妊娠糖尿病とは妊娠中に初めて発見された・または発症した、糖尿病にまで至っていない段階の糖代謝異常です。妊娠前は何ら異常が無かった女性でも、ホルモン分泌の変化などによって血糖値が上がりやすくなり、妊娠糖尿病を発症する可能性があります。妊娠糖尿病になると胎児にも影響が出ることがあるため、妊婦さんは食事内容を意識することが必要です。妊娠糖尿病の食事療法について、横浜労災病院 栄養管理部の張 日怜さんにご説明していただきました。
妊娠していないときの血糖値は正常な方でも、妊娠をきっかけとして、血糖値が高い状態が続いてしまう糖代謝異常が起こることがあります。この状態を妊娠糖尿病といいます。
妊娠中に胎盤から分泌されるホルモンには、血糖値を下げにくくする性質があります。多くの場合は、膵臓から分泌されるインスリンの量が増えることで血糖値をコントロールできるのですが、遺伝や生活習慣の影響で十分にインスリンを分泌できない妊婦さんや、インスリンが効きにくい体質(インスリン抵抗性)をもった妊婦さんでは、血糖値が高くなってしまうのです。
妊娠中に血糖値が高くなると、母体だけではなく胎児にも影響が出ることがあります。
早産しやすくなったり、妊娠高血圧症候群、羊水過多症、尿路感染症なども起こしやすくなります。
胎児巨大化(巨大児)や、生まれた後(新生児のとき)も赤ちゃんが低血糖状態になりやすくなることがあります。
妊娠糖尿病の治療は、血糖コントロールをするための食事療法が基本になります。これは単に食事制限をするのではなく、適切な栄養を含んだ適切な量の食事をバランスよく摂る治療法です。
生活リズムを整え、食事と食事の間隔を一定にします。食事を抜いたり、食事の時間が不規則だったりすると血糖値が安定しません。特に会社などで働いている妊婦さんは、朝食を抜いたり、平日は規則正しくても休日になると食事の時間が不安定になりがちです。毎日同じ時間に規則正しく食事を摂ることを心がけましょう。
1日の適正エネルギー量を3等分し、朝・昼・夜に分けて食べるようにします。食事の量が多すぎても少なすぎても、血糖コントロールには悪影響です。1日2食の「まとめ食い」や夕食への配分過多は、空腹時の低血糖や食後の急激な血糖上昇などを起こしやすくします。
また、間食はなるべく避けましょう。やむをえず間食する場合は、そのエネルギー量も1日の適正エネルギー量の中に収めるよう、計算に入れるのを忘れないようにします。一般的には1日のエネルギー適正量の10%を超えないことが目安です。
一般的には1日の適正エネルギー量の配分は炭水化物50~60%、たんぱく質15~20%、脂質20~25%といわれます。具体的には食卓に「主食・主菜・副菜」が揃っていることが理想的です。
主食は体を動かすための力の源になる炭水化物(米・パン・麺など)、主菜は筋肉や血液など体を作るもとになるタンパク質(肉・魚・卵・豆腐など)、副菜は体の調子を調整する働きを持つ野菜や海藻類などが代表的といえます。これらがバランスよく体内に摂取されることで体に十分な栄養がいきわたり、代謝が循環し、効率的にエネルギーを燃やすことができます。
詳しくは、『糖尿病の食事療法。「普通の食事」で血糖コントロール』を参照してください。
通常の糖尿病の食事療法と妊娠糖尿病の食事療法の違いは、目標とする血糖値の範囲です。
一般的な糖尿病の場合、血糖値を【90~180mg/dl】の範囲におさめるのが目標ですが、妊娠糖尿病の場合は、目標値が【70~120mg/dl】となります。
妊娠中は、胎児のために必要なエネルギーを確保することも重要なので、目標とする摂取カロリーは、通常の糖尿病治療食よりも多めになることが一般的です。ただし個人の状態や妊娠の時期によって目標摂取カロリーが変わってきますので、必ず主治医に確認してください。
妊娠糖尿病の食事療法では一度に多くのエネルギーを摂取することで急激に血糖値が上がるのを避けるため、3回の食事の合間に3回の「補食」をします。つまり、合計6回に分けて食事を行うのです。これによって恒常的に血糖値が安定します。
なお、食事療法を正しく行っても血糖値が目標の範囲内に収まらない場合は、インスリン注射を併用して血糖コントロールを行う必要があります。
補食には、血糖上昇がおだやかなものを選びます。ポイントは食べるものが炭水化物に偏らないことです。
市販の食品には、栄養成分表示が記載されています。ジュースや和菓子など炭水化物が中心の食品は避け、ヨーグルトや小魚アーモンドなどのタンパク質、脂質もバランスよく含まれているものを選ぶ習慣をつけるとよいでしょう。
松澤内科・糖尿病クリニック 院長
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