インタビュー

糖尿病の原因と症状、合併症とは―トイレの回数が多い・口が渇く・水をよく飲む、当てはまったら要注意?

糖尿病の原因と症状、合併症とは―トイレの回数が多い・口が渇く・水をよく飲む、当てはまったら要注意?
橋本 尚武 先生

東京女子医科大学八千代医療センター

橋本 尚武 先生

この記事の最終更新は2017年05月29日です。

膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンは、体内で唯一血糖値を下げる働きを担っているホルモンです。しかし、そのインスリンに障害が生じると、血液中の糖が増加して高血糖の状態が続き、糖尿病となります。主な自覚症状は、多尿・口渇(口のなかや喉が激しく乾くこと)・多飲です。そして、糖尿病は、体のあちこちに様々な合併症が引き起こされる全身病でもあります。

今回は、東京女子医科大学八千代医療センター副院長の橋本尚武先生に、糖尿病の原因から症状、合併症の危険性を中心に、お話しをうかがいました。

人ごみ

糖尿病とは、血糖値を下げる働きをするインスリンというホルモンに何らかの障害が生じ、正常な血糖値よりも高い数値の状態が続く疾患です。正常な血糖値は、空腹時で110mg/dL、食後でも200mg/dlを超えることはありません。そのため、それ以上の血糖値が続く場合は、糖尿病または、糖尿病が疑われる状態といえます。

平成24年に厚生労働省が日本で行った国民健康栄養調査の結果では、糖尿病を強く疑われる、または、糖尿病と診断され現在治療を受けているHbA1c*6.5以上の方は、約950万人でした。また、糖尿病の可能性が否定できないHbA1c6以上の方は、約1100万人であり、両方を合わせると約2050万人となります。糖尿病はとても身近な疾患なのです。

*血液内で処理させずに余った血糖は、赤血球のなかにあるヘモグロビンと結合します。そして、血糖とヘモグロビンがどのくらい結合しているのかを表すものがHbA1cです。HbA1cを測定することで、過去1~2か月の血糖値がわかります。

糖尿病には大きく、1型糖尿病2型糖尿病妊娠糖尿病、その他の糖尿病の4種類に分類され、種類により原因が異なります。

1型糖尿病は、遺伝やウイルス感染などにより、インスリンを分泌している膵臓の細胞であるβ細胞が、徐々に、あるいは急に壊れてしまうことが原因です。これにより、体内でインスリンを生成できなくなります。インスリンは、唯一体内で血糖値を下げる働きをする細胞のため、インスリンが分泌されなくなると血糖値が上昇したままとなり、糖尿病となります。

1型糖尿病の患者さんは、体内でインスリンを作り出すことがほとんどできなくなってしまうので、インスリンを補給するインスリン注射を長期的に続けなくてはなりません。

日本の糖尿病患者さんの約95%以上は2型糖尿病です。2型糖尿病には、インスリン分泌の低下はさほどないもののインスリンの働きが悪いというものと、インスリンの働きは悪くなっていないが、分泌が低下しているという2種類のパターンがあります。

2型糖尿病の原因は、遺伝因子と環境因子があります。糖尿病発症と関係のある遺伝子はいくつか存在し、その遺伝子が多く集まれば集まるほど糖尿病を発症しやすくなります。また、環境因子としては、運動不足と食の欧米化などが関係しています。

運動不足

すでに会社を定年された方などは、時間にも余裕があり、普段から体を動かしている方も多いと思われます。しかし、現役で働いている方は、運動する時間がないといった問題などから運動不足になりやすい傾向があります。

食生活の欧米化

食生活では、日本食から欧米の食事へと変化し、脂質の摂取量が増加したことも原因の一つと考えられています。また、データとして証明されているわけではありませんが、私自身が患者さんからうける印象として、独身の男性は、ファーストフードなどを食べる機会が多いため、肥満になる方が多く、糖尿病を発症しやすい傾向にあるように感じます。

妊娠糖尿病は、血糖上昇は軽度のため、75g糖負荷試験という検査を行い診断されることがほとんどです。

そして、薬剤の影響や、慢性膵炎でインスリンの分泌が低下するといった原因で血糖値が上昇してしまった場合を、その他の糖尿病と分類します。

まず、血液中に多くなった糖を尿から排出する動きが強まるため、多尿となります。そして、多尿により体内の水分が奪われるため口渇(口のなかや喉が非常に乾くこと)となり、水分を補給するために多飲するのです。糖尿病1型、2型、妊娠糖尿病は、この一連の流れが主な自覚症状です。

1型糖尿病の場合は、このような自覚症状が比較的早い段階で現れます。しかし、2型糖尿病はゆっくりと時間をかけて血糖値が上昇していくため、ある程度進行した状態になるまで、自覚症状が現れません。その結果、血糖検査を行うまで糖尿病を見つけられないこともあり、発見が遅れてしまうことも少なくありません。

糖尿病を発症した場合、高血糖により全身の疾患にかかりやすくなるため、体の至る箇所に合併症が現れます。そのため、糖尿病は全身病といえます。

糖尿病腎症、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害は糖尿病の三大合併症と呼ばれています。

糖尿病腎症

腎症は、糖尿病による透析導入の原因の1位となっています。腎臓の働きが低下し体内の老廃物を尿として排出できなくなるほど重症化してしまった場合は、透析治療が必要となります。透析治療とは、下の図のように、血管に採決用と返血用の針を刺し、人工腎臓とつなぎ、血液から老廃物を除去し、綺麗になった血液を体内に戻すというものです。1週間に3回程度通院し、4~5時間かけて透析を行います。

糖尿病腎症で透析治療を受けている患者さんは年々増加しています。しかし、早期発見できれば、医師による様々な介入により、透析導入になる前に進行を抑えることができます。糖尿病の患者さんは、腎症の検診に積極的に参加していただくことが大切です。

糖尿病網膜症

高血糖状態が続くと、網膜の血管が損傷を受け、血管が変形したり詰まったりし、出血を引き起こす疾患を糖尿病網膜症といいます。症状が進行すると視力低下や最悪の場合、失明に至ることもあります。眼科にて定期的な眼底検査を受けることによって早期発見・治療ができ、視力障害のリスクを大幅に軽減できます。

糖尿病神経障害

高血糖により、手足の末梢神経の働きが低下します。手足の痺れなどの症状があり、感覚が鈍くなっていく疾患です。

糖尿病合併症は上記の3大合併症だけではありません。血糖値が高いと免疫力が落ちるため、肺炎球菌感染症*などの肺炎や尿路の感染症にもかかりやすくなります。また、心筋梗塞脳卒中、大きく含めると、歯周病認知症サルコペニア(老年症候群の1種であり、加齢に伴う筋力低下のこと)や骨折も、糖尿病の合併症に含まれることもあります。

*肺炎球菌という菌によって引き起こされる疾患で、重篤化すると気管支炎や肺炎といった合併症を起こすこともあります。

橋本尚武先生

糖尿病を過去に患ったことのある、または、現在患っている患者さんは、糖尿病になったことのない患者さんと比較すると、男性は約1.27倍、女性は約1.21倍がんを発症しやすいということが、国立がん研究センターの研究によりわかっています。

その理由などについては、

記事2『糖尿病にかかるとがんになりやすい?糖尿病とがんの関係性から治療、予防法まで』で詳しくお話しをうかがいます。

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