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医療機関への薬剤耐性菌の輸入にどう備えるか

医療機関への薬剤耐性菌の輸入にどう備えるか
大曲 貴夫 先生

国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター センター長、AMR臨床リファレンスセンター ...

大曲 貴夫 先生

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この記事の最終更新は2019年04月09日です。

細菌感染症に対して使用される抗菌薬(抗生物質)が効かない細菌を「薬剤耐性菌」といいます。薬剤耐性菌は、海外の医療機関から日本の医療機関へ持ち込まれ、感染拡大のリスクが高いことが分かっています。そのため医療機関は、薬剤耐性菌が輸入されるリスクについてしっかりと理解し、対策を行うことが重要です。

国立国際医療研究センター病院 国立感染症センター・センター長であり、AMR*臨床リファレンスセンター・センター長を務めておられる大曲貴夫先生にお話を伺いました。

*AMR…薬剤耐性

ウイルスや細菌、菌類などの微生物が体内に入り込み、体に害を及ぼすことを感染症といいます。そのうち、細菌によるものを「細菌感染症」といい、これには細菌の増殖を抑えたり殺したりする抗菌薬(抗生物質)の投与が有効です。

しかし数ある細菌のなかには、抗菌薬に対して耐性を獲得した「薬剤耐性菌」という細菌が存在します。薬剤耐性菌は抗菌薬で死滅させることができないため、薬剤耐性菌による感染症を発症した場合、治療が長引いたり重症化したりすることがあります。

実際に薬剤耐性菌によって、世界で年間70万人の方が亡くなっていると推測されています(2013年時点)。そしてこのまま対策をしなければ、2050年には約15倍もの数である1000万人の方が薬剤耐性菌によって命を落とすといわれています。

空港

薬剤耐性菌が世界中で猛威を振るうなか、日本でも薬剤耐性菌の感染拡大を防ぐための取り組みを行う必要があります。

そのために重要な対策のひとつが、薬剤耐性菌が海外から日本へ持ち込まれる「薬剤耐性菌の輸入」への対策です。たとえば、海外に行った日本人が現地で薬剤耐性菌に感染し、そのまま帰国してしまうことで、日本に薬剤耐性菌が持ち込まれます。

海外での感染ルートとして、薬剤耐性菌が蔓延している地域で、食品や水、自然環境などから感染することがありますが、それ以上に海外の医療機関での感染リスクが高いことが分かっています。

たとえば、海外に行った日本人が病気や事故で現地の医療機関に入院し、そこで薬剤耐性菌に感染するとします。その方が帰国後、薬剤耐性菌に感染した状態で日本の医療機関に再び入院すると、ほかの患者さんに薬剤耐性菌が移り、感染が広がっていってしまいます。

また海外の医療機関に入院歴がある外国人が来日し、日本の医療機関に入院した場合にも、薬剤耐性菌が輸入されるおそれがあります。

病院

当センターで経験した薬剤耐性菌の輸入例についてご紹介します。それは地中海沿岸の国にある医療機関の集中治療室に入院されていた方が、当センターに転院されたときでした。

当時、地中海沿岸の国々では薬剤耐性菌が蔓延しており、特に集中治療室における感染拡大が問題となっていました。そのため、この転院患者さんを受け入れるにあたり、薬剤耐性菌へのリスクに備える対策を行いました。

対策方法として、まず個室に入院していただき、院内のほかの患者さんとの接触を回避しました。そのうえで体内の薬剤耐性菌について調べたところ、体内から薬剤耐性菌が検出されたのです。当センターにおける、薬剤耐性菌の輸入の第1例でした。

この経験から、「海外での入院歴のある患者さんを受け入れるということは、同時に薬剤耐性菌が持ち込まれるリスクが高い」ということを改めて実感しました。

当センターではそれ以降、過去1年以内に海外の医療機関に入院歴のある患者さんには、あらかじめ個室に入院していただいたうえで、薬剤耐性菌の有無を確認する対策をとっています。

この対策において、国による区別は行っていません。調査をしてみると、先進国からであっても、発展途上国からであっても、薬剤耐性菌が持ち込まれるリスクがあることが分かったためです。感染リスクは国で判断できないと考え、どの国に入院していた患者さんに対しても同様の対策を行っています。

大曲先生

国際化が進み、海外と日本を多くの人々が行き来するなか、薬剤耐性菌が輸入されるリスクについて、各医療機関はよりいっそう強い危機感を持つ必要があります。そのためにも、入院時の患者さんからの聞き取りで、過去(特に1年以内)に海外の医療機関に入院したことがあると分かったら、その患者さんが薬剤耐性菌を持っていた場合に備えて、十分な院内感染対策を行うことが重要だと考えます。

しかしながら、薬剤耐性菌が輸入される問題を“自分ごと”として捉えきれていない医療機関がまだまだ多い現状があります。確かに海外の方が入院されることはそう多くはありませんが、近年は日本のどこに行っても、海外からの居住者や旅行者は多くいらっしゃいます。そして、その方々がいつ病気や事故によって入院してきても不思議ではありません。

ですから、各医療機関はいざというときに備えて、日頃から薬剤耐性菌が輸入されるリスクについて強い意識を持っておくことが重要なのです。

今後日本では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、より国際化が進むことが予想され、海外からの旅行者はますます増加すると考えられます。さらに、これまで多くはなかったメディカルツーリズム*の受け入れが増える可能性もあります。

医療の国際化に伴って起こりうる問題のひとつとして、各医療機関が薬剤耐性菌の輸入について強く意識することが重要でしょう。

*メディカルツーリズム…医療サービスを受けることを目的とした渡航

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  • 国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター センター長、AMR臨床リファレンスセンター センター長

    大曲 貴夫 先生

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