インタビュー

妊娠可能年齢の女性の「やせ」問題-子どもが生活習慣病にかかる危険性

妊娠可能年齢の女性の「やせ」問題-子どもが生活習慣病にかかる危険性
杉山 隆 先生

愛媛大学医学部附属病院 病院長、愛媛大学 副学長、愛媛大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学講...

杉山 隆 先生

この記事の最終更新は2016年01月31日です。

前回の記事「妊娠糖尿病にかかったお母さん・赤ちゃんが将来発症する可能性のある病気」では、子宮内の過栄養が子どもにもたらすリスクについてご紹介しました。しかし、胎児に十分な栄養が届かない逆のケースにおいても、子どもが将来糖尿病生活習慣病にかかる可能性が高まるのだと、愛媛大学大学院医学系研究科産科婦人科学教授の杉山隆先生はおっしゃいます。

この記事では、日本の若い女性に増える「やせ」問題と、低出生体重児など、小さく生まれた赤ちゃんが生活習慣病にかかりやすいといわれる理由について、お話しいただきました。

お母さんが妊娠糖尿病であったり肥満である場合には、赤ちゃんに栄養が供給され過ぎる「胎児の過栄養問題」が生じやすくなります。しかし、これとは逆にお母さんがやせており、胎児が「低栄養状態」で育ってしまうこともまた、生まれたお子さんが将来生活習慣病にかかるリスクを高める可能性があります。

これは、今の日本社会では見過ごすことのできない問題といえるでしょう。なぜなら、日本における妊娠可能年齢の女性はやせ志向が強く、実際に20歳代ではおよそ4人に1人が「やせ」(BMI18.5以下)とデータでも示されているからです。

2010年に報告された「国民健康・栄養調査」(1983年から2010年までの日本人女性の体格や肥満・やせの割合の変化を厚労省が調査したもの)によると、BMI25以上の肥満は横ばいですが、やせは増加し、結果として標準体型の女性は減っています。このような体型の変化を受け、若い女性の間では現在「BMI17や18が標準」といった感覚が根付きつつあります。妊婦さんだけの変化をみても、肥満妊婦は横ばいですが、やせ妊婦は増加しています。ただし、2010年以降、妊娠可能年齢女性のやせの頻度がやや減少傾向を呈し、肥満の頻度が増加傾向にあります。

やせ妊娠の合併症には、切迫早産早産、低出体重児(出生体重が2500g未満)などがあります。赤ちゃんが低出体重児など比較的小さく生まれてくる理由は、お母さんから届く栄養が少なく、成長因子であるインスリン分泌が十分になされなかったためと考えられます。

お腹の中の赤ちゃんは栄養が十分に届かないという環境に適応しようとしますから、「なるべくエネルギー消費を抑え、脂肪としてため込もうとする体質」へと育っていきます。これは、インスリン分泌が少なく、インスリン抵抗性が強いという体質になりやすくなる、ということです。

しかし、エネルギーや糖をため込む体質を持った赤ちゃんが生まれてくる環境は、「飽食の時代」と呼ばれる現代の日本です。赤ちゃんが小さく生まれてきたとき、お母さんはミルクをたくさん与えようとしますが、これは子どもが太りやすくなってしまったり、糖代謝異常を起こしやすくなることに繋がります。

かつて日本では「小さく生んで大きく育てよう」という言葉が使われていましたが、これは将来のメタボリックシンドローム発症への危険性を上げる、危険な行為と考えられます。

1989年以降に英国で進められた疫学研究では、「出生体重が小さく、また小児期の体重増加が大きいほど、肥満や2型糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病発症率が高くなる」と明示されています。

しかし、今の日本では赤ちゃんの平均出生体重が右肩下がりに減っています。かつては3200gほどであった平均出生体重は、今では3000gを切るまでに下がりました。2500g未満の低出体重児はおよそ10人に1人の割合で見受けられます。早産ではない、正期産のお産(妊娠37週0日~41週6日の間のお産)で赤ちゃんが小さく生まれる原因としては、やせ・妊娠高血圧症候群喫煙妊婦などが挙げられます。したがって、低出生体重を予防するためには、医師や看護師、助産師などの医療者が、禁煙指導や食事指導することが有効となる可能性があります。

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  • 愛媛大学医学部附属病院 病院長、愛媛大学 副学長、愛媛大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学講座 教授

    杉山 隆 先生

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