内視鏡の発明により、病気の状態をより正確に把握できるようになりました。今までは内視鏡は主に検査として用いられてきました。たとえば、上部消化管内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)では胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍、食道がん、逆流性食道炎などを診断することができます。また下部消化管内視鏡検査(いわゆる大腸カメラ)では大腸がん、大腸ポリープなどを診断することができます。
しかし、今では内視鏡はこのような検査だけでなく治療にも用いられるようになってきました。例えば胃がんは一昔前までは外科で手術をするしか方法がなかったのですが、今では一部のがんは内視鏡により完治させることが可能になっています。東京大学医学部附属病院で光学医療診療部部長ならびに准教授を務められる藤城光弘先生に、この内視鏡治療についてお話をお聞きしました。
内視鏡とは、身体の中を覗きみることのできる医療機器です。細長い管でできており、先端にレンズがついています。一般の方がよく経験するものとしては上部消化管内視鏡(胃カメラ)と下部消化管内視鏡(大腸カメラ)があります。内視鏡による観察は耳、鼻、尿路など、体表にある穴から行うことが可能ですが、その中でも消化管については口や肛門を通じて食道・胃から大腸までを観察し、がんなどの病気の診断・治療が行われます。
最初の内視鏡が登場したのは約150年ほど前です。最初は硬く太い内視鏡でしたが、どんどん軟かく細い内視鏡へと進歩を続けています。そして先端のカメラからみることのできる画像はどんどん解像度の良いものになってきています。今では口からだけでなく、鼻から入れることのできる5mm程度の内視鏡も出てきました。カプセル内視鏡という「飲む内視鏡」も出てきました。
元々は内視鏡は検査をする、つまり病気を見つけて診断するためのものでした。しかし、内視鏡は検査の機能だけでなくさらに進歩し、治療の機能も果たせるようになってきました。内視鏡の先端部にはカメラだけでなく、手元の操作部からつながった直径2~3mm程度の穴があります。これを用いることにより、がんなども治療することが可能になってきました。大まかに言うと、内視鏡治療とは「軟性の内視鏡を入れることによって、外科手術をせずに体の中から病変を削り取る」というものです。
内視鏡治療には、歴史的には「組織を切除して回収する方法」と「組織を破壊して回収はしない方法」の2つがあります。以下に説明します。
組織を切除して回収する方法では、内視鏡治療でがんなどの組織を切除して、その切除した組織を体外に回収します。組織を回収する理由は、病理で詳しい診断(具体的には回収した組織を顕微鏡でみる)などをする必要があるからです。
なぜ組織を回収して病理的に診断することが必要なのでしょうか。それは、術前の診断予想が100%正しいわけではないからです。病理的に診断をすれば、がんが残っている可能性があるため何らかの追加治療を行う必要があるのか、それとも根治が得られているので、追加治療が不要なのかをきちんと判断することができます。現在は、この組織を回収する方法が主流になっています。
一方で、患者さんの全身状態が悪いなどのさまざまな理由で、切除をして回収する治療をすることにリスクがあるような方の場合には「組織を破壊して回収はしない方法」がとられることもあります。組織を切除して回収する方法より簡便で安全だからです。しかし術前診断の精度が100%でない以上、現在ではこの方法はほとんど行われていません。ただしがんとはいえない段階の「前がん病変」と確実にいえるものに対しては、この方法が用いられることがあります。
内視鏡検査で見つかった大腸がん、胃がん、食道がんのうち内視鏡治療が可能になるものは早期がんと言われるものです。大まかに考えると、早期のがんとはがんが消化管壁の一部分に限られており、リンパ節や遠隔臓器に対して転移をしていないものと考えられます。これに対し、進行してしまったがんに関しては内視鏡治療の対象にはなりません。ただし、これはがんの種類によって少しずつ異なります。ここからはそれぞれの臓器(大腸、胃、食道)と内視鏡治療について簡単に解説します。
まずは大腸からお話しします。大腸の場合は、前がん病変である腺腫性の大腸ポリープというものが何よりも内視鏡治療の対象になります。大腸ポリープは大腸にできる非常に小さな病変であり、それ自体はがんではありませんが、将来的に大腸がんになるである可能性があるとされるものです。これが内視鏡治療の対象になっています。普通に検査をすると、大腸ポリープはおおよそ4~5人に1人の割合で発見されます。しかし1cm以下の小さなものがほとんどであり、簡単にとることができます。なかには日帰り手術を行っている施設もあります。
「大腸ポリープの内視鏡治療」の根本的な考え方は、大腸がんになってしまい外科手術に加え抗がん剤などが必要になることを避けることです。つまり、そのような特殊な治療をしなくても良いように、より治療が簡単な段階で治療していくということです。またポリープに加え、早期の大腸がんの一部が内視鏡治療の対象となります。(参照:「大腸がんの内視鏡治療とは」)
胃がんや食道がんの発がん経路については、大腸ポリープからの発がんのような、はっきりとした「前がん病変」が見つかっていません。ですから、基本的には、良性の場合は経過を見て、早期がんになった段階で、内視鏡治療が行われます(参照:「胃がんの内視鏡治療」「食道がんの内視鏡治療」)。
ただしこれらのがんにも、内視鏡治療による発がん予防ではないその他の予防方法があります。胃がんに関しては、ピロリ菌の除菌療法が功を奏して胃がんになる方が減ってきています。また、食道がんに関してはアルコールとタバコという明確なリスクがあります。特にアルコールに関しては、昔は弱かった(例えば、酒を飲むとすぐに赤くなる)方が少しずつ飲む機会が増えて飲めるようになってきた、というようなケースで食道がんのリスクが高いことが分かっています(より詳しくは「お酒を代謝するためのアルデヒド脱水素酵素がヘテロ欠損している方に食道がんのリスクが高い」といわれますが、この記事では詳細の説明は省きます)。
胃がんと食道がんの場合は、ピロリ菌、アルコール、タバコというリスクをなくすことによって、がんの発症を抑えることが大切なのです。
内視鏡治療のメリットはなんといっても臓器を残せること、非侵襲的な(体の負担が小さい)ところです。しかし、それでもがんを取りきれないなど、患者さんにとって不十分な治療ではいけません。十分に質の高い治療を患者さんに提供しつつ、現在の治療法に満足せずに発展させなければなりません。今後どんどん内視鏡治療が可能ながんが見つかるようになり、内視鏡治療の重要性は益々増加していくと考えられますが、それらのバランスをしっかりとっていくことが大切なのです。
東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 客員教授
東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 客員教授
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化管学会 胃腸科専門医
1970年生まれ。1995年、東京大学医学部を卒業後、東京大医学部附属病院研修医。1996年より、日立製作所日立総合病院研修医、国立がんセンター中央病院消化器内科レジデント等を経て2005年、東京大学医学部附属病院消化器内科助手(助教)。2009年、東京大学医学部附属病院光学医療診療部部長・准教授、2019年、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、2021年東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、現職に至る。内視鏡機器や処置具の開発から携わることで患者の負担を減らし、かつ、早期発見・的確な診断、治療が行える方法の研究を続ける。
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