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糖尿病治療と仕事を両立するために——中部ろうさい病院における両立支援の取り組み

糖尿病治療と仕事を両立するために——中部ろうさい病院における両立支援の取り組み
中島 英太郎 先生

独立行政法人労働者健康安全機構 中部労災病院 糖尿病・内分泌内科部長

中島 英太郎 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年05月17日です。

「治療のために仕事を休むことができない」、「病気について職場の理解が得られない」など、病気の治療と仕事の両立に悩んでいる方は多くいらっしゃいます。そのような方に対し、中部ろうさい病院では「治療と仕事の両立支援」に取り組んでいます。特に、糖尿病分野においては、全国の労災病院をリードする中心的な役割を担っています。

今回は、仕事を持つ糖尿病患者さんが抱える問題点と、中部ろうさい病院が行う両立支援について、同病院 糖尿病内分泌内科・糖尿病センター部長である中島英太郎先生にお話を伺いました。

当院の運営母体である独立行政法人労働者健康安全機構は、「がん糖尿病脳卒中・メンタルヘルス」の患者さんが治療と仕事を両立することを支援しています。2019年からは、これらの4分野にかかわらず、何らかの病気を抱えながら働く全ての人に対して両立支援を行っています。

当院でも、治療就労両立支援センターを設置し、勤労者に対する両立支援に取り組んでいます。特に糖尿病分野においては、全国の労災病院で行われた支援事例の集積・分析・評価を行う施設として、中核的な役割を担っています。

当院の活動内容としては、患者さんに対する直接的な支援活動はもちろん、中核的施設として院外での活動にも積極的に取り組んでいます。たとえば、日本糖尿病学会学術集会での合同シンポジウムへの参加や、糖尿病の両立支援をテーマとした勤労者医療フォーラムを2年に1度開催しています。

また、中小企業の経営者が集まるライオンズクラブと提携して、糖尿病治療と仕事の両立に向けた啓発活動も行っています。そのなかで、中小企業経営者の会員に対して、糖尿病治療に関する知識や会社の休暇制度などに関するアンケートを作成し、その結果を日本糖尿病学会学術集会で発表予定(2019年5月)であるなど、両立支援の充実・発展のために活動しています。

両立支援の内容についてお話しする前に、糖尿病治療と仕事を両立するうえでの問題点についてお話しします。

糖尿病治療と仕事を両立するうえでの最大の問題点が、「通院を中断してしまう方が多い」ということです。これには、糖尿病という病気に対する世間のイメージが大きく関係しています。

糖尿病というと、「食べ過ぎ、太り過ぎ」など、生活習慣の自己管理ができていないことが原因で起こる病気だと思われがちです。しかし実際には、生活習慣だけが原因ではありません。糖尿病の約90%を占める2型糖尿病は、遺伝的な要因も大きく関与しています。両親が糖尿病の場合には、約70%の確率で子どもに遺伝するともいわれています。また、1型糖尿病は、すい臓から血糖を下げるホルモンであるインスリンが、自己免疫の問題で分泌されなくなるために起こる病気であり、生活習慣とは無関係に発症します。

それにもかかわらず、糖尿病であることを「自己責任」のみと捉えてしまい、通院しづらくなったり、通院のための休みを申し出ても職場の理解が得られなかったりして、通院時間を確保できない方が多くいらっしゃいます。実際に年間約8%の患者さんが、通院を中断されています。特に、仕事を持っている若年男性ほど、中断される方が多いという報告もあります。

糖尿病の治療では、通院を継続し、血糖値のコントロールを行うことが何よりも重要です。通院を勝手にやめて、治療を中断してしまうことで、重大な合併症を引き起こす恐れがあります。たとえば、腎不全で人工透析*が必要となったり、末梢神経障害で下肢の切断を余儀なくされたりすることもあります。

ただし、これらの合併症が発症するまでには長い時間がかかるため、患者さんご自身が病気に対する危機感を抱いていないこともあります。そのため、治療よりも今日やるべき仕事が優先となってしまい、通院を中断してしまうケースもあるようです。

このような問題を踏まえたうえで、仕事を持つ糖尿病患者さんに対する支援を行う必要があります。

*人工透析…腎臓の代わりに、機械を使って人工的に血液をろ過する治療

それでは、当院で行っている糖尿病治療と仕事の両立支援についてお話しします。

支援の流れ

両立支援を始めるにあたり、まず、仕事を持っている糖尿病患者さんに対して、仕事で困っていることがないかどうかアンケートを取ります。次に、困っていることがある、相談したいことがあると回答した患者さんに対して、糖尿病の両立支援のコーディネーター(日本糖尿病療養指導士:CDE-Jの資格を持つ看護師)が面談を行います。その後、医師や看護師など多職種でカンファレンスを行い、今後の治療方針や職場への依頼事項などを決定します。そして、決定した内容を「就労と糖尿病治療 両立支援手帳」に記載します。

両立支援手帳
▲就労と糖尿病治療 両立支援手帳

当院では、両立支援手帳を用いて、病院と職場との間で、患者さんの病気について情報交換を行います。カンファレンスを実施したうえで、現在の病状や今後の治療方針、職場へのお願いなどを、主治医が両立支援手帳に記載し、それを患者さんから職場へ提示していただきます。職場の方には、患者さんから出された両立支援手帳を確認し、主治医への回答や問い合わせを記載してもらいます。職場の誰に提示するかは患者さんご本人に決めていただいていますが、通院のための休暇取得の配慮をしてもらいやすいよう、直属の上司に確認・返答いただくことを推奨しています。

これまでに、両立支援を受けられた方々から、以下のような声をいただいています。

  • 職場で病気について相談できるようになった
  • 上司に病気について納得してもらえた
  • 仕事の配置や調子が悪いときの都合がつきやすくなった
  • 低血糖時の対応がしやすくなった
  • 自分から言えないことを伝えられたのがよかった
  • 上司が糖尿病の状況を理解してくれるようになった
  • 主治医のコメントに対して会社が真剣に対応してくれた

などです。

中島先生

糖尿病治療と仕事の両立支援を行ううえで、いくつかの課題があります。そのひとつが、病院と職場の間での両立支援手帳のやり取りに時間がかかるということです。早い場合でも3か月ほど、遅いと半年ほど時間がかかることがあります。

このやり取りをスムーズに行うために、中部ろうさい病院では糖尿病患者さんに対するオンライン両立支援を開始し、インターネット上で両立支援手帳をやり取りする試みを始めています。また、オンライン診療を導入することで、忙しくてなかなか通院の時間を確保できない方も、職場で診療を行うことが可能となりました。

引き続き、記事2『中部ろうさい病院で行うオンライン両立支援』では当院におけるオンライン両立支援の取り組みについてお話しします。

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  • 独立行政法人労働者健康安全機構 中部労災病院 糖尿病・内分泌内科部長

    中島 英太郎 先生

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