2型糖尿病は、肝臓をはじめ、多くの臓器機能異常が原因で発症している、と考えられます。では、2型糖尿病と診断された例において、どのように治療を開始していくべきなのでしょうか。順天堂大学大学院医学研究科特任教授の河盛隆造先生にお話しいただきました。
2型糖尿病が発症した際の最初の異常は、食後のみの高血糖です。この状況を放置していると、膵β細胞のインスリン分泌能が低下し、早朝朝食前の血糖値上昇も観察されるようになります。私たちは、食後高血糖は流入したブドウ糖を肝が十分取り込んでいないことが原因であることを証明し、2型糖尿病患者において肝・ブドウ糖取り込み率を高め、結果的に食後高血糖を正常化する手段を追究しました。
その結果、①肝へのブドウ糖の一気の流入を緩やかにすること、②肝でのインスリンの働きを高めること、③肝に速やかにインスリンを供給すること、④ブドウ糖流入時に肝をはさんで門脈側と静脈側のブドウ糖濃度勾配を大にすること、などが必要であることを証明してきました。さらに最近ここに、⑤肝へのグルカゴン作用を抑制すること、を加えました。このような手段を必要なら組み合わせて実践することにより、食後高血糖を是正することが可能で、その状況を維持していると、膵β細胞の内因性インスリン分泌が回復し、そのインスリンが肝に直接的に流入し、夜半の肝・ブドウ糖放出率を抑制し、早朝空腹時血糖値をも正常化することも、臨床の現場で証明してきました。
しかし、糖尿病患者さんの中には、「まずい食事内容を強要される」と誤解して、糖尿病と診断されていても受診しない方が少なくないのです。決してそのようなことはありません。実際に私が診ている患者さんの中には、糖尿病の治療を開始したことで、食材の成分や本来の美味しさを知り、かつバランスよく適量を選び、食べる習慣がつき、真の意味での「美食家」になった、とおっしゃる方が沢山います。
その方の日常生活での身体活動量と現時点での体重などを勘案し、摂取すべき適正エネルギー量を決めて指導します。今までの科学的根拠により明確となった、炭水化物60%、タンパク、脂肪それぞれ20%が最適にバランスとして強く推奨されます。
前述のように、肝・ブドウ糖取り込み率を高めて、食後の血糖値の上昇を抑えるべく、食事内容、食事の摂り方、間食の禁止に関して具体的に指導すべきでしょう。
●一気にブドウ糖が大量に肝に流入しないようにする。具体的には、果物のジュース(ブドウ糖50%:果糖50%がほとんどを占める)のような単純糖質を一気に大量摂取することを控える。
●食事の際には食物繊維を含む食材から先に食べ、その後の炭水化物の分解速度を緩やかなものにする。例えばパンの前にサラダを食べる、おでんを食べるときにはこんにゃくを最初に食べるなど。ブドウ糖を肝に緩やかに、2-3時間かけて流入することが、肝でのブドウ糖取り込み率を高めるのに有用なのです。
●食事と食事の間に砂糖の多いおかしを摂ると、血糖値が上昇し、十分低下する前に次の食事が入ってくると、食前の門脈―肝静脈のブドウ糖濃度勾配が小となり、肝・ブドウ糖取り込み率が低下し、食後高血糖を助長してしまいます。
糖尿病の治療法としての運動療法は、「ハードな運動の励行」ではありません。目的は発症の引き金となった運動不足を解消することなのです。実は今の多くの日本人は、過食のためだけではなく、日常生活での身体活動量が低下したためエネルギー消費が少なくなり肥満気味になってきているのです。余剰のエネルギー源は主に脂肪となり脂肪肝・脂肪筋を形成します。脂肪肝になると、夜間のインスリンによる肝・ブドウ糖放出率の抑制が不十分となり血糖値を上昇させます。一方で、食後のインスリンによる肝・ブドウ糖取り込み率が低下し、食後高血糖の原因になります。GOT(AST)値20 IU/L以上の例では、実は詳細に検索すると脂肪筋を呈しており、筋・ブドウ糖取り込み率が低下し、血糖値を押し上げていること、僅か10日間の脂肪制限と歩行励行で、脂肪肝・脂肪筋が顕著に改善し、それにつれてブドウ糖取り込み率が高まることを、私どもスポートロジーセンターの研究から発表しています。
●デスクワークの人はこまめに立ったり歩いたりする。
●昼休みは会社内や喫茶店などでじっとしているのではなく、町中を速足で歩く。
など、日常生活で体をまめに動かすこと、などすぐに実行できることを継続し、肝や筋の脂肪蓄積量を改善することが必要なのです。
このような食事・運動療法を励行しても、インスリンの働きが不十分である際には、薬剤治療により良好な血糖応答を維持し、その結果として膵β細胞インスリン分泌能力を回復させ、発症前の状況に速やかに戻れるようにすべきではないでしょうか。現実の診療でも正常血糖応答を再現していると薬剤が不要となっても、いい状況が続いているケースを多く経験しておられることでしょう。
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