2017年にがんによって亡くなられた方は、373,334人(男性220,398人、女性152,936人)でした。そのうち、肺がんで亡くなられた方は、男性は全がんの中でも1番多く53,002人、女性は全がんの中で2番目に多い21,118人でした。2020年には、男性では肺がんの新規患者数が約91,000人、女性では約34,000人になると推測されており、現在よりも肺がんを患う方は増加傾向になると考えられています*。
では、肺がんとは実際にどのようなものなのでしょうか。埼玉県立がんセンター 胸部外科 科長兼部長の平田知己先生に、肺がんの原因やステージ分類、治療法などについて伺いました。
*引用元:最新がん統計 - 国立がん研究センター がん情報サービス
肺がんとは、喫煙などが原因で気管支や肺胞の細胞ががん化したものです。進行すると、がん細胞が周りの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパ液の流れに乗って広がっていきます。転移しやすい場所は、リンパ節、脳、肝臓、副腎、骨です。
肺がんの原因は主に喫煙です。たばこを吸わない方に比べ、喫煙者が肺がんになるリスクは、男性では4.4倍、女性では2.8倍高くなると研究で明らかにされています。また、受動喫煙でも肺がんを患うリスクが高まることが分かっています。
喫煙以外であれば、アスベストなどの有害化学物質をばく露(吸引)することによって、肺が炎症を起こして慢性的な炎症が肺がんになることもあります。
がんのステージで「ステージI」「ステージII」などの言葉がありますが、肺がんの場合は、T因子(腫瘍自体の大きさ)、N因子(リンパ節転移の広がり)、M因子(遠隔転移)などの因子を組み合わせて、以下のように分類されます。
ステージI、IIの場合、ほとんど症状は現れませんが、腫瘍が胸壁や肋骨に浸潤している場合は、痛みが現れる場合などもあります。しかし、基本的には無症状なことが多いとされます。
患者さんは多くの場合、健康診断で肺に影が見つかり、病院に来られることが多いです。または、風邪や気管支炎などで呼吸器系の症状が現れたり、心臓の検査など、肺がん以外の病気の検査でX線撮影をしたら、たまたま肺がんが発見されたりしたという方も珍しくありません。
肺がんの検査は、まずは胸部X線(レントゲン)による撮影が一般的です。胸部X線よりも、さらに鮮明に撮影できる低線量CTの場合は、もっと小さい肺がんを早期に発見できることもあります。
そうした画像診断で肺がんの疑いがある場合には、太さ約3~6mmの気管支鏡を口から入れて気管支の中を診る検査を行ったり、CTで画像を確認しながら組織を採取するCTガイド下生検などを行ったりすることもあります。
手術や放射線治療などの局所療法が対象となる肺がんは、ステージI、IIと、ステージIIIAまでです。ステージIIIB、IIICの場合は放射線化学療法、ステージIVの場合は薬物療法が治療法になります。
肺がんの高齢患者さんも増えてきたことに比例して、肺がん以外にも心不全や糖尿病、脂質異常症などの病気を持たれている患者さんも増えてきています。そのため当センターでは、がんを切除することばかりではなく、「どうすれば患者さんが元気になってご自宅に戻ることができるか」を考え、そうした併存症を悪化させたり、合併症を発症したりしないよう、患者さん個々の体力などを考慮し、治療にあたっています。また、治療方法に選択肢がある場合は、患者さんやご家族の方にほかの治療方法があることもお伝えし、それぞれの治療のメリットやデメリットを具体的にお伝えするようにしています。
肺がんの手術では、一般的には肺葉切除術とリンパ節郭清などを行います。肺葉切除術とは、がんを肺葉ごと切除することです。リンパ節郭清とは、病期の判定をしたり、手術後の治療方針を決めたりすることを目的に、縦隔とよばれる胸の中心部のリンパ節を摘出して、転移の可能性のあるリンパ節を取り除くことです。リンパ節郭清は、肺を切除するのと同時に行います。
当センターでは、胸腔鏡下手術、開胸手術、ダヴィンチによるロボット手術などの手術方法の中から、一人ひとりの患者さんの病態を考慮して、患者さんの体への負担ができるだけ少なくなるような手術方法を選択しています。
放射線治療とは、皮膚の上からX線を照射して、がん細胞の中にあるDNAを破壊する治療方法です。DNAが破壊されることで、細胞分裂するときにDNAにエラーが起きて、生まれ変われなくなり、やがて消えていきます。
服の上からX線を数分照射するため、手術のように体にメスを入れる必要はありません。放射線治療は、手術治療や薬物療法などと組み合わせて行われることもあります。
薬物療法とは、点滴や内服によって薬剤を体内に投与することで、転移などで全身に広がったがん細胞の抑制に作用させることです。
ご説明したような標準的な治療を終えても根治できない場合には、「ゲノム医療」を受けるという選択肢があります。ゲノム医療とは、患者さんのがん細胞から患者さんに合う治療薬を調べ、その治療薬によってがん治療を行うことをいいます。
ゲノム医療について詳しくは、記事2『肺がんに対するゲノム医療とは』をご覧ください。
私が手術を担当する肺がん患者さんの多くは、70~80歳代の高齢の方々ですが、皆さん体力があって元気な印象を多々受けています。しかし、手術をすると、体力や元気な印象が術前よりも少し薄れてしまう方がいらっしゃる印象があります。そのため、術前の体力を保ったまま元気に生活を送っていきたいと考えている方であれば、無理に手術治療をするのではなく、別の治療方法を検討してみることも大事なのではないでしょうか。
たとえば、肺にいくつか多発する、多発がんという種類のがんがあります。多発がんの患者さんやご家族の多くは「全て切除してほしい」と希望されることがあります。しかし、がんを全て切除してしまうことで、手術による負担が体に大きくかかり、持病が悪化してしまったり、呼吸機能が著しく下がって日常生活に支障が出たりすることもあります。そのため、進行度が速いがんのみを切除し、進行度が遅いがんは放射線治療をするなど、手術以外の治療法を組み合わせるといった治療法も、選択肢に入れてもよいのではないかと思っています。
ぜひ、これからの人生の質を大事に考え、ご自身が納得する治療法を選択していただけたら幸いです。
埼玉県立がんセンター 胸部外科 科長兼部長
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