インタビュー

糖尿病とはどんな病気? “糖のながれ”を理解し、肝臓の役割に注目しよう

糖尿病とはどんな病気? “糖のながれ”を理解し、肝臓の役割に注目しよう
河盛 隆造 先生

順天堂大学 大学院医学研究科(文科省事業)スポートロジーセンター センター長、順天堂大学 大学...

河盛 隆造 先生

この記事の最終更新は2016年03月08日です。

糖尿病は、どの臓器の病気ですか」と聞かれたとき、皆さんはどのように回答しますか。インスリン分泌が低下していることから、当然「膵臓の病気」と答える方が多いでしょう。しかし、たとえ食事直後のインスリン分泌が遅延し量も少ないという体質をお持ちの人でも、肝臓のインスリン感受性が高ければ、食事摂取時の肝・ブドウ糖取り込み率が高く、夜間の肝・ブドウ糖放出率も過剰にならず、血糖応答はいつも正常です。しかし、脂肪肝などで肝でのインスリンの働きがわずかであれ低下すると血糖応答に乱れが生じます。糖尿病は「肝臓の病気」であるとも考えることができます。本記事では順天堂大学大学院医学研究科・特任教授の河盛隆造先生に、肝臓を中心とした糖尿病の考え方についてお話しいただきました。

健常人では長時間の絶食時にも、暴飲暴食しても血糖応答は狭い範囲に保たれます。私は刻々と変動する血糖値は“糖のながれ”の結果である、と捉えてきました。夜間絶食時にも脳、心筋など全身細胞は1時間当たり10gものブドウ糖を取り込み、利用しています。そのブドウ糖を肝が放出・供給しているのです。この両者が一致しているので、血糖値は下がりも上りもしません。目が覚め、手足を動かし始めると筋・ブドウ糖取り込み率は顕著に高まります。

一方、食事を見ただけで脳からの情報が膵に伝わりインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。食事が胃腸・消化管に入ってきたという物理的刺激がインクレチンを介してインスリン・グルカゴン分泌に影響します。食事中の炭水化物は腸で緩やかにブドウ糖に分解・吸収され肝に流入します。タンパクはアミノ酸に分解されますが、アミノ酸は、インスリンのみならずグルカゴン分泌をも刺激します。食事中は、ブドウ糖・インスリン・グルカゴンがカクテルになって肝に流入します。インスリンの働きで肝・ブドウ糖取り込み率が顕著に高まります。肝を通り抜けたブドウ糖により食後の血糖値が少々上昇しますが、そのブドウ糖はインスリンの働きで脳、筋、脂肪などの全身細胞に取り込まれ利用されます。さらにストレスや睡眠障害などは副腎からのホルモン分泌を高め、肝・ブドウ糖放出率を高めます。腎は貴重なブドウ糖を尿から逃がさないように必死でくみ上げているのです。これら臓器も“糖のながれ”に携わっているのです。

このように脳をはじめ全身臓器は、その機能を十分発揮するエネルギー源として、毎日300から700gものブドウ糖を利用しています。せめてその60%は炭水化物を摂取し、ブドウ糖を補充することが必須になるのです。さらに残りの脂質やタンパクからブドウ糖に変換し、有効利用するには、インスリンの作用が必須であることを留意すべきでしょう。

“糖のながれ”のどこかに乱れが生じると、血糖応答が異常になります。血糖値が高い状況が持続している方には、「全身細胞で大切なブドウ糖が、利用されていないために血管内にだぶついているのです。この状況を放置すると、例えば認知症など細胞の機能不全を惹起します。ブドウ糖を利用させ、その結果、血糖値が良好になるようにしましょう」と患者さんに伝えて、治療に専念してもらいましょう。

身体活動量に比べ過剰な摂食量が継続し、過体重状況になることが、2型糖尿病発症の引き金として多くみられます。脂肪肝・脂肪筋などによりインスリンの働きが低下すると、その臓器でのブドウ糖取り込み率が低下し、軽度の高血糖状況になる.すると膵β細胞はインスリン分泌を常に代償性に過剰に亢進させますが、この状況がインスリン分泌を低下させ、この両者が重なってますます血糖値を押し上げることになります。さらに膵β細胞に隣接する膵α細胞でのインスリンの働きが軽度であれ低下すると、肝・ブドウ糖放出率を高めるグルカゴン分泌が過剰になってきます。食事摂取時の門脈に流入するインスリン・グルカゴン・ブドウ糖のカクテルの比率が肝・ブドウ糖取り込み率を決定するのです。食後の高血糖は肝・ブドウ糖取り込み率低下を表現しているのです。

肝はブドウ糖を処理する最大の臓器であり、膵から分泌されたインスリンが働く最初の臓器でもあります。肝は余分なエネルギーをグリコーゲンや脂肪に変え貯えますが、肝でのインスリンの働きが低下すると、一気に血糖値上昇の引き金、推進因子になることが理解できましょう。

2型糖尿病と診断したときは、患者さんが「糖尿病放置病」にならないよう、速やかに的確な治療を施し、“糖尿病でなかった状況に戻ってもらう”べく、原因、病態、治療方針などを詳細に説明してあげることが大切なのです。

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