗太郎(みね そうたろう)先生(米国国立研究機関 博士研究員)にご解説いただきました。【3章】

※2章はこちらのページをご覧ください。

今話題になっている新型コロナウイルスは主に、イギリス型、南アフリカ型、ブラジル型の3つです。こちらのページでお伝えした問題となりうる変異を元に、現時点で分かっているそれぞれの特徴についてお話しします。

まずは伝播性(でんぱせい)の上昇について。イギリス型の変異ウイルスは、伝播性(でんぱせい)の上昇があることはいくつかの研究で示唆されていますが、どの程度の上昇率であるのかという具体的な数値は定まっていません。ウイルス学的・生物学的な実証はなされていないこともあり、具体的な上昇率に言及することは現時点ではできないのです。南アフリカ型も同様の状況であり、さらにブラジル型については詳細がまだ分かっていません。

次に病毒性の上昇について。イギリス型の変異についていくつかの研究データが出ており、それらの結果を見るとおよそ35~36%致死率が上昇するといわれています。この上昇率だけを見ると怖いと感じる方もいるかと思いますが、実は元々の致死率が1%ほどなので、結果的には1.3%ほどの致死率です。国単位の大きなスケールで捉えるなら、このわずかな上昇が与えうる影響を考慮する必要があるでしょう。しかし、個々の症例においてはそこまで大きなインパクトはありません。個々人が実感するような病毒性の上昇ではない、ということです。なお、南アフリカ型、ブラジル型における病毒性の上昇については、まだ詳細が分かっていません。

最後はワクチン逃避、薬剤の耐性の獲得についてですが、今回はワクチンの話に絞ります。ウイルスの感染を抑えるために、ワクチンはもっとも効果的で重要なものです。『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』によれば、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験の第3相試験(治験における最後のステップ)で、ファイザー社95%、モデルナ社94.1%の発症予防効果(有効率)が示されました。重症化を予防する効果も明白であり、安全性においても大きな懸念はないといいます。

新型コロナウイルスワクチンはスパイクタンパク質をターゲットにしています。ということは、スパイクタンパク質が変異したら中和抗体が付着できなくなる可能性があるのです。このように、抗体に反応しなくなる変異を持ったウイルスだけが免疫から逃れて生き残ることを“免疫逃避(escape:エスケープ)”といいます。そして、環境の変化に順応した少数派が生き残りやすくなる状態を“選択圧がかかる”といいます(この言葉は後でまた登場するので覚えていてください)。

では、先ほど挙げた3つの変異ウイルスの免疫逃避はどうなっているのか。結論をお伝えすると、南アフリカ型とブラジル型の変異ウイルスについてはワクチン逃避の可能性が示唆され、現行のmRNAワクチンによって得られた抗体の中和能が低下するとの報告があります。ただし、極端な低下はないと考えられています(実験によって幅はある)。そのため基本的に現行のワクチンをそのまま使うことが可能と考えられています。しかしながら、南アフリカ型の変異ウイルスについては、各社が対応する改良ワクチンの作製を開始しています。

集団検診
写真:PIXTA

集団免疫とは、集団における一定割合が免疫を有することで、感染症の流行が自然には拡大しなくなる状態を指します。新型コロナウイルスの場合、約60%の人が免疫を持つことが閾値(いきち)(ボーダーライン)と推定されています。ただし、これは基本再生産数(自然状態で1人の感染者が平均的に何人に感染させるかを示す数値)が2.5との推定に基づき出された閾値です。そのため、変異ウイルスにより伝播性(でんぱせい)の上昇があった場合には基本再生産数が変わり、それに伴って集団免疫の閾値も変わるということです。

新型コロナウイルス感染症の場合、ブラジルのマナウスのように人口の多くが感染している(抗体を保有している)にもかかわらず流行が続いている地域があります。なぜかというと、ブラジル型の変異ウイルスが免疫逃避したため基本再生産数が変化している可能性があったり、変異ウイルスによって2回感染している可能性などもあったりするからです。このように、理論上は集団免疫が成立するような状態でも実際には成立しない事例もあります。変異ウイルスによる影響も考えると、新型コロナウイルス感染症において“集団免疫が成立するか”というのは現状、一言では断言できません。

ただ、感染の流行が続く限り変異ウイルスは発生し続けますから、まずは何よりも流行を抑えることが重要です。この部分は強調してもし過ぎることはないと思います。

先ほど“選択圧がかかる”という言葉をご説明しました。ワクチン接種後に感染した方や免疫不全の方などで長く感染が続くと選択圧がかかっていますので、長期感染するとその体内でウイルスが変異を繰り返して蓄積することがあると考えられています。そのため「ワクチンを打ったから感染しても大丈夫」というわけでは決してありません。ワクチン接種後も感染しないよう対策を講じることが重要になります。

まとめとしていくつかお伝えします。まず新型コロナウイルスの変異体は日々生まれており、その中で監視・研究が必要な変異がいくつか観測されていること。特に現在はイギリス、南アフリカ、ブラジルで発生した3つの系統が注目されています。

そして、問題になるウイルスの変異は▽伝播性(でんぱせい)の上昇▽病毒性の上昇▽免疫逃避・薬剤の耐性の獲得――であり、特に南アフリカ型とブラジル型では、免疫逃避・耐性が懸念されていること。現行のワクチンの効果についてもある程度低下していると考えられており、各社が対応ワクチンの開発を進めています。

ただ、変異ウイルスとはいえ、感染を予防するための方法は基本的に変わりません。そして変異ウイルスの発生を抑えるためにも感染の流行を抑えることは重要であり、そのために基本となる感染対策は継続して行うことが大切、ということです。

呼吸器感染予防
素材:PIXTA

最後に、新型コロナウイルスを含めた呼吸器感染症の予防策をお伝えします。▽栄養と睡眠をしっかり取る▽手指の消毒を徹底する▽せきエチケット(せき・くしゃみをする際にマスクやティッシュ・ハンカチなどを使って口や鼻をおさえる)を守る▽3密を避ける▽体調不良のときには外出しない▽体調不良の方と接触しない▽マスクを着用する▽部屋を十分に換気する▽うがいは水で行う(うがい薬には風邪の予防効果が認められていないため)――これらを意識して生活することがとても重要です。

今、日本でも新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。現在は冷凍保存のワクチンだけが実用化されていますが、モデルナ社では新たに冷温保存できるワクチンの開発が成功したといいます。間違った情報やデマなどに惑わされず、正しい医療情報を吸収しながら、希望を持って共にがんばりましょう。

  • 米国国立研究機関 博士研究員

    日本病理学会 病理専門医

    峰 宗太郎 先生

    日本病理学会 病理専門医。病理医としての専門は血液腫瘍と感染症。
    基礎研究者としてはウイルス学と免疫学を専門としており、特に、EBウイルスによって生じる病気の研究を行っている。

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