異所性脂肪とは、本来溜まるべき場所ではない臓器や筋肉に蓄積される脂肪のことをいい、糖尿病や動脈硬化などの疾患につながることがあります。このため、疾患を防止するためには、異所性脂肪をいかに落とすかが重要になります。今回は、九州大学/東京医科歯科大学の教授である小川 佳宏先生に、異所性脂肪の落とし方や治療法についてお話しいただきました。
記事1『内臓脂肪・皮下脂肪・異所性脂肪の違いと特徴-糖尿病などにつながる危険もある異所性脂肪とは』では、異所性脂肪の概要や、内臓脂肪・皮下脂肪と異所性脂肪の関係についてお話しいただきました。
異所性脂肪を落とすためには、内臓脂肪や皮下脂肪が過剰に蓄積しないよう心がけることが重要になります。具体的には、食事や運動が有効になるでしょう。食事の量を減らすなど摂取カロリーを減らすことで脂肪は減らすことができます。しかし、食事療法のみを行い運動をしていない状態であると、筋肉が減ってしまいます。また、急速に体重が減少すると、同時に筋肉も減少してしまいます。筋肉が減少すると、近年、高齢者を中心に問題となっているサルコペニア(骨格筋力の低下を特徴とする症候群)を助長する危険性があります。そのため、筋肉の減少につながらないよう徐々に体重が減少するよう取り組むことに加え、運動を合わせて行うことが重要であるでしょう。
具体的な運動法としては、負荷が大きなものではなく、効率よくできるものがよいでしょう。基本的には、呼吸をしながら運動をおこなう有酸素運動が有効です。ジョギングや会話をしながらできる運動を継続しておこなうことをお勧めします。1か月間全力で運動をし、その後しなくなるなど、短期間で一度に負荷の高い運動をすると、リバウンドの可能性が高くなってしまいます。継続できるような運動に取り組むことが重要でしょう。
食事は量や内容を見直すことで脂肪の減少につながります。近年では、炭水化物を減らす低炭水化物食が流行しており、実行することで痩せることができるでしょう。しかし、必要以上に糖分を減らしてしまうことはよくありません。そもそも糖分をあまりとっていない方が低炭水化物の食事にすることで痩せすぎるというのは危険です。特に、骨の量は20歳までに決まるといわれており、それ以降は骨の量は減る一方です。このため、20歳までにある程度丈夫な骨をつくっておくことは、非常に大切です。食事を見直すことにより痩せることは重要ですが、痩せすぎには注意してほしいと考えています。
また、運動療法や食事療法に関連するものに、行動療法があります。たとえば、単純に食事を減らすのではなく、「一度に食べてしまう」という癖を治すということです。いつ、どんな風に食事をしているのか、という習慣や、イライラすると甘いものを食べる癖があるなど、その人それぞれの癖を観察し行動を把握することで、有効となる食事や運動の方法を提案するものです。運動療法や食事療法を実施する際には、より個人に合うよう行動療法を組み合わせることも有効であるでしょう。
肥満である一定の基準を満たしている場合には薬物治療を行うこともありますが、日本では現在、臨床的に使用可能な抗肥満症薬は少なく、適応されることは少ないでしょう。
BMI 35以上でいくつかの合併症を持つような患者さんであると、肥満症という疾患名がつきます。この肥満症になると、外科的治療が適応される場合があります。昔、一時的に脂肪吸引などの治療法がありましたが、合併症やリバウンドを引き起こすことも多く、私は有効な治療法ではないと考えています。
また、外科的治療では、胃の容量を狭める胃切除があります。これは、肥満の合併症など一定の条件を満たした場合には保険適用が認められている治療法です。この胃切除は食事の量を減らすためには有効な治療法ですが、その一方、ビタミンなどの吸収が悪くなるなどの弊害も考えられるので、実施には専門家の慎重な判断が必要となります。
高齢になるということは、女性も閉経後の寿命が長くなるということです。記事1でお話ししたように、女性は閉経後には内臓脂肪が増えるといわれています。男性も高齢になると筋肉量が減り、近年問題になっているサルコペニアが増えるといわれています。サルコペニアは筋肉が減少することで身体機能の低下が起こる状態を指します。
このような状態になると、筋肉で脂肪を消費することができない上に、運動も困難になり最終的には内臓脂肪や異所性脂肪の蓄積につながりかねません。このように、高齢化が進めば進むほど、脂肪肝の方が増加し、そこからNASH (Nonalcoholic steatohepatitis:肝臓に脂肪が蓄積することで起こる肝炎)や肝臓がんにつながる可能性があります。高齢化の進行とともに、今後はさらなるケアが重要となるでしょう。
記事1において、日本人は皮下脂肪が蓄積しにくいため異所性脂肪が溜まりやすく、結果として糖尿病などの疾患に罹患する方が多いとお話ししました。実際に、肥満が多いアメリカと比較しても、人口当たりの糖尿病の人数は、あまり変わらないのです。
その理由の一つが、日本人は膵臓のβ細胞(ベータ細胞)から分泌され、高血糖を防ぐインスリンの予備能(余力)が少ないからであるといわれています。そのため、日本人はそれほど太っていなくても糖尿病になりやすいのです。実際に、アメリカではBMIが高い方が糖尿病になる傾向があるのに対して、日本の糖尿病患者さんのBMIは、糖尿病ではない方とほぼ同じであるということがわかっています。
日本人は本来溜めるべき皮下脂肪に脂肪を蓄積しにくいという性質がありますが、本来溜めるべき脂肪組織にしっかり脂肪を溜めることができれば、異所性脂肪の蓄積を防ぐことができます。私はその結果、日本人の糖尿病を減らすことができるのではないかと考えています。そのため、皮下脂肪へ蓄積しやすい体質に変える方法を模索しています。
生活習慣病というのは、生活習慣を改善することで徐々によくなるものです。しかし、一気に改善することは難しいため、いかに長続きさせるかが非常に重要になります。たとえば、急に激しい運動を始めてもストレスになってしまったり、長続きしないようでは意味がありません。継続するためには、楽しみながら取り組むことが大切なのではないでしょうか。
たとえば、家族に協力してもらったり、友人同士でともに取り組むことも有効でしょう。
できることを継続して続けることが重要になります。もちろん、重篤な疾患に罹患してしまった場合には、生活習慣を改善するだけでは治療が難しいこともあるでしょう。そのような場合には、薬剤治療や外科的治療を取り入れる必要もあるかもしれません。このような場合にも、主治医の意見をもらいながら、途中で中断することなく継続的に治療を受けることが重要になります。
九州大学 大学院医学研究院病態制御内科(第三内科) 教授
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