インタビュー

疼痛ケアのための医療用麻薬の使用-日本と欧米ではどう違う?

疼痛ケアのための医療用麻薬の使用-日本と欧米ではどう違う?
林 和 先生

林 和 先生

この記事の最終更新は2016年02月18日です。

進行がんの緩和ケアでは、痛みに対するケアは欠かせません。がん患者さんが感じている身体的な「痛み」は、実はさまざまな要素を含んでいるといいます。国際医療福祉大学三田病院呼吸器外科部長であり、医療相談・緩和ケアセンター長を務める林 和(はやし・あえる)准教授にお話をうかがいました。

患者さんが感じている痛みにも、多くの種類があります。普通の内臓痛だけでなく、神経障害性疼痛と呼ばれるビリビリとした神経の痛みなどもあります。あるいは手術をして知覚神経が障害され、皮膚の感覚がないといったこともあります。そういうものを強い痛みとして感じる方もいらっしゃいますが、実際には皮膚の知覚の問題であったりするようです。

このように痛みにはさまざまな種類のものがあるため、自身だけで対応できないときには、麻酔科医や、緩和ケアチームにいる痛みの専門家に依頼することもあります。三田病院ではチームの中に疼痛専門の看護師もいますので、そこのスタッフと相談しながらケアを行なっていきます。

モルヒネなどの医療用麻薬についても、患者さんの状態によって使い方が変わってきます。まず経口薬がのめるのか、のめないのかということがありますし、あるいは便秘の症状が強ければ薬を変えるといったこともあります。

医療用麻薬を使う場合、腸の動きが抑えられてしまうため、必ずといっていいほど便秘になってしまいますし、その状態はその後ずっと続くことになります。しかし、便秘は薬でコントロールすることが可能です。必要に応じて便を軟らかくする薬を服用していただきながら、医療用麻薬を使っていくことが大切ですが、便秘の副作用が少ない薬に変えることもできますので、様々なメリットやデメリットも考えながら疼痛ケアを行ないます。

患者さんの苦痛を取り除くための薬によって便秘になり、さらに苦痛を招いてしまうことがあります。治療が苦痛を呼ぶこともありますし、痛みによって眠れないことがまた別の苦痛になることもあります。痛みだけでなく、そういったこともすべて含めて身体的疼痛と考えて、痛みを和らげていく必要があります。

医療用麻薬の消費量は、日本と諸外国では桁違いの大きな開きがあります。欧米、特にアメリカでは歯の痛みに対しても麻薬が使われるほどです。このような医療文化の大きな違いが背景にあるといえるでしょう。

日本では、患者さんが痛みを我慢することが多いといわれています。私たちは痛みの程度を表すスケールを使い、最大の痛みを10として、今の痛みがどれくらいかということを患者さんに訊いています。外来の受付にも0から10までの表を用意して、絶えず患者さんの痛みがどれくらいかということをお訊きしながら診療を行なっています。

それでも、痛みを0と書いている方によくお話をうかがってみると、やはり痛いとおっしゃる場合があります。たしかに日本では痛みを我慢する傾向はあるようです。その一方で、先ほど述べたように諸外国では本来の目的から逸脱した使い方をしている部分もあるのかもしれません。

しかし、これは緩和ケアセミナーでもお話していることですが、医療用麻薬の消費量というものは、その国で緩和ケアがどれだけ定着しているかという度合いを表しているのではないかといわれています。やはり緩和ケアが進んでいる国では医療用麻薬の消費量も多いという関係性があります。

 

  • 日本外科学会 外科専門医・外科認定医日本呼吸器内視鏡学会 会員日本呼吸器外科学会 会員日本胸部外科学会 認定医

    林 和 先生

    呼吸器外科を専門とし、肺腫瘍(肺がん)、縦隔腫瘍、気胸など呼吸器疾患の診断・治療を行うエキスパート。外科手術のみならず、化学療法(抗がん剤治療)・放射線治療・緩和治療にも精通している。進行がんに対する緩和ケアの早期開始によって患者さんのQOL向上に努めるとともに、がん診療に携わる医師向けの緩和ケア研修会でも指導的役割を担っている。

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