化学療法研究所附属病院副院長の小中千守先生は、新聞紙上で肺がん予防のためのコラムを連載されていたこともあります。誰もが知っているたばこの害から生活習慣まで、肺がんにならないためにはどうしたらよいのかを、わかりやすく教えていただきました。
肺がんの最大のリスクは喫煙です。一日に吸うタバコの本数はもちろん、どれだけ早くから喫煙し始めたか、どれだけ長い期間吸い続けているかということも大きく影響します。喫煙のリスクをあらわす指標として、ブリンクマン指数(喫煙指数)と呼ばれるものがあります。
ブリンクマン指数は「1日に吸うたばこの本数」×「喫煙年数」で求められます。例えば、1日平均1箱(20本)のタバコを20年吸い続けた場合は20(本)×20(年)=400となります。ブリンクマン指数が400〜600の場合、肺がんのリスクが高いとされ、600以上ではそのリスクがぐんと跳ね上がります。
たばこの影響は吸っている本人にとどまりません。火がついているたばこの先からは副流煙と呼ばれる煙が常に漂っています。この副流煙は喫煙者本人が吸い込んでいる主流煙よりも多くの有害物質を含んでいます。たばこを吸うことは一緒にいる家族や大切な人にも悪影響を及ぼすということを忘れてはなりません。特に成長期の子どもへの影響は大人に比べてはるかに大きいのです。
たばこの他に肺がんの原因となるリスク要因となるものにはアスベスト(石綿)があります。鉱物の一種であるアスベストの繊維構造は、簡単に細かくなって空中に漂います。これが肺に吸い込まれると中皮腫という病気を引き起こす要因になります。
中皮腫と肺がんは別の病気ですが、注意しなければならないのはアスベストを吸い込んだ人が喫煙者であった場合、肺がんで亡くなる確率がきわめて高くなるということです。アスベストを吸うこと自体も肺がんのリスクを高めますが、たばことアスベストの組み合わせは最悪といえます。
アスベストは現在では使用が制限されていますが、古い建物などで断熱材として使用されていたアスベストが解体時に出てくるといったことがあります。職業柄アスベストに触れる機会がある場合には、しっかりと対策をした上で従事する必要があります。
かつては肺結核にかかっている人は肺がんになりにくいと考えられていましたが、近年ではむしろ肺結核の患者さんが肺がんを発症するリスクが高いというデータが出てきています。
また、肺がんと同様に長期の喫煙と深い関わりのある病気としてCOPD(慢性閉塞性肺疾患)があります。COPDの患者さんは肺がんを併発する率が高く、その場合の死亡率は7倍にもなるとされています。
もっとも重要なのはたばこを吸わないことです。喫煙者の場合は禁煙を、現在喫煙習慣のない方は今後もたばこを吸い始めないようにすることです。いわゆるヘビースモーカーと呼ばれる方たちであっても、喫煙をやめれば肺がんのリスクは確実に低減します。たばこをやめるのに遅すぎるということはありませんが、短期間では効果がありません。まず最低10年、禁煙を続けることです。
ビタミン類の摂取については、例えばビタミンCには気管支の上皮細胞の再生を促す働きがあることがわかっています。しかし、だからといってビタミンCや葉酸など特定のものをサプリメントなどで大量に摂取することよりも、バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
仕事の忙しさやストレスでたばこが手放せず、生活が不規則で食事も偏りがち、検診や人間ドックも先延ばしにしてサボってしまう……こんな方が私たちのまわりにもいるのではないでしょうか。
肺がん予防にはなにか特別な秘訣があるわけではありません。生活環境を整え、定期的に検査を受けることがまず大事です。
赤羽リハビリテーション病院 院長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医・終身指導医日本臨床細胞学会 細胞診専門医・細胞診指導医日本呼吸器学会 呼吸器専門医・呼吸器指導医国際細胞学会 国際細胞病理医
日本において肺がん治療の伝統がある東京医科大学外科第一講座で、長年にわたり指導的立場で診療に従事してきた。気管支鏡専門医、細胞診専門医として診断を行い、呼吸器外科指導医としては現在まで2,000例以上の肺がんの手術を執刀した。1980年より全国に先駆けて胸腔鏡を用いた診断・治療を行い、肺がんに対しても、より侵襲の少ない手術を行っている。肺がんの化学療法にも力を入れており、呼吸器疾患における最新の診断・治療の実施をめざしている。
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