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慢性膵炎に対する膵切除術に伴う自家膵島移植――標準的な治療でも取れない強い痛みに対する新たな治療とは

慢性膵炎に対する膵切除術に伴う自家膵島移植――標準的な治療でも取れない強い痛みに対する新たな治療とは
霜田 雅之 先生

国立国際医療研究センター病院 膵島移植診療科 診療科長、膵島移植センター センター長、国立国際...

霜田 雅之 先生

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長期間にわたり膵臓(すいぞう)内に炎症が繰り返し起こることで、腹部や背中に強い痛みをきたす慢性膵炎。進行すると血糖値のコントロールが難しくなり、糖尿病を発症することもある病気です。

段階に応じて内科的治療や内視鏡治療、手術などを行いますが、手術を行っても治療効果が不十分な場合もあります。このように慢性膵炎の患者さんに対して、“膵切除術に伴う自家膵島移植”という新たな治療が先進医療の臨床試験として実施され始めています。

今回は、国立国際医療研究センター病院 膵島移植診療科 診療科長の霜田 雅之(しもだ まさゆき)先生に、慢性膵炎に対する治療、膵切除術に伴う自家膵島移植の流れや注意点などについてお話を伺いました。

膵臓にはインスリンをはじめとするホルモンを産出する内分泌機能と、食べ物の消化・吸収を助ける膵液という消化酵素を分泌する外分泌機能という2つの機能があります。通常、膵液は膵臓の中では作用せず、小腸に流れ込むと活性化してはたらくようになります。しかし、何らかの原因で膵臓の中で膵液がはたらいてしまうと膵臓自体が溶けてしまい、炎症(膵炎)をきたすことがあります。

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写真:PIXTA

急激に起こった膵臓の強い炎症を急性膵炎、長期間にわたって繰り返し起こる膵臓の炎症を慢性膵炎といいます。慢性膵炎では、腹部や背中の痛みとともに吐き気、下痢といった症状が現れます。

炎症の原因が明らかであれば、まずはその原因を取り除く必要があります。たとえば、アルコールが原因であれば禁酒を、膵管に膵石が詰まっていることが原因であれば内視鏡で膵石の除去を行います。それでも痛みが続くようであれば、食事療法や痛み止め・消化剤を服用するなどの対症療法を行いますが、これらの治療でも改善がみられない場合には手術が検討されます。

主な手術方法は、膵切除術(炎症が強い部分を切除する手術)と、膵管ドレナージ手術(膵液の流れをよくする手術)です。なお、膵臓全体に炎症が広がっているケースでは膵臓を全て切除する膵全摘術が行われることもありますが、血糖コントロールの難しい糖尿病になる可能性が高いため日本ではあまり実施されていません。

膵臓を全て切除するのは体への負担が大きいことに加え、膵臓の内分泌機能を失ってインスリンを作れなくなり、血糖コントロールが非常に難しい糖尿病を発症することにつながります。しかし、ほかの治療を行っても強い痛みが取れない慢性膵炎の患者さんは膵臓の全摘術が検討されます。

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膵臓の全摘出あるいは一部を切除する症例に対して、糖尿病の発症予防や血糖コントロールをしやすくするために新たに開発されたのが自家膵島移植です。自家膵島移植では切除した患者さんの膵臓から膵島のみを回収し、カテーテルという細い管を門脈(胃や腸などの腹部の臓器から肝臓に流れる静脈)に入れて、膵島を肝臓に注入します。すると、膵島は肝臓に生着し、血糖値に応じてインスリンを分泌するようになります。

本手術を受ける患者さんの多くは長年の慢性膵炎により膵島も障害され、手術時にはすでに糖尿病予備軍になっています。そのため、膵切除術に伴い自家膵島移植を行うことで糖尿病を発症せずに済む方は少ないものの、インスリン療法で血糖値をコントロールしやすくなるという効果が期待できるでしょう。

現在は当院のみで実施できる治療ですが、将来的には保険診療で実施できるようになることを目指しています(2024年1月時点)。膵切除術に伴う自家膵島移植の適応基準は以下になります。

  • 強い痛みを伴う慢性膵炎、あるいは膵動静脈奇形によって膵切除術が検討される場合
  • 上記の病気について、これまでの治療で効果がない、または効果が不十分であった場合
  • 18歳以上70歳以下であり、同意が得られている方

膵島移植は、インスリンを体内でほとんど作れなくなっている1型糖尿病の患者さんにも行われる治療です。この場合、ドナーの方から提供いただいた膵島を開腹することなく移植するため、患者さんの負担が少ない治療といえます。それに比べて、膵切除術に伴う自家膵島移植では開腹手術を伴うので、患者さんの体への負担は格段に大きくなります。

そのため、手術に耐えられる体力があるかどうか、全身の状態や血糖値、肝機能などに問題がないかを手術前に検査します。検査の結果、手術適応がある場合には膵切除術に伴う自家膵島移植を行う流れになります。

まず腹部を大きく切開し、膵臓の一部または全てを摘出します。その後、摘出した膵臓から膵島のみを回収し、門脈に挿入したカテーテルを通して膵島を肝臓に移植します。

慢性膵炎の患者さんの中には手術前から血糖値に異常がある方もいます。また、手術前は血糖値が正常だった患者さんも自家膵島移植を行うことにより、膵切除術だけを行った場合に比べると糖尿病はかなり軽減されます。しかし、もともとあった膵島を全て回収・生着できるわけではないため、膵切除術と自家膵島移植を受けた後に糖尿病になってインスリン療法が必要になる方も多いです。ただし、膵島がまだ多く残っていて膵臓の変性も少なかった一部の患者さんでは術後も糖尿病にならずに済むことがあります。

そのため、個人差はあるものの、当院では術後の経過観察と糖尿病教育入院とを併せて3週間ほど入院いただく場合が多いでしょう。

膵臓を全摘出した多くの場合、疼痛(とうつう)が和らぐとともに慢性膵炎に伴う食事制限をしなくても済むようになります。また、慢性膵炎が起こることが物理的になくなるため、再発の恐怖から解放されるでしょう。

膵切除術に伴う自家膵島移植を行うことで、糖尿病の発症を防いだり血糖値を安定させたりする効果が期待できます。なお、慢性膵炎に対する自家膵島移植では患者さん自身の膵島を移植するので、拒絶反応を防ぐための免疫抑制薬は不要です。

膵切除術に伴う自家膵島移植に関する合併症は、膵切除術によるものがほとんどです。膵臓を切除すると消化・吸収がうまくできなくなり、下痢や脂肪肝を起こす場合があります。また、食欲が減退したり、食べすぎると腹痛や吐き気を催したりすることがあるため暴飲暴食は控えたほうがよいでしょう。

自家膵島移植による合併症としては、まれに門脈塞栓や出血が起こることが報告されているため注意深く治療にあたるようにしています。

術後の痛み

膵切除術に伴う自家膵島移植を行えば、慢性膵炎による腹部や背中の痛みは軽減することが多いでしょう。しかし、手術によって痛みが生じる方や、慢性膵炎を患っている期間が長いために周囲の神経に問題が生じており、手術前からある痛みが残ってしまう方もいます。こうした痛みには鎮痛薬を用いて治療を行います。

医療費・通院頻度

2024年1月現在、自家膵島移植の先進医療にかかる費用は研究費として補填されるので、基本的には患者さんの負担はありません。ただし、保険診療である膵切除術を含むその他の費用に関しては、通常どおり医療費がかかります。

また、慢性膵炎に伴う自家膵島移植は臨床試験として行っているため、患者さんは術後に頻繁に通院し、さまざまな検査を受けていただく必要があります。手術後の通院が可能かという点も考慮して、手術を受けるか検討いただきたいと思います。

慢性膵炎の患者さんの中には治療を行っても症状が改善されず、強い痛みに悩まされている方もいるでしょう。そういった慢性膵炎の患者さんには、ぜひ“膵切除術に伴う自家膵島移植”という治療法があるということを知っていただきたいと思います。

治療に興味を持った方や適応条件について詳しく聞きたいという方は、下記までお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

【問い合わせ先】
国立国際医療研究センター病院 膵島移植診療科
診療科長 霜田 雅之
電話:03-3202-7181(内線2776)
メール:mshimoda@hosp.ncgm.go.jp

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  • 国立国際医療研究センター病院 膵島移植診療科 診療科長、膵島移植センター センター長、国立国際医療研究センター研究所 膵島移植企業連携プロジェクト プロジェクト長

    霜田 雅之 先生

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