膵島移植は膵臓移植と比べ、体への負担が格段に少なく、入院期間も短期で済むというメリットがあります。では、生着率や1型糖尿病の治療効果には違いがあるのでしょうか。
また、どのような患者さんが膵島移植の適応となるのでしょうか。
京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科助教の穴澤 貴行先生に、膵島移植の適応条件や、再生医療を用いるアイデアなどを交えながら、膵島移植の現状とこれからについてお伺いしました。
膵臓移植という1型糖尿病の治療法が確立されているなかで、なぜ膵島移植の一般医療化が目指されているのでしょうか。
この理由は、膵臓を単独で移植した場合、5年生着率は約4~5割程度とほかの臓器移植の成績に比べ低い数値に留まっていることにあります。
記事1『「膵島移植」とは?負担の少ない1型糖尿病の新たな治療方法』でも解説したように、臓器移植とは侵襲が高い治療であり、繰り返し移植手術を受けることは患者さんにとって大きな負担となります。
このような背景があるなかで、膵臓移植と同等の効果が期待される低侵襲手術・膵島移植が出てきたため、現在開発が進められているのです。
ただし、膵臓と腎臓を同時に移植する膵腎同時移植の5年生着率は約8割と非常によいため、膵臓単独の移植とは区別して考える必要があります。
膵腎同時移植は、膵臓単独移植とは異なり、膵島移植が発展しても生き残っていくでしょう。
これまで、膵臓単独移植、膵腎同時移植は保険適用でしたが、膵島移植は先進医療の枠組みで行われてきました。このたび保険収載されて患者さんの負担が圧倒的に軽くなることで、膵臓単独移植の一部は膵島移植へと変わっていくことも考えられます。
なお、膵腎同時移植は腎不全の患者さんを対象に行っています。将来的には同時移植が必要な腎不全の患者さんは膵腎同時、腎機能が保たれている患者さんは膵島移植を行う、というすみ分けになっていくかもしれません。
現時点では、膵島移植のみで100人中100人の患者さんを、インスリン離脱状態にまで改善できるとはいえません。離脱できる割合はおおよそ3~4割ほどです。
そのため、アメリカではこの治療の目的を「無自覚性低血糖からの解放」と「安定した血糖コントロール」としており、インスリン療法離脱を確約する治療ではないとしています。
京都大学では、膵島移植のほかに膵臓移植も行っています。膵島移植は臨床試験から保険診療に移行したばかりです。一方、膵臓移植の症例数もそれほど多くありませんので結論付けることはできませんが、1回の移植での治療効果は膵臓移植のほうが大きいような印象を持っています。
膵島移植が一般医療となることの意義は、患者さんが効果と侵襲の度合いを比べて、ご自身で治療を選択できるようになるという点にあります。
また、膵臓移植の治療成績は近年ではほとんど変化がみられない一方、膵島移植の成績は年々とはいえませんが、約5年ごと程度でみると向上しているため、今後の見通しがよい治療であるといえます。
膵島移植は、膵臓移植にかわる1型糖尿病の新たな治療法として、開発が進められている治療です。
1型糖尿病とは、「ご自身の体内で作られる内因性インスリンが、治療を要するほどに著しく低下している」状態を指し、これが膵島移植の適応条件の大枠になります。ただし、全ての1型糖尿病患者さんが膵島移植を受けられるわけではありません。
膵島移植の適応条件のなかでももっとも重要なことは、「糖尿病専門医の治療努力によっても、血糖コントロールが困難である」ということです。また、発症から5年を超えて継続していることも条件となります。糖尿病専門医の治療をしっかり受けている中で、移植に頼らずとも血糖コントロールがうまくいくこともあるからです。
まずは、注射によるインスリン療法などを受けていただき、それでも血糖コントロールが難しい場合にはじめて膵島移植を考えることとなるのです。
保険収載され、今後は可能な人には受けていただけるよう、以前よりも少し条件を緩めています。
一方で、悪性腫瘍や感染症、未処置の網膜症などは、膵島移植の禁忌となります。
ご自身が適応となるかどうかの詳細は、膵島移植を行っている施設(京都大学を含む)を受診し、専門医にお問い合わせください。
記事1『「膵島移植」とは?負担の少ない1型糖尿病の新たな治療方法』では、2000年に報告されたエドモントンプロトコールを用いた膵島移植によってインスリン離脱の可能性が示唆され、膵島移植が世界的に広がったと述べました。
しかし、その後もエドモントンプロトコールを用いた膵島移植が多施設で行われたものの、インスリン離脱状態を長期間維持できた割合は低く、期待を十分に満たす結果はみられませんでした。
その後、ミネソタ大学から報告された新規免疫抑制プロトコールを用いた膵島移植が行われ、その成績はエドモントンプロトコールの成績を大きく上回るものとなりました。
日本でもこのプロトコールによる膵島移植の臨床試験を先進医療Bという枠組みで行ってきました。まだ臨床試験の結果を公表していませんが、京都大学で膵島移植を受けた患者さんの約80%で長期に移植細胞が生着し、かなり良好だと思います。また、患者さんの生活の質(QOL)もとてもよくなっています。
生着率を向上させるために、もっとも注力してきたことは、新たな薬剤を組み合わせるなどした免疫抑制療法の改良の工夫です。
このほか、日本では膵島を分離する技術や保存法の改良も実施されてきており、研究としてはほぼ完成形に近づいています。
京都大学では2005年に唯一1例のみ生体膵島移植を行っていますが、今後2例目を行う予定はありません。というのも、膵島を提供するために膵臓を切除することはドナーにかかる負担が大きく、メリットとデメリットを天秤にかけて考えると、現時点では生体ドナーから膵島提供を受けることのベネフィットがリスクより上回るとはいえないからです。
繰り返しお話してきたように、膵島移植は1度の手術のみで完全にインスリン離脱を目指せる治療法ではなく、また、膵臓は肝臓のように再生する臓器ではありません。
そのため、現在はどのような技術や材料を用いてドナーあるいは移植できる膵島を増やしていくかが課題となっています。
たとえば、iPS細胞やES細胞を用いて作った膵島を移植するという、再生医療領域の技術を使った手法の誕生に期待が集まっています。
この実現にはまだまだ年数がかかるものと思われますが、実際にアメリカではES細胞を用いて作製した膵島細胞を移植する臨床試験も始まっています。
また、私はiPS細胞やES細胞よりも、ブタの膵島を用いるという手法のほうが、より早く臨床の場で応用できるようになると考えています。ブタのインスリンはヒトに対しよく効くため、既すでに何十年も前からインスリン製剤などに利用されてきました。ブタの膵島を移植するアイデアも以前から提唱されています。
ただし、ブタからヒトなどへの異種移植では、「拒絶反応」が課題となります。
幸いにも、膵島移植は2ccほどの少量の組織を用いるだけで済む治療ですので、工夫を加えれば、十分に拒絶反応を抑えられると考えられています。具体的には、移植する膵島をカプセルに包む、ブタ自体に遺伝子改変を加える、といった案が挙げられています。
膵島移植を一般医療にするには、現在行われている臨床試験の症例のデータや経験を基にしつつ、さらに前項で述べた手法を組み合わせるなどして、治療成績を改善させていく必要があります。
膵島移植のメリットと膵臓単独移植のデメリットを考えると、最終的には1型糖尿病の治療法としての膵臓単独移植という選択肢はなくなり、膵島移植に移行していくことが理想といえます。
京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助教
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。