せっぱくそうざん

切迫早産

最終更新日:
2022年01月13日
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2022/01/13
更新しました
2017/04/25
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医師の方へ

概要

妊娠22週以降37週未満に分娩に至ることを早産といいますが、この時期に下腹部痛や性器出血、破水などの症状があって、かつ内診で子宮口の開大や児頭の下降などの所見を伴った場合を切迫早産といい、早産分娩となる可能性が高まっている状態を表します。今日の周産期医療の進歩には著しいものがありますが、今でも早産出生は児の生命や発達見込みにもっとも影響を与える事象であり、出生週数が早いほど児の未熟性は強くなり、神経学的後遺症を呈しやすくなります。そのため、早産出生をいかに防ぐかは重要な課題の1つになっています。

原因

切迫早産の状態から早産に至っていく経過はとても多様で、原因は単純画一的ではありません。その中で、細菌感染とそれに伴う炎症は早産の主な要因となっていて、病因菌が下部生殖器から上行性に侵入することにより子宮収縮や破水が惹起されることがあります。直接的な原因ではありませんが、切迫早産あるいは早産になりやすい危険因子として、妊娠前の痩せ、不良な栄養状態、前回の出産から今回の妊娠までの期間が短いこと、喫煙、精神的ストレス、子宮奇形、子宮頸部(しきゅうけいぶ)の手術をしたことがある、前回妊娠が早産であることなどがあって、これらの因子を持っている妊婦では、早産のリスクが一般の場合より高いことになります。その中でも、以前の妊娠で中期流産や早産の経験があることは、早産の一番のリスク因子となります。こういった因子を持った妊婦は、ハイリスク妊娠として早い段階から周産期センターなどの施設で妊婦健診を受けることを考えてよいでしょう。

症状

切迫早産の症状として、子宮収縮感(お腹が張る感じ)、下腹部痛、性器出血などがあります。破水が先行する場合もあります。また、感染が背景にある場合には発熱を伴うこともあります。

検査・診断

上記のような症状がある場合には内診を行い、子宮頸管の状態を確認します。子宮口が開大していないか、子宮頸管が軟らかくなってきていないか、児が下降してきていないかなどを評価します。合わせて胎児心拍数陣痛図を用いて子宮収縮の頻度や持続時間をみることで、早産のリスクがどの程度差し迫ったものであるかを評価します。

治療

日本における早産率は5.7%程度で、ここ20年近くほぼ一定です。早産率に関しては世界中で大きな差異があり、先進国の中でも早産率が10%以上の国がいくつか存在し、米国でさえも10%を下回っていないので、それに比べれば日本の早産率は低いのですが、しかし、周産期医療の進歩にもかかわらず早産率が減少してこないということは、切迫早産治療に一定の限界があることを示しています。

子宮収縮抑制剤

子宮収縮抑制剤の使い方には日本と欧米とで大きな違いがあり、日本では使用頻度が高く、長期間にわたって使用される傾向にあります。おおむね欧米における臨床研究の結果として、子宮収縮抑制剤の治療効果は限定的とされていて、欧米では48時間以内に限った使用が推奨されています。しかし、長期投与を選択肢としている日本において早産率が低いことも事実であり、実臨床において、子宮収縮抑制剤が妊娠期間の延長に寄与したと感じられる症例もあることから、現時点では、長期投与を行う施設が多くなっています。ただし、薬剤による有害事象の頻度も低くないので、なるべく最少量で最短期間での投与が望ましいと考えられています。

抗菌薬

細菌が増えるのを抑えたり、細菌を壊したりする薬です。主に細菌感染が原因の場合に検討されます。

ステロイド薬

早く生まれてくる可能性がある赤ちゃんの健康状態をよくするために使われる薬です。

治療的子宮頸管縫縮術

子宮頸管を糸で縫縮する手術です。全ての患者に対してこの手術が早産予防効果を発揮するわけではありませんが、過去に早産の既往があって、今回の妊娠で妊娠24週未満に頸管長が25mm未満となった場合には、この手術を行うことで、早産リスクを下げることが期待されます。

安静

切迫早産の状態にある妊婦が過度に動き回ることはすすめられません。仕事や運動は避けたほうがよいでしょう。ただし、安静により早産が予防できるというエビデンスがないのも事実です。一方で、長期的な安静は筋力低下を招いたり、血栓症のリスクを上昇させたりすることがあります。血栓症は母体生命に関わり得る重篤な合併症で、妊娠中はその発症リスクが高まっています。臨床上、収縮の増加している妊婦に対して安静をすすめることはありますが、過度な安静にならないよう注意する必要があります。

予防

切迫早産の治療に限界がある以上、早産のリスクを下げるためには、切迫早産の症状が起こってからの治療よりも、症状が起こる前の予防こそが重要だと近年では考えられています。

細菌性腟症の加療

通常、腟内はラクトバチルス属(乳酸菌)が優位となって酸性を示していて、このことで雑菌の侵入を防ぐ作用を持っています。何らかの原因でこのラクトバチルス属が減少し、ほかの細菌が過剰に増殖して腟内細菌叢に乱れが生じた状態を細菌性腟症といい、繁殖した病原菌による炎症が子宮内へ波及することで、妊娠中の早産リスクになってきます。妊娠初期に細菌性腟症の診断を行い、もしその所見がある場合には、抗生物質を使って加療することがあります。

プロゲステロン

女性ホルモンであるプロゲステロンには頸管熟化抑制作用、子宮収縮抑制作用、抗炎症作用などがあり、特に、早産の既往のある妊婦に対する予防的投与の有効性についてはすでに多くの証明があります。天然のプロゲステロンを腟坐薬で用いる方法と、人工的に合成されたホルモンを筋肉注射で用いる方法とがあります。日本では後者が切迫早産に対する保険適用を有していますが、現状では予防に有効とされている量よりも少ないものとなっています。保険適用外診療となるため、適切に使用するためには地域の周産期センターの専門医に相談する必要があります。

妊娠前の葉酸摂取

妊娠前の葉酸摂取が早産リスクを減少させるとの報告があります。十分にエビデンスが高いとはいえませんが、妊娠成立後の摂取では早産リスクの軽減につながりにくく、妊娠前にサプリメントなどで補充することが有効となる可能性があります。

妊娠前の発酵食品摂取の励行

妊娠前にみそ汁、ヨーグルト、納豆を食べる頻度が多い人は、妊娠34週以前の早産の発生が少ないことが示されています。これらの食品はプロバイオティクスとも呼ばれ、乳酸菌や納豆菌が腸内細菌をより健康的な方向に変化させます。腟内細菌叢と腸内細菌叢は密接に関連していて、腸内細菌叢の改善によって、早産リスクが軽減することが期待されます。これらは妊娠してから食べても効果が乏しく、まして切迫早産症状が出てから摂取しても、その治療にはなりません。妊娠前に意識して摂取いただくことが重要です。

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