インタビュー

妊娠糖尿病の治療② 母と子の生活習慣病を防ぐために産後すべきこと

妊娠糖尿病の治療② 母と子の生活習慣病を防ぐために産後すべきこと
杉山 隆 先生

愛媛大学医学部附属病院 病院長、愛媛大学 副学長、愛媛大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学講...

杉山 隆 先生

この記事の最終更新は2016年02月02日です。

妊娠糖尿病は、妊娠中や分娩時の危険だけを防げばよいという疾患ではありません。生まれてきたお子さんや妊娠糖尿病と診断されたお母さんは、将来2型糖尿病生活習慣病を発症するリスクが高いといわれており、長期的なケアやフォローアップは必要不可欠です。

妊娠糖尿病と診断されたお母さんに産後行ってほしいこと、また、その後も長いスパンで心掛けていくべきことについて、愛媛大学大学院医学系研究科産科婦人科学教授の杉山隆先生にお伺いしました。

母乳保育はお母さんとお子さん両方の健康維持に有益なので、可能な方はぜひ完全母乳で育てることをおすすめします。お母さんのほうには、母乳保育が将来の生活習慣病発症率を抑えるというエビデンスがあり、さらに2型糖尿病の予防にもつながる可能性があるとして、現在様々な研究が進められています。

また、母乳保育で育てられた子どもは将来の生活習慣病の発症頻度が低いことも報告されています。

粉ミルクなどの難点は、過剰に与えてしまうことがあげられます。赤ちゃんが泣くたびに与えると必然的に多い量を与えてしまう可能性が高くなります。その点、母乳による過剰投与の可能性は低いといえます。そのため、母乳が出ない方などは、粉ミルクの量をしっかり守って与えることも大切であると考えます。

現代の日本人は、「エネルギー摂取量に占める“脂質”の割合」が高くなっています。ですから、普段から揚げ物やファーストフードなどの脂質の多い食品をとりすぎないよう、食育にも注力していくことが重要です。

先述(日本におけるやせ妊婦増加の問題の部分)のとおり、2010年以降、やせの女性が減少し、肥満の女性が増加傾向を呈しています。最近の食習慣として、エネルギー摂取量が減少していることをお示ししましたが、なぜ、エネルギー摂取量が減少しているにもかかわらず、このような変化が生じているのでしょうか。

脂肪摂取量ついては、1945年以降1970年代に増加した後、摂取量としての絶対量は増加していません。その理由は、最近のお母さんが子宮内にいたころに原因があるかもしれないと私は考えています。すなわち、現在の妊娠可能年齢のお母さんが子宮内にいたのは、1970年代から1980年代であり、まさに当時は、摂取エネルギー量が増加し、脂肪摂取量が増加した頃に一致するのです。子宮内の環境が現在おとなになったお母さんたちにプログラミングされている可能性があるのです。

その根拠のひとつとして私どもは、マウスを使って中等度高脂肪食に偏った生活が次世代にどのような影響をを及ぼすかの研究を紹介します。マウスには現代の日本人女性の栄養状態を反映させた中等度高脂肪食摂餌モデルを使用しています。この研究では、母マウスが中等度高脂肪食を食べると、母マウスのみならず、次世代が成獣(おとな)になった時に、血圧や耐糖能にも悪影響を及ぼすことがわかりました。

すなわち、このことは子宮内の高脂肪環境が将来のメタボ体質をプログラムする可能性を示唆するものです。

以上、述べてきましたように、妊娠糖尿病の治療やケアは、お母さんが産科を受診している期間だけで終わらせてよいものではありません。お母さんや赤ちゃんに対して継続的なケアを行うことが大切になります。

今後、わが国発の臨床研究が必要であることは言うまでもありませんが、生活習慣病は国民病ですから、国を挙げた政策なども必要であると考えます。

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  • 愛媛大学医学部附属病院 病院長、愛媛大学 副学長、愛媛大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学講座 教授

    杉山 隆 先生

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