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肺がんに対する薬物療法の進歩――遺伝子変異を突き止め個別化医療を実現する

肺がんに対する薬物療法の進歩――遺伝子変異を突き止め個別化医療を実現する
畑地 治 先生

松阪市民病院 院長

畑地 治 先生

目次
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肺がんには手術、放射線治療、薬物療法、化学放射線療法(放射線治療と薬物療法を同時に行う治療)などの治療法があります。このうち、近年大きく進歩しているのが薬物療法です。肺がんは非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)と小細胞がんに大きく分けられ、特に非小細胞がんでは遺伝子検査に基づいて個々の患者さんに合った薬物療法を提供する“個別化医療”が進んでいます。一人ひとりのがんの特徴を踏まえた治療が可能となり、副作用を抑えながらより大きな効果を得ることが期待されます。

今回は、松阪市民病院 院長で呼吸器センター長の畑地 治(はたじ おさむ)先生に、個別化医療のメリットや同院呼吸器センターが目指す姿についてお話を伺いました。

肺がんの治療法をインターネットで調べると、治療選択がフローチャートのように示されていることがあります。しかし、実際の肺がん治療は個別化医療の進歩を背景に選択の幅が広がり、多様化しています。個別化医療とは、個々の患者さんの体質や病気のタイプに合わせた治療をいいます。中でも、がん組織を調べて得た遺伝子情報に基づく個別化医療が“がんゲノム医療”です。

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写真:PIXTA

近年、非小細胞がんについて、がんの発生や進行に関わる“ドライバー遺伝子変異”を見つける方法に関する研究が進んでいます。これによってドライバー遺伝子変異が次々と発見されるとともに、ドライバー遺伝子変異に対応する新薬の開発も盛んに行われています。現在、非小細胞がんの薬物療法では、ドライバー遺伝子変異の有無を検査し、遺伝子変異が見つかればそれに対応する分子標的薬*を使った治療を行います(2024年5月時点)。ドライバー遺伝子変異が見つからない場合は、抗がん薬や免疫チェックポイント阻害薬**を使用し治療を進めます。なお、当院では手術適応となった方も含め、非小細胞がんと診断された全ての患者さんにドライバー遺伝子変異の有無を検査し、術後の再発にも備えています。

抗がん薬を中心とした治療は、小細胞がんに対して効果を得られやすく、非小細胞がんに対しては効果が得られにくいとされてきました。しかし上記のように、近年非小細胞がんにも効果が見込める治療が進歩を遂げてきています。今後さらに個別化医療が進んでいけば、肺がん治療の可能性は大きく広がっていくでしょう。

*分子標的薬:病気の発生や進行に関与する特定の分子のみを標的として攻撃する薬。
**免疫チェックポイント阻害薬:“免疫ががんを攻撃する力”にブレーキをかけようとするがん細胞のはたらきを抑える薬。

非小細胞がんの中でも特に進行度が高いケースでは、いかに早く、そして正確に遺伝子検査を行って薬物療法につなげるかが非常に重要です。ここでは、当院における遺伝子検査の特徴についてお話しします。

がんの疑いがある病変ががんであるかどうか、またドライバー遺伝子変異があるかどうかを検査するには生検が必要です。生検とは病変の組織を採取して詳しく調べる検査で、気管支鏡と呼ばれる直径3~6mmの細い内視鏡を鼻や口から挿入して組織を採取することが多いです。局所麻酔や静脈麻酔を使って行うため、検査時の苦痛は少ないでしょう。

当院では、気管支鏡の先端についた鉗子(かんし)(洗濯ばさみのような器具)で採取する方法のほか、超音波気管支鏡で病変を確認しながら組織を多く採取するEBUS、気管支鏡で肺組織を凍結させ、組織の損傷を抑えながら大きく検体を採取するクライオ生検にも対応しています。

クライオ生検は特に高度な技術を要しますが、比較的多くの組織を採取でき、また採取直後の圧迫止血によって肺の中の出血を防ぐことができます。当院の呼吸器内科では、学会でも指導的役割を担う医師を中心として、どの方法にも対応できるよう日頃から手技の向上に努めています。

多くの遺伝子変異を調べるには一定量の組織の採取が必要で、採取方法はがんのある位置などによって選択します。検査段階から患者さん一人ひとりの状態に合わせて採取方法を選び、適切な量の組織を採取できる体制が整っていることは当院の強みの1つです。

なお、病変組織を採取する際、基本的に入院は不要ですが、遠方から来られる方などご希望があれば入院検査も可能です。また、クライオ生検などで組織を大きく採取した場合、入院していただいて経過を観察するケースもあります。

当院の場合、遺伝子検査は外部検査機関に依頼すると結果が出るまで2週間ほどかかります。しかし、ステージIVの進行がんの患者さんなどの場合は、2週間待っていては症状の進行が懸念されるため、より迅速な検査、治療が求められます。当院は院内に次世代シーケンサーと呼ばれる遺伝子検査機器を配備しており、1日で結果が得られる体制を整えています。

先方提供
院内の次世代シーケンサー

次世代シーケンサーは遺伝子の塩基配列を高速かつ大量に読み取れる装置で、限られた検体からがん細胞内の161の遺伝子変異を調べられます。ドライバー遺伝子変異を網羅的に検出できるため、より精度の高い診断が可能となり、その方にふさわしい治療を選択できることが期待されます。

この検査では、病変組織の切り出し方や、採取した組織をいかに適切に処理してよい検体を作れるかが検査結果の正確性に影響を及ぼします。当院では医師、臨床検査技師らスタッフがこうした課題に向き合い、正確性の高い検査につながる方法についてディスカッションを重ねて論文として世界に向けて発表しています。

また当院では、世界標準の高精度な検査を行っている証となるCAP(米国病理医協会)の認定を取得するべく準備を進めているところです。患者さんに安心して検査、治療を受けていただけるよう、さらに精度を高めていければと考えています。

当院の強みの1つが、呼吸器センターで呼吸器疾患全般の集学的な医療を行っていることです。私が当院の呼吸器内科に着任したのは2003年7月で、当時は呼吸器疾患を担当する医師は私だけでした。呼吸器疾患に悩む方々に懸命に向き合っていく中で徐々に患者さんが増え、2012年4月に呼吸器内科に2人、呼吸器外科に1人の医師が入って呼吸器センターの立ち上げに至ったのです。現在、当センターの常勤医師は14人に増え、放射線科、リハビリテーション科、病理科などさまざまな診療科と連携して個々の患者さんによりふさわしい治療を提供するべく奮闘しています(2024年5月時点)。

私は、医師のファーストミッションは患者さんそれぞれによりふさわしい治療を届けることだと考えています。呼吸器センターでは週に一度、呼吸器内科と呼吸器外科で合同カンファレンスを開催し、治療や検査について一例ずつ検討しています。また、実施済みの治療、検査の結果や改善点なども共有し、以後の診療に生かせるようサイクル化しています。当院は呼吸器内科と呼吸器外科の仲がよく、このような内科と外科の密接な関係性がさらによい治療の提供につながっていると感じます。もちろん肺がん以外の呼吸器疾患に対しても意見を出し合いながら連携し、両科の専門性を生かして治療にあたっています。

肺がんは治療の進歩によって長期生存が見込めるようになってきました。当院では、肺がん患者さん一人ひとりの予後改善につながる治療を追求し続けてきた結果、患者さんの1人が“三重肺がん患者の会”を立ち上げて元気に活動されています。2か月に1回、日曜日に当院内で開かれる集まりには、私も可能な限り参加して活動を支援しています。そのほかにも、がんを専門とする看護師や薬剤師が中心となって悩み相談に応じるなど、患者さんをサポートしています。

先方提供

今は肺がんと診断されても絶望するような時代ではありません。検診などで肺がんが疑われたら早めに医療機関を受診してください。生活面でも禁煙するなど節制しながら適切な治療を受けていくことが大切です。

肺がんの治療は日進月歩ですので、今できる治療を継続しているうちにより高い効果を期待できる治療薬が開発され、さらによい予後につながっていく可能性もあるでしょう。希望を持って治療を続けていただきたいと思います。

また、近年は治療法の選択の幅が広がっており、同じステージの患者さんでも遺伝子変異やがんのある部位、全身状態などによってふさわしい治療は異なります。患者さん一人ひとり、治療法に違いがあって当たり前と考えていただければと思います。不安や疑問があれば医師やスタッフに相談してください。よりよい結果につながる治療に努めていますので、一緒に頑張っていきましょう。

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