2010年、New England Journal of Medicineに掲載されたある論文が関係者に衝撃を与えました。肺がんの緩和ケアを早期から開始すると、患者さんのQOL(quality of life:生活の質)が改善できるだけでなく、生存期間も延長することができたという報告です。進行肺がんに対して行われる緩和ケアは、実際に患者さんにどのような影響を与えているのでしょうか。国際医療福祉大学三田病院呼吸器外科部長であり、医療相談・緩和ケアセンター長を務める林 和(はやし・あえる)准教授にお話をうかがいました。
緩和ケアにあたっては、患者さんのQOLを維持しながら行なっていくことが大切です。がんを治すことができなくても、苦痛を軽減するために抗がん剤を使った化学療法や放射線治療を行なうこともあります。
特によく使われるのは放射線療法です。例えば肺がんの転移が骨にある場合、放射線を照射すると痛みの軽減や骨折予防ができることがあります。また、手術ができない進行がんで、抗がん剤治療も難しいといった場合でも、放射線治療を短期間で行なうことによって痛みが抑えられるといった効果が期待できます。
肺がんの場合、手術できる方は全体の3分の1ほどです。手術するということは根治、すなわちがんを治すことを目指しています。一方で抗がん剤と放射線治療も根治を目的として行なうこともありますが、がんが進行して手術ができなかった方の多くは、抗がん剤治療を行なうとき、その目的はがんの根治ではありません。予後の延長であったり、QOLの改善がメインの目標になります。
目標が何なのかによって治療のアプローチは変わってきます。根治が目的であれば手術もしっかりやりますし、抗がん剤と放射線治療で治ることもありますから、そのときには化学療法・放射線治療をしっかりやらなければなりません。
その次の段階になって、予後の延長やQOLの改善が目的になると、抗がん剤治療によって強い副作用が出てQOLが下がってしまっては意味がありません。バランスをうまく取りながらやっていく必要があるのです。そのときには患者さんの希望、患者さんがどう生きて行きたいと考えているのかということが大切になってきます。
そういった場合には、早い段階から緩和チームが介入することで、医師が患者さんから直接得られること以外の情報が各スタッフを通してもたらされるということがあります。
例えばソーシャルワーカーには生活やお金のことをいろいろと相談している、といったことがあります。また、理学療法士さんとはリハビリテーションのときにスキンシップもありますし、一緒に歩いているときなどに話をする中で患者さんも本音を漏らすことが多いようです。緩和チームではカンファレンスを行なっていますので、そういった情報を持ち寄ってチームで共有していくことは重要です。
海外の論文では、肺がんの緩和ケアを早期から開始すると、患者さんのQOLを改善するだけでなく、生存期間も延長することができたという報告があります。これは2010年にNew England Journal of Medicineという有名な医学誌に論文として掲載されました。
(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1000678#t=article)
抗がん剤治療を研究している先生の話では、緩和ケアを早期から行ったことによる改善は、新しい抗がん剤が登場したときと同じくらいグラフ上でも違いがあったそうです。
緩和ケアを早期から行なうことでこれほど患者さんの生活の質が良くなり、生命予後も延長するのかと、われわれがんの専門家から見ても衝撃的な論文だったのです。
早期から緩和ケアを行えば、気分障害や精神的なことだけでなく、予後も良くなるというお話は、今では患者さんにもひとつの情報としてお伝えしています。あるいは、ホスピスに入院したからといって亡くなるわけではなく、さまざまな対症療法によって予後が良くなっているというデータもあります。
緩和治療を行うことによってQOLが向上し予後が延びる。また一方で抗がん剤治療も予後を延長してQOLも良くしようという考えですので、お互いに実は目的が同じなのです。同じことを目的としている治療なので、並行して一緒にやっていきましょうということです。こういったエビデンス(医学的根拠)が出てきたことによって、抗がん剤治療を行なっている医師の間でも緩和ケアに対する理解が進んだという面もあります。
関連の医療相談が26件あります
ガンマナイフ治療効果について
私の治療に関する質問と言うより、治療効果そのものに対する質問です。 ガンマナイフ治療について、その効果について多数の機関が情報を載せていますが、「80%〜90%の治療効果」的な表現が多いかと思います。 大変、効果のある治療と思いますが、反面、「10%〜20%は効果が出ない。」と言う事もあるのかな?と思ってしまいます。 そこで質問ですが、 ①ガンマナイフ治療後の効果判定は治療後どのくらいで実施されるのでしょうか ②残念なことに、期待した効果が出なかった場合の治療方法はどのようなものが考えられますか? 教えて頂ければ幸いです。
高齢者のがん 治療方法について
父が肺がんで、ステージⅢ、他所への転移は見られないが、同肺内での転移は見られると診断されました。高齢のため、手術及び全身への抗がん剤治療は勧めないと医師に言われ、現在、分子標的薬の検査をしている段階です。検査入院から1か月が経ち、治療するとしても、いつから始まるかわからない状態です。本人は、咳、痰の症状以外は、元気の様子ですが、このペースで治療待ちをしていて良いのか、他の治療方法も検討した方が良いのか、教えてください。
CT検査にて、肺がんと診断されました。今後の選択肢について教えて下さい。泣
東京在住、28歳会社員です。 5日前、私の大好きな大好きな広島に住む祖父が肺癌と診断されてしまいました。毎日、涙が止まりません。遠く離れた場所でコロナの感染リスクを考えると、お見舞いに行くことすら許されず、途方に暮れながらも情報収集をしていたところ、このサービスの存在を知り、この度ご質問させて頂きました。 祖父の現在の状況は下記です。 先週、高熱を出し、病院に行きPCR検査を受けたところ陰性でした。しかし、CT検査を実施したところ肺の1/3程度の影があり、肺がんだと診断されました。 詳しい検査をするため、がんセンターの呼吸器内科に転院する予定です。 これまでの病歴として、私が知ってる限りでは、10年ほど前、肺気腫(喫煙者であったが肺気腫と診断され、そこから禁煙)になり、その後、自律神経失調症と診断され、真夏の布団の中で背中が冷たいと感じるようになり、1日のほとんどをベットで過ごすようになりました。また2.3年前には、肺炎で入退院を2回しています。 まだ不確定要素も多く、判断が難しいかとは思いますが、今回は、本当に診断結果が正しいのか?そして肺がんの場合、祖父にとって最善な治療法は何か?(外科的、内科的治療含めて)など、これからの選択肢について教えて頂きたいという一心でご連絡致しました。 祖父が、今まで通り祖母と仲良く家で暮らせる日々を取り戻してあげたいという一心で、今回ご連絡させて頂いています。どうかどうかよろしくお願いいたします。
肺がんの手術と心臓弁膜症
肺がんステージ1との診断があり、来月手術予定ですが、心電図検査で心臓に異常が見つかりました。心臓弁膜症は5段階の3との診断結果ですが、肺がんの手術には問題ないので、薬や治療等何もうけていません。本当に大丈夫でしょうか?息苦しいなどの自覚症状は昨年秋ごろから続いています。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「肺がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします