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インタビュー

周産期医療とは?-定義や意味、産婦人科との違いについて

周産期医療とは?-定義や意味、産婦人科との違いについて
鮫島 浩 先生

宮崎大学 理事、宮崎大学医学部附属病院 病院長

鮫島 浩 先生

近年は産婦人科という言葉と並び、周産期医療という言葉を耳にする機会が多くなりました。どちらもお産に関連する医療用語であることは確かなのですが、その具体的な違いや定義に関しては知られていないことも多いのではないでしょうか。

宮崎大学医学部附属病院院長の鮫島浩先生は、およそ20年にわたって宮崎県の周産期医療を牽引してこられました。今回は鮫島先生に、周産期医療と産婦人科の違いや、周産期医療の重要性についてご説明いただきました。

母子

周産期とは妊娠22週から生後満7日未満までの期間を指し、周産期医療とはこの期間の母体、胎児、新生児を総合的に連続的に取り扱う医療です。従来、お産(=妊娠・出産・新生児の管理)に携わってきた診療科(主に産婦人科や小児科)が手を取り合い、総合的に全体的医療を提供します。このように周産期医療では妊娠している女性の体調管理や出産時の適切な措置をとるとともに、お腹の中の胎児、生まれてきた新生児の管理を徹底して、母子ともに安全なお産をするためのトータルケアを行なっています。

従来、産婦人科、中でも婦人科は女性特有の臓器や疾患を取り扱う診療科として知られてきました。すなわち婦人科は子宮、卵巣、(乳腺)など女性特有の臓器の機能異常、あるいはその部位に発症する疾患(がんなど)を扱う診療科、と言えます。

一方で、産科はお産という視点から、お産に伴う母体の変化、妊娠中の子宮や卵巣など女性性器の異常、さらに子宮内の胎児を扱う診療科、と言えます。

このように従来の診療科の概念では、取り扱う臓器によって、あるいは妊娠関連か否か、という視点から産科と婦人科は区分されてきました。

上記のような診療科の区分と比べると、周産期医療はより幅広い領域を専門にしています。お産を軸に、臓器だけでなく母親の全身状態、胎児の健康状態、出生後の新生児の管理まで、一連のユニットとして取り扱っています。周産期医療を専門とする医師には、母児の双方を取り扱うために、妊娠中の内科的管理は勿論、分娩時の母児にストレスのかかる環境下でも、さらに出生後の母体と児の適応反応や次世代に関連するものまで、総合的に管理するための知識が必要です。

このような背景から、周産期医療にはもともと糖尿病が専門で妊娠糖尿病を治療したいという医師や、生まれたばかりの新生児のケアに関心のある医師など、お産という入り口からさまざまな分野に関心を持つ医師が集結しています。周産期医療では、母親と赤ちゃんのどちらにも幅広い医療の提供ができる専門家を育成しています。

現在は産科と周産期医療という呼び分けがほとんどなくなりました。強いていうならば、産科と周産期医療では生まれてきた新生児をどこまで受け持つかに違いがあります。

産婦人科を標榜する病院ではほとんどの場合、産婦人科医とは別に新生児専門の小児科医師が在籍し、産婦人科医は胎児が生まれるところまでが守備範囲で、その後は小児科医がケアを行います。しかし超低出生体重児などを対象とするリスクの高い、難しい治療が必要な新生児専門の医師は、現在、数が減っており、人出不足が深刻になってきています。

一方で、周産期医療では新生児専門医師と協力し、共同で出産後の新生児を長期的に診療しています。この仕組みによって新生児専門医師の負担を軽減するとともに、周産期医療の専門家も新生児の管理に関する知見を深めることができます。

新生児と老人

ご存知の通り、日本は平均寿命が最も長い国として知られています。これはもちろん、高齢者が以前と比べて長生きをするようになったという要因もありますが、実は、分娩時に多くの新生児が障害を持たず、死亡せずに健康に生まれてくるということも大きな要因になっています。ヒトが長生きをするためには、生のはじまりである出産が安全でなければなりません。周産期医療は安全な妊娠・出産の提供によって、日本の平均寿命向上に大きく貢献しています。

では、周産期医療では具合的にどのようなことを行なっているのでしょうか。周産期医療が母親、胎児・新生児に対して行なっている診療の一例は下記の通りです。

周産期医療は出産する母親の妊娠・出産期だけでなく、その女性の一生を考えて診療することが一つの大きな任務です。妊娠は女性の身体にとって、非常に大きな負荷がかかりますので、子育てを含めたその方の今後の人生を見据えた診療が必要です。

たとえば、妊娠中は妊娠に伴う種々の変化によって糖尿病に罹患しやすくなるということがわかっています。後にも述べますが、妊娠中の糖尿病は胎児にも大きな影響を与えますので、胎児のためにも管理をしていかなければなりません。妊娠中にのみ症状が出現すると考えられていた妊娠糖尿病は、その後のフォローアップ研究によって、母体が2型糖尿病を発症する危険性が、妊娠糖尿病を発症しなかった女性の約7倍になることが知られています。同様に、妊娠時に高血圧になる妊娠高血圧症候群でも、発症した女性の80%の方はその後20年間の観察期間に本態性高血圧に罹患するとのデータもあります。このような傾向を踏まえ、医師が妊娠中から分娩後まで適切な処置を行うことは、出産後の母親の健康を長期的に守って行くことに繋がります。

ヒトの一生の中で、障害や死亡など最も多くのリスクが集中するのは分娩時期といわれています。なぜなら、胎児から新生児へと変わる分娩時は赤ちゃんに大きな変化がいくつも起きるからです。

たとえば、赤ちゃんは母体にいるときは羊水という水中で生活しており、胎盤とへその緒を介して酸素も届けられるので、自分で呼吸する必要がありません。しかし、分娩で母体外に出ると、自分自身で呼吸をしなければならなくなります。これはまるで水生動物が陸上動物になるような大きな変化です。また母体の中にいるとき、赤ちゃんは胎盤を通じて母親から栄養を得ています。つまり何もしなくても自動的に栄養が流入し、生きていくことができます。それが出産によって母体の外に出ると、今度は自ら食事をして栄養を摂取していかなければならなくなります。

このような一世一代の大きな変化によっても赤ちゃんが障害を起こすことがないよう、適切なケアを施すのも周産期医療の役目の一つです。

鮫島先生

周産期医療という言葉を耳にすると、帝王切開や吸引分娩など外科的な治療をイメージする方が多いでしょう。しかし40週間という長い妊娠期間のうち、このような外科的治療が必要になるのは最後の1〜2日程度です。もちろん周産期医療の中で外科的治療は非常に大切な分野ですが、出産に至るまでの40週間、母親や胎児の様子を見守り治療していくことも重要です。これは周産期医療の内科的側面といえます。

周産期医療の内科的役割は新生児の誕生という華々しい結果を持つ外科的治療の陰に隠れやすく見落とされがちですが、母子ともに健康な出産を達成するためにはとても重要な要素です。

胎児の出生体重は、その後の赤ちゃんの健康に大きな影響をもたらすといわれています。

たとえば、妊娠中の母親が糖尿病に罹患している場合、胎盤を通じて胎児に過剰な糖が送られるため、平均体重よりも重い新生児が生まれる傾向にあります。このようにして生まれた新生児が3〜6歳くらいまで成長した際、小児期の高血糖、肥満高血圧に罹患する確率が高くなることが知られています。おおよそ平均体重で生まれた新生児と比べて1.5倍高まるといわれています。

一方で母体が健康であったとしても、日本全国で出産される新生児のうち約7〜10%は平均体重よりも軽く生まれます。このように体重の軽い新生児は、お腹の中にいる間に母体から与えられていた栄養分が足りていなかった可能性が高く、少ない栄養素をうまく摂取できるよう、いわゆる「倹約遺伝子」が作動します。倹約遺伝子が出現している新生児が成長し、周囲に過剰な食事がある環境で育つと、倹約遺伝子と環境とのミスマッチが起こり、食べれば食べるだけ脂肪がつきやすく、肥満になりやすくなります。そのため、平均体重よりも軽く生まれてきた児が50代前後の成人になると、平均体重で生まれた方と比べて1.3倍から2倍糖尿病、肥満、高血圧などにかかるやすくなることがわかっています。

つまり、新生児は平均体重より重く生まれても、軽く生まれても、将来的に糖尿病などに罹患しやすくなるというリスクを抱えることになります。妊娠時に母親の栄養管理をしっかり行い、胎児の成長を見守ることが、母子ともに健康な出産を行うために不可欠な要素といえるでしょう。

上記のように、周産期医療は母子ともに健康なお産のために非常に大きな役割を果たしています。その一方で、日本の医療界では周産期医療の整備が十分とはいえず、例えば妊婦さんの受け入れ拒否、周産期医療を担当する医師の不足など、未だに多くの課題が残されています。宮崎県では県民の方々が安心してお産できるようにさまざまな取り組みを行なってきました。その取り組みについては記事2「宮崎県の周産期医療体制整備-20年間で積み上げた地域のネットワークと課題」にてご説明します。

 

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