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インタビュー

重症1型糖尿病に対する膵臓移植とは―外科手術で糖尿病は治療できる

重症1型糖尿病に対する膵臓移植とは―外科手術で糖尿病は治療できる
剣持 敬 先生

藤田保健衛生大学 大学院医学研究科 移植・再生医学講座 教授

剣持 敬 先生

膵臓移植は、1型糖尿病の患者さんに対する治療法の一つで、多くの場合は腎臓移植と同時に行われる手術です。かつては生体膵臓移植(親族などから膵臓の一部を切り取り患者さんに移植する)という方法が主に用いられていましたが、ドナーに負担がかかるため、現在では脳死ドナーから全膵を移植する脳死膵臓移植が中心となっています。今回は1型糖尿病の患者さんのための膵臓移植(膵・腎同時移植)について、藤田保健衛生大学病院臓器移植科教授の剣持敬先生にお話しいただきます。

十二指腸に取り巻かれている膵頭部から左に向かって伸び、膵尾部は脾臓(ひぞう)に達しています。膵液(すいえき)という強力な消化液を分泌する外分泌機能と、インスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能を持っています。膵臓内に散在している膵島(ランゲルハンス島)の中のβ細胞からはインスリンが、α細胞からはグルカゴンが分泌されます。インスリンは、血糖値を低下させる作用を持ち、グルカゴンはインスリンと対立する作用を持ち血糖値を上昇させます。

膵臓の構造
膵臓の構造

※膵臓の構造については関連記事:「膵臓がんとは」を参照

日本における膵臓移植の適応基準は、厚生労働省膵臓移植の基準等に関する作業班にて定められています。現段階ではすべての症例が1型糖尿病の患者さんに対する治療法であり、実施される膵臓移植の約8割は腎機能障害(腎不全)を伴った1型糖尿病の患者さんに対する膵・腎同時移植です。こうした意味では、腎機能障害(腎不全)に陥った1型糖尿病に対する治療ということもできるでしょう。ただし、腎臓機能が低下していない1型糖尿病の患者さんに対して膵臓の単独移植を行うこともあります。

上述したように一般的には膵・腎同時移植(膵臓と腎臓が同時に移植される)が行われています。

1型糖尿病の患者さんの場合、透析が必要なほど腎機能が低下した場合は移植しか治療法がありません。また、糖尿病で血糖が不安定であれば低血糖による意識消失発作も起こり、患者さんのQOLは著しく低下してしまいます。これらの症状は、膵・腎同時移植によって劇的に改善します。

【膵臓移植(膵・腎同時移植)の適応基準】

1、対象

腎不全に陥った糖尿病患者であること

腎臓移植の適応があり、内因性インスリン分泌が著しく低下している

→膵・腎同時移植(SPK)または腎移植後膵臓移植(PAK)の適応

・IDDM(1型糖尿病)患者で、糖尿病学会専門医によるインスリンを用いたあらゆる治療手段によっても血糖値が不安定で、代謝コントロールが極めて困難な状態が長期にわたり持続している

→膵臓単独移植(PTA)を考慮する場合もあり得る

2、年齢

原則として60才以下が望ましい

3、合併症または併存症による制限

糖尿病性網膜症で進行が予測される場合は、眼科的対策を優先する。

・活動性の感染症、活動性の肝機能障害、活動性の消化性潰瘍

・悪性腫瘍:原則として、悪性腫瘍の治療終了後5 年を経過し、この間に再発の兆候がなく、根治していると判断される場合は禁忌としない。しかし、その予後については腫瘍の種類・病理組織型・病期によって異なるため、治療終了後5年未満の場合であっても、腫瘍担当の主治医の意見を受けて、移植の適応が考慮される。

・その他:膵臓移植地域適応検討委員会が移植治療に不適当と判断したものも対象としない。地域とは、日本臓器移植ネットワークが全国をブロックに分割する地域を単位とする。

日本移植学会より引用

申請書類

通常、糖尿病の患者さんは地域の内科または糖尿病内科で定期的な診察を受けています。糖尿病患者さんが移植を希望した場合は専門施設(勿論藤田保健衛生大学も該当します)に入院していただき、そこで精密検査をしながら主治医が「適応判定申請書」という書類を作成して、全国各地の「適応検討委員会」という所に送付します。「適応あり」と判断された場合、患者さんはウェイティング(待機)という状態になり、日本臓器移植ネットワークに登録されます。血液型やHLA(ヒト白血球抗原)などの選定基準に合致したドナーが現れ、希望されている実施施設で移植が実施されます。これが現在の膵臓移植の流れです。

膵臓移植には脳死膵臓移植と生体膵臓移植という2つの種類があります。

亡くなられた方(ドナー)から提供いただいた膵臓(および腎臓)を移植する

生体腎移植と同様、血縁者または配偶者より膵体尾部(膵臓の半分)、(および腎臓の1つ)を移植する

生体移植とは生きている方から臓器の一部をもらって患者さんに移植する方法で、2004年ごろは脳死ドナーが少なく生体膵臓移植が行われていました。日本では脳死状態の臓器提供者(脳死ドナー)が年間数例と極端に少なく、ドナーが現れるまでに平均10年の日数がかかっていたからです。当然ながら、重症1型糖尿病の患者さんはそれほど待つことが困難であり、生体膵臓移植はそのような患者さんの需要にこたえる形で導入された術式でした。

現在では年間60例ほどの脳死ドナーがおり、そのうち6割程度(35例)が膵臓移植に適応となっているため、ドナーへの侵襲性が高い生体膵臓移植はほとんど行われていません。

現在も生体膵臓移植のドナーとなった方のフォローをしている状況ですが、皆さん大きな異常なく、元気にしていらっしゃいます。しかし、生体膵臓移植によってドナーの膵臓は半分なくなっているため、将来的に糖尿病を発症する可能性があります。

勿論、生体膵臓移植のドナーになっていただくにあたり、そうした危険性はご説明しますが、生体膵臓移植のドナーとなった場合の将来的な合併症や予後などを考えると、脳死ドナーが出た場合には脳死膵臓移植を行う流れが理想的です。これは膵臓のみならず、他の移植においても同じであり、生体移植がスタンダードだという考えは是正しなければなりません。今後は脳死ドナーからの移植が中心になるべきだと考えます。

膵臓移植における最大の目標は、糖尿病合併症の進行抑制によって患者さんの生命予後(寿命)を延ばすことにあります。

元来膵臓移植は、糖尿病の病態を是正するために行われる手術です。

膵臓移植の結果、糖尿病が改善されれば、糖尿病の合併症の進行を抑えることができます。糖尿病の合併症には心血管系の病気(動脈硬化)や神経障害(網膜症)などがありますが、膵臓移植によって糖尿病が改善すれば動脈硬化の進行は停止します。また、糖尿病網膜症の進行を抑制することも可能です。たとえば患者さんがすでに網膜症の治療をしている場合、膵臓移植をすれば膵臓の機能が維持されている間は網膜症が進行しません(ただし、すでに失明してしまっている場合は視力を元に戻すことはできません)。

インスリン注射

膵臓移植によって患者さんはインスリン離脱が可能となります。インスリン離脱率とは、インスリン注射が不要となることをいいます。日本における膵・腎同時手術後5年のインスリン離脱率は非常に高く、80%に上ります。10年以上の継続は難しいのですが、低血糖はほとんど起こらなくなります。

ただし、膵臓単独移植の場合は5年インスリン離脱率が30%と著明に低く、現在の課題とされます。この理由としては、日本の場合は膵臓単独移植の症例数がこれまでに12例(全移植数は240例)と少ないため、正確なデータが得られていないという可能性が考えられます。とはいえ膵・腎同時移植のほうが術後の成績が良いことは確かです。

また、膵・腎同時移植の場合、腎臓が拒絶反応を起こせばすぐに異変に気づくことができますが、膵臓単独移植では拒絶反応がみえないので診断が遅れがちです。この点も原因と考えられます。

このように、膵臓移植によって合併症が抑制され、インスリン離脱が実現して低血糖発作がなくなれば、患者さんのQOL(生活の質)は極めて向上します。これが膵臓移植における最終目標だと考えています。

しかし私が膵臓移植を始めた当時(1990年代)は膵臓移植で糖尿病が治ることを知っている医師が少なく、糖尿病内科の先生の理解と協力をなかなか得られませんでした。今ではほとんどの糖尿病内科の先生は理解してくれていますが、専門外の先生などはまだ移植治療を知らない方もいらっしゃいます。

実際に各地域で糖尿病の患者さんをみるのは、開業している糖尿病内科の先生です。今後は、より多くの先生方に、膵臓移植という治療法があることを知っていただくことが大事だと考えます。

記事2『膵臓移植の方法と1型糖尿病治療の発展―移植から免疫抑制剤まで』では、脳死膵臓移植(膵・腎同時移植)の具体的な方法と、膵臓移植における新しい研究、そして先進医療の膵島移植の可能性についてご紹介します。

 

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