インタビュー

妊娠糖尿病の原因-妊娠すると「インスリン」が効きにくくなる

妊娠糖尿病の原因-妊娠すると「インスリン」が効きにくくなる
杉山 隆 先生

愛媛大学医学部附属病院 病院長、愛媛大学 副学長、愛媛大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学講...

杉山 隆 先生

この記事の最終更新は2016年01月25日です。

妊婦さん、お腹の中の赤ちゃん(胎児)、さらには生まれてきたお子さんにも悪影響を及ぼす「妊娠糖尿病」は、妊娠することで起こるホルモン分泌の変化が一因となって発症します。本来であれば、食事により一時的に上がった血糖値は、「インスリン」というホルモンの働きにより正常値に復しますが、妊娠中はこのインスリンの効きが低下してしまうというのです。本記事では妊娠糖尿病の原因となる「インスリン抵抗性」について、愛媛大学大学院医学系研究科産科婦人科学教授の杉山隆先生にお話しいただきました。

妊娠糖尿病の主な原因は、「インスリン拮抗ホルモン」が分泌されることです。

まずは、妊娠していない人の体内ではどのように血糖値のコントロールが行われているのかということからご説明しましょう。通常、食事などにより糖(主にブドウ糖)を摂り込み血糖値が上昇すると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。このインスリンが骨格筋や脂肪組織においてブドウ糖を取り込み、ブドウ糖の分解を促すことで、血糖値は正常値に復します。

しかし、妊娠すると胎盤ではインスリンの働きを抑えるインスリン拮抗ホルモン(プロゲステロン・プロラクチン・コルチゾールなど)が分泌されます。さらに、脂肪組織からは、インスリンの作用を抑制するサイトカインも産生されるため、インスリンが正常に作用しない状態になってしまいます。このような現象を、「インスリン抵抗性」といいます。インスリン抵抗性が強くなると、血糖値を維持するために正常の状態よりもさらにインスリンの分泌を要することになります。

インスリン抵抗性は妊娠中期以降に強くなり、妊娠後期に入るとさらに多量(妊娠前の約2倍ほど)のインスリンを必要とするようになります。本来であれば、すい臓は必要量に応じてインスリンを分泌し、体が正常に機能するようバランスをとります。しかし、体質的に妊娠前よりインスリン分泌が十分でない方は、妊娠後半期に生じる生理的なインスリン抵抗性に打ち勝てるだけのインスリンを分泌できず、血糖値を下げることができず、妊娠糖尿病に至ることになります。

血糖値の正常なコントロールの妨げになるときくと、インスリン抵抗性が強くなることに対してネガティブな印象を抱かれるかもしれません。しかし、妊婦さんのインスリン抵抗性が妊娠週の進行につれて強くなり、血糖値が高めになっていくことは、実はとても理に適ったことなのです。なぜなら、インスリンはお腹の中の赤ちゃんの発育に欠かせない「成長因子」だからです。

妊娠後期の妊婦さんと非妊婦の方の食後血糖値の変化を比べると、妊娠後期の妊婦さんにおいてより食後の血糖値が高くなり、食前の血糖が低くなる傾向があります。後者の現象は、赤ちゃんが臍帯を通してブドウ糖(グルコース)などの栄養素を摂り込むために起こります。ですから、妊婦さんにインスリン抵抗性が生じることは、赤ちゃんの発育にとって「よいこと」なのです。

ところが、インスリン抵抗性が強くなることにより増加するインスリン必要量にインスリン分泌量が追いつかず、バランスが崩れてしまうと、今度は母児両方に対して悪影響を及ぼすことになってしまいます。記事4「日本人の妊娠糖尿病の原因ーライフスタイルと人種的背景から考える」で詳しく解説しますが、日本人は正常耐糖能の人(血糖値を正常に保つことができる体質の人)であっても、白人の方に比べるとインスリンを分泌する能力がやや劣っているという人種的な特徴を持っているのです。

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  • 愛媛大学医学部附属病院 病院長、愛媛大学 副学長、愛媛大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学講座 教授

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