インタビュー

インスリン治療の進歩

インスリン治療の進歩
小山 一憲 先生

国際医療福祉大学 教授

小山 一憲 先生

この記事では、糖尿病におけるインスリン治療の進歩について詳しくご説明します。糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病を中心に豊富な臨床経験をもつ、国際医療福祉大学三田病院内科部長の小山一憲先生にお話をうかがいました。

最初のインスリン製剤は、ウシからとったものでした。当時は大量のウシの膵臓からごくわずかしか生成できず不純物も多く含まれていました。また作用時間が短く、一日に何度も注射を打たなければなりませんでした。その後、亜鉛を加えると結晶化して純度が高まり作用時間も延びることがわかって、ウシから作られたレンテインスリンが製品化されました。これは1日に1回か2回注射すればよいというものでした。

しかしウシとヒトではアミノ酸配列が異なるため、よりヒトに近いブタのインスリンを使うようになりました(ブタのアミノ酸配列はヒトと1種類しか異なりません)。ところがインスリンはタンパク質であるため、抗体ができてインスリンが効かなくなるという問題がありました。そこでヒトのアミノ酸配列と同じ構造を持つヒト型インスリン製剤が求められるようになっていったのです。

ようやく開発されたヒト型インスリン製剤にも問題点がありました。保存中に6量体と呼ばれる結晶構造をつくるため、それを皮下に注射しても結晶がバラバラになって吸収されるまでに時間を要するのです。そのため食事をする前に15分から30分程度、早めに注射しなければなりませんでした。

この欠点を克服するために、超速効型インスリン製剤が開発されました。結晶構造をつくる結び目のところのアミノ酸配列を変えて、結晶ができないようにしたのです。最初から1分子の状態で存在しているので、皮下に注射するとすぐに吸収されて効果を発揮し、健康な人が食事をした時のインスリン分泌パターンにより近づけることが可能になりました。超速効型インスリン製剤ができたことで、食事の直前あるいは食後すぐに注射をすればよいということになり、患者さんの生活にかなりの自由度がもたらされるようになりました。

その一方で、超速効型インスリン製剤は短時間で効果が落ちてくるので、健康な人のインスリン分泌パターンに似せるためには長い時間持続するインスリン製剤も必要でした。それまでにも中間型というある程度長い時間持続するものはありましたが、やはり効果にはピークがあり、なだらかに効果が落ちていくという効き方をするものでした。

また、インスリン注射に用いるデバイスの種類も進歩してきました。従来はバイアルと呼ばれるガラス製容器から注射器に移して使っていましたが、次第にペン型注射器が主流になっていくなかで、長時間作用するインスリン製剤は技術的な問題でバイアルのものしかなく、ペン型にすることができませんでした。

このような需要に応える新しいインスリン製剤として、ペン型の持効型溶解インスリン製剤が開発されました。これによって、24時間一定量のインスリンが体内にあるという状態を維持することが可能になりました。

1型糖尿病の患者さんの場合、インスリンがなくなると糖尿病性ケトアシドーシス(インスリン不足によって糖のかわりに脂肪の代謝が進み、脂肪が分解してできるケトン体が蓄積して血液が酸性に傾くこと)を起こすおそれがあります。しかし、持効型溶解インスリン製剤ができたことでその危険度をかなり下げることができるようになりました。

超速効型インスリン製剤と持効型溶解インスリン製剤を組み合わせて使うことで、健康なヒトのインスリン分泌パターンを再現するというのが、今のインスリン補充療法のスタンダードな方法になっています。患者さん自身が血糖測定を行い、インスリン量を調整しながらコントロールする方法を強化インスリン療法といいます。

しかし、1型糖尿病の患者さんの場合は、一定の方法でインスリン製剤を使っていても吸収のしかたに変動がみられる場合があります。日中の変動が激しい方や、一定の血糖値を持続させないと妊娠の継続が難しい方などの場合には、体外にある小型のポンプから、腹部の皮下に留置した針・チューブを通して超速効型インスリンを持続的に注入します。

受診について相談する
「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。
この記事は参考になりましたか?
記事内容の修正すべき点を報告
この記事は参考になりましたか?
この記事や、メディカルノートのサイトについてご意見があればお書きください。今後の記事作りの参考にさせていただきます。

なお、こちらで頂いたご意見への返信はおこなっておりません。医療相談をご要望の方はこちらからどうぞ。

    実績のある医師

    周辺で糖尿病の実績がある医師

    朝日生命成人病研究所 所長

    かすが まさと

    内科、腎臓内科、皮膚科、眼科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、甲状腺内科

    東京都中央区日本橋馬喰町2丁目2-6 朝日生命須長ビル2・3・4F

    JR中央・総武線「浅草橋」西口 徒歩5分、都営浅草線「浅草橋」A3出口 徒歩7分、JR総武本線「馬喰町」C4出口から徒歩2分 徒歩7分、都営新宿線「馬喰横山」C4出口から徒歩2分 徒歩8分

    医療法人社団平永会 日下診療所 理事長、八丁堀3丁目クリニック 院長

    いしだ かずや

    コミュニケーションを大切に、地域に根差したかかりつけ医として

    医療法人社団平永会 日下診療所(東京都荒川区南千住5丁目21-7 1F:JR常磐線(上野~取手) 南千住 西口 徒歩5分)の病院ページ。

    Web予約対応

    内科、小児科、糖尿病内科

    東京都荒川区南千住5丁目21-7 1F

    JR常磐線(上野~取手)「南千住」西口 徒歩5分

    四谷内科・内視鏡クリニック 副院長

    たかぎ ともこ
    Web予約対応

    内科、消化器内科、内視鏡内科、糖尿病内科、内分泌内科

    東京都新宿区四谷2丁目11-6 フォーキャスト四谷6F

    東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目」 徒歩5分、JR中央・総武線「四ツ谷」東京メトロ丸ノ内線も利用可 徒歩8分

    東京逓信病院 内分泌・代謝内科 部長

    かつた ひでのり

    内科、血液内科、外科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、感染症内科、消化器内科、内分泌内科、代謝内科、総合診療科、病理診断科

    東京都千代田区富士見2丁目14-23

    JR中央・総武線「飯田橋」西口 徒歩5分、東京メトロ有楽町線「飯田橋」B2a出口(東京メトロ南北線も同様) 徒歩6分、都営大江戸線「飯田橋」A4出口(東京メトロ東西線も同様) 徒歩9分

    武蔵野赤十字病院 内分泌代謝科部長

    すぎやま とおる
    杉山先生の医療記事

    14

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器科、呼吸器外科、消化器科、腎臓内科、循環器科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、内分泌科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、緩和ケア内科、腫瘍内科、感染症内科、代謝内科、膠原病内科、頭頸部外科、総合診療科、病理診断科

    東京都武蔵野市境南町1丁目26-1

    JR中央線(快速)「武蔵境」南口  小田急バス、ムーバス(境南東循環):武蔵野赤十字病院下車 徒歩10分

    関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が41件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「糖尿病」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。

    メディカルノートをアプリで使おう

    iPhone版

    App Storeからダウンロード"
    Qr iphone

    Android版

    Google PLayで手に入れよう
    Qr android
    Img app