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マグネシウム不足の影響-インスリン抵抗性を介して糖尿病の原因に!そして突然死にも関連

マグネシウム不足の影響-インスリン抵抗性を介して糖尿病の原因に!そして突然死にも関連
菊池 健次郎 先生

札幌南一条病院 循環器・肝臓内科 顧問、旭川医科大学名誉教授

菊池 健次郎 先生

マグネシウム(Mg)はNa,K-ATPase(Naポンプ)、Ca-ATPase(Caポンプ)などATPが関わる酵素、Superoxide dismutase(SOD:活性酸素消去酵素)、核酸代謝酵素、アデノシン産生酵素、糖及び脂質代謝酵素など約300種類の酵素の補酵素(酵素のはたらきをサポートする物質)で、生体機能の維持、特に、抗酸化・抗炎症・抗動脈硬化・心筋保護・インスリン作用発現などに不可欠な必須ミネラルの1つに挙げられています。また、Mgは天然のL型及びN型カルシウム拮抗薬として血管拡張・降圧・交感神経からのノルアドレナリン放出や副腎からのアルドステロンの過剰な分泌の抑制にも大きく関わっています。体内のMgが不足すると、これらのはたらきが悪くなり、メタボリックシンドローム(メタボ)や2型糖尿病の発症、糖尿病性腎症の悪化、高血圧、血管の石灰化の進行、心筋虚血や危険な不整脈による突然死のリスクを高めるなど、さまざまな悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

今回は最近注目されているメタボや糖尿病、特に糖尿病発症及びその病態に関わるマグネシウムの意義について、旭川医大名誉教授・札幌南一条病院 循環器・腎臓内科 顧問の菊池健次郎先生にお話しいただきました。

日本人における推奨されるマグネシウム摂取量は、成人男性では1日370 mgとされています。しかし、厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査では、日本国民のマグネシウムの摂取量は、1945年〜2015年までご覧の通り、横ばいで平均:約250 mgと推奨量の2/3の摂取量に留まり、慢性的なマグネシウム摂取不足状態にあります。

 

日本人のカルシウムとマグネシムの摂取量

マグネシウムは食事中のミネラルとして摂取、消化管から吸収され、体内で平衡状態になり、余った分は腎臓から排泄されます。従って、マグネシウム不足には摂取量の不足、消化管からの吸収低下、腎臓から尿への排泄増加などが原因となります。

マグネシウム摂取不足は2型糖尿病発症のリスクを高め、これには炎症性サイトカイン増加とインスリン抵抗性が関わることが、18-30歳の糖尿病のない4,497人を前向きに20年間追跡したアメリカの2010年の研究により明らかにされました。諸因子を補正後もマグネシウムの摂取量を増加することで、2型糖尿病の発症を47%も減少できたのです。

 

マグネシウムと糖尿病との関係

日本でも2010年に現大阪大学の磯博康先生の研究チームが40-65歳の糖尿病のない日本人、17,592人を5年間追跡し、同様の研究結果を発表しています。多くの因子を補正してもマグネシウムを多く摂取することにより2型糖尿病の発症を36%低下する、つまり、日本人でもマグネシウム摂取不足が2型糖尿病発症のリスクを高めることが示されました。

 

マグネシウムとメタボの関係

また、アメリカでは2006年に18-30歳の健常人4,637人を15年間追跡した疫学研究により、マグネシウム摂取が少ないと糖尿病予備軍ともいえるメタボの発症リスクが大きく高まることが報告されています。つまり、マグネシウムの摂取量が多い人は、少ない人に比べて、種々の因子を補正してもメタボの発症が31〜51%も低率でした。これらの成績から、マグネシウムの摂取不足がメタボや2型糖尿病の発症リスクを高めることが明らかになりました。

菊池健次郎先生

では、なぜマグネシウム不足が持続すると糖尿病になり易くなるのでしょうか。マグネシウムが不足すると血糖を下げるインスリンの作用が減弱・インスリン抵抗性が高まり、血糖が上昇します。そして、インスリン抵抗性が生ずるとマグネシウムが尿中に多く失われ易くなり、摂取不足とあいまってマグネシウム不足・インスリン抵抗性が増悪、糖尿病に進行してしまいます。

インスリンは膵臓のランゲルハンス島という組織にあるベータ細胞で作られるホルモンで、食事によって上昇した血中の糖分(グルコース)を脳や肝臓、腎臓、筋肉、脂肪細胞などの組織に取り込む作用があります。インスリンにより取り込まれた糖分は、エネルギー源として、また、たんぱく質や脂質の合成に、エネルギー不足時の備えとしても使われます。マグネシウムが不足するとこのインスリンの作用が弱まり、肝臓や腎臓、筋肉、脂肪細胞などに糖分を取り込みにくくなり、この様な状態を「インスリン感受性の低下」あるいは「インスリン抵抗性」と呼びます。インスリン抵抗性が出現すると、糖分を筋肉などの組織にうまく取り込めなくなり、その結果、血糖値が上がります。それを何とか正常に保つために膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞にインスリンの分泌をさらに高める様、刺激が出されます。これが長期化するとベータ細胞が疲れ切ってしまい、インスリンを分泌する力が大きく低下し、自力で血糖を正常にコントロールできなくなり、最終的には糖尿病に進展することになります。2型糖尿病はインスリン抵抗性の持続とインスリン分泌量の減少により、発症することになります。

糖分(グルコース)を最も多く消費するのは脳と骨格筋、腎臓であるとされており、マグネシウムは特に骨格筋がグルコースを効率よく取り込み、エネルギー産生回路を円滑にし、ATPを産生、利用する手助けをしています。

 

マグネシウムとインスリン感受性との関係

少し難しいお話になりますが、インスリンが骨格筋にグルコースを効率よく取り込むために、マグネシウムは次のようなはたらきをしています。

まず、血中のマグネシウムはインスリンが骨格筋の細胞の表面にある「インスリン受容体」に結合し易くしています。インスリンが正常に働くためにはインスリン受容体にしっかり結合しなければなりません。血中のマグネシウムが不足しているとこの結合がうまくゆかなくなります。インスリンがインスリン受容体にしっかり結合すると受容体がリン酸化され、血中の糖分(グルコース)を骨格筋細胞内へ取り込む輸送体GLUT4を細胞膜に移行させ、血中のグルコースを骨格筋へ取り込み、エネルギー源として効率よく使えるようになります。一方、インスリン受容体のリン酸化、GLUT4の細胞膜への移行には細胞内の十分なマグネシウムの存在が不可欠で、細胞内マグネシウムが不足するとこの働きがうまくゆかなくなります。従って、血中および細胞内のマグネシウムが不足すると、糖分(グルコース)を骨格筋に効率よく取り込みエネルギー源として使うことができなくなる、つまり、インスリンが効きにくい、抵抗性が生ずることになります。

遠位部腎尿細管でのマグネシウムの再吸収には、陽イオン輸送体である「TRPm6」が必要で、このTRPm6の産生にはインスリンが大きく関わり、インスリン抵抗性状態ではTRPm6が作られにくくなります。TRPm6産生が減少すると腎尿細管でマグネシウムが効率よく再吸収できなくなり、マグネシウムの尿中排泄が増加し、マグネシウム不足が持続することになります。つまり、マグネシウム不足がインスリン抵抗性を引き起こし、このインスリン抵抗性がさらにマグネシウム不足を招き、悪循環が形成されると考えられます。
 

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