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インタビュー

放射線治療の流れ、放射線治療に適したがんとは?

放射線治療の流れ、放射線治療に適したがんとは?
唐澤 久美子 先生

東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座 教授・講座主任

唐澤 久美子 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年08月28日です。

放射線を照射することでがんを治療していく放射線治療は、がん細胞が正常な細胞よりも放射線に弱いという性質を利用して行う治療です。放射線治療は病状によってさまざまな種類の照射方法がありますが、主に行われているのがエックス線の外部照射です。

本記事では、どのような手順で外部照射による放射線治療が行われるのか、また放射線治療で起こる可能性のある副作用について東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座 教授・講座主任 唐澤久美子先生にお話いただきました。

放射線治療は、放射線の害を受けやすい部位には利用が困難な場合がありますが、がんの種類によっては外科手術と並ぶ根治療法です。放射線治療に適しているがんには以下のようなものが挙げられます。

放射線治療が最も多く適用されるがんです。乳がんのほとんどのケースで、外科手術や薬物療法と放射線治療を組み合わせる集学的治療を行います。

がんの進行状態によって小線源照射あるいは外部照射で手術に代わる治療を行います。

腔内照射と外部照射を組み合わせて治療を行います。中程度以上の進行度では、世界的には手術でなく放射線治療が標準治療です。

早期の場合、機能と形態の温存を優先するために放射線で治療を行います。手術と違い、治療後も話したり食べたりすることができます。

患者さんが高齢の場合や局所進行がんの場合は放射線治療を行います。Ⅰ期の肺がんにおいて放射線治療と外科手術は同等の治療成績になっています。

放射線治療で最も多く行われている外部照射は、以下の手順で行われます。

まずは放射線腫瘍医による診察を受けて、放射線治療の適応があるか、ある場合はどの方法でどのくらいの放射線を照射するか決定します。この際に放射線腫瘍医は、患者さんへ治療の目的や副作用などの説明を行い、治療同意を取得します。

患者さん一人ひとりの病状に合わせた治療を行うための治療計画を作成します。

CTシミュレーターで照射範囲のCTを撮影し、放射線を照射するための指標を皮膚にマークします。また、照射部位によっては患者さんを固定するための固定具を作成します。撮影した画像データは専用の照射計画装置に転送し、その画像に病巣や照射を避けるべき周囲の正常組織を入力し、線量計算を行います。医師、医学物理士、診療放射線技師の共同作業で最適な照射法を決定します。

治療計画に従って、放射線治療専門の診療放射線技師が放射線の照射を行います。治療室内には患者さん以外入室できませんが、テレビモニターで医師や診療放射線技師が監察しながら放射線を照射します。治療時間は病状によって異なりますが、だいたい1回5分くらいです。

放射線治療は週5回が原則で、治療の内容により2〜6週間行います。1日あるいは数日で終わる定位照射(いわゆるピンポイント照射)という方法もあります。治療中は放射線腫瘍医の診察を受け、治療後は数か月経ってから効果判定の検査や診察を行います。

放射線治療は、患者さんを中心に放射線腫瘍医、放射線治療専門診療放射線技師、医学物理士、放射線治療専門看護師が連携して行うチーム医療です。ここではそれぞれの職種の役割を説明します。

放射線治療の要となる放射線腫瘍医は、患者さんを適切に診察し、病状に合わせてどのような放射線が適しているか、患者さんにとって最善な治療方針を提案します。全身のほとんどの悪性腫瘍(がん)を診察しなければならないため、放射線治療の専門知識だけではなく、全身のがんについての専門知識も必要です。また、放射線治療を円滑に行うために、他職種との連携においてリーダーの役割も担います。

診療放射線技師は、放射線腫瘍医とともに治療計画を作成し、それに従って患者さんに放射線治療を実施します。放射線腫瘍医の指示のもと、装置の準備や照射野の設定と確認写真の撮影、線量の測定や記録なども診療放射線技師が行います。

医学物理士とは、放射線治療を安全・確実に実施するために必要な放射線物理工学の専門家です。放射線治療の検証を行い、治療線量や治療精度を管理します。また、研究や装置開発を行い、効果的にがんを治療するための新たな治療法を提案します。

放射線治療専門看護師は、放射線治療が円滑に行われるように患者さんを支える専門的な知識をもった看護師です。具体的には、患者さんに放射線治療の副作用や生活上の注意点を説明したり、患者さんやご家族の相談にのったり、治療過程で生じる患者さんの身体的・精神的な問題を解決できるように支援します。残念ながら日本では、放射線治療専門看護師の養成・配備が遅れているという課題があります。

放射線治療の副作用は、原則として放射線を照射した部位にしか現れません。また、放射線治療の副作用は治療の後半に起こることが多く、治療が終わってしばらくすると元通りになる場合がほとんどです。放射線治療の副作用には以下のようなものがあります。

放射線が照射された部位の肌がカサカサと日焼けのようになることがあります。また皮膚の赤みやかゆみが出ることがあります。予防として保湿剤を処方したり、締め付けない下着の着用を勧めるなどの生活指導を行ったりします。

放射線の照射によって毛母細胞が損傷し、脱毛が起こることがあります。ただし脱毛が起こるのは放射線が照射された範囲のみです。

頭頸部がん口腔がんの放射線治療の場合、口の中の炎症が起こりやすくなります。また、喉の痛みや口腔乾燥などの症状が起こる可能性があります。口腔内を清潔にするように生活指導を行うなどの予防をします。

咽頭や食道に放射線を照射すると粘膜が炎症を起こすことがあります。予防として粘膜保護薬を出したり症状の程度によっては鎮痛薬を出したりします。

胃などの消化管に放射線を照射すると、消化機能が低下し、吐き気や嘔吐などの症状が出ることがあります。

子宮頸がんなどの治療で骨盤に放射線を照射した場合、下痢が起こりやすくなります。その場合、下痢止めの薬を処方します。

その他の副作用として、疲れやすくなったりから体がだるくなったりと倦怠感が現れることがありますが、放射線治療で全身的な副作用が現れることはまれです。

 

海外では放射線治療で治すことが一般的ながんであっても、日本では外科手術によって治療することが多くあります。世界のがん患者さんの半数以上は放射線治療を受けていますが、日本のがん患者さんは3割ほどしか放射線治療を受けていません。これは日本で放射線治療への理解が遅れていることが原因となっており、必要な患者さんに放射線治療が届いていないといえるでしょう。

放射線治療は体への負担が少ない治療ですので、正しく理解し、必要な患者さんに適切に利用していただきたいと思います。今後さらに新しい装置や薬の開発や研究が進めば、他科の医師や一般の方の理解も進み、放射線治療を選択する患者さんが増えるのではないかと期待しています。

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    唐澤 久美子 先生

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