緩和ケアは主治医だけでなく、複数の専門職のスタッフから構成されるチームで行うことが基本となっています。それぞれのスタッフはどのような役割を担い、どのようにして緩和ケアを行なっているのでしょうか。国際医療福祉大学三田病院呼吸器外科部長であり、医療相談・緩和ケアセンター長を務める林 和(はやし・あえる)准教授にお話をうかがいました。
緩和チームでは看護師・ソーシャルワーカー・麻酔科医・放射線科医・理学療法士・作業療法士・薬剤師・栄養士などがチームを組んで緩和ケアにあたっています。医師だけでなく、それぞれの専門職スタッフから情報が入ってきて介入するということもあります。
三田病院の場合には、各病棟にリンクナースといって、緩和ケアを中心的に行なっていくナースがいます。このようなスタッフから依頼があったり、あるいはソーシャルワーカーから依頼があったりして、チームで介入しましょうということになるケースがあります。
最初に患者さんに重い病状をお伝えする場合にも、ご本人とご家族だけではなく、専門の看護師が同席することがあります。緩和ケア研修会を受けた医師と専門の看護師が同席した上で、患者さんと治療に関するお話をしたときには、保険点数が認められることになっています。
重大な病状の説明などの場合に他のスタッフが入るようにすると、後でその看護師から患者さんに話をしてもらうということもできます。特に緩和チームの場合、「あの時言っていたのはこういうことなんですよ」というように、医師の言葉だけではなく後からフォローがあるということも大切です。
また理学療法士の場合、活動の場としては整形外科が一番目につくかもしれませんが、今はがん患者さん専門のリハビリテーション、いわゆる「がんリハ」を勉強されている方もいます。たとえば肺がんで手術する患者さんの場合でも、手術の前から理学療法士に入ってもらい、手術が終わった後の呼吸や歩行の仕方を教えてもらったりしています。
どこか痛いところがあった場合には、動き方でそれをカバーしてうまく身体が使えるようにしていきます。また肺がんの場合には骨に転移することがありますから、たとえば骨盤への転移があるときには歩くと骨折する可能性があります。その場合には整形外科医と相談しながら、荷重のかけ方をどうすればいいかなどを考えます。その際には、理学療法士がうまく説明してリハビリテーションもできますし、歩き方などいろいろなことを教えてくれます。
私自身、外科医として手術も行ないますが、翌日には歩いていただくようにしています。20年以上前には手術の翌日に歩くということはほとんど考えられませんでしたが、今はリハビリテーションのスタッフと一緒に歩いていただいたりしています。歩く前にまずベッドから降りて立っていただくわけですが、理学療法士が血圧を測り、呼吸状態のモニターをするなど、様子を見ながらうまくやってくれていますので、ほとんどの方は歩くことができます。
そうすると痰(たん)が出しやすい、あるいは便秘を防げるなど、術後の立ち上がりがかなり違ってきます。そういった面で理学療法士やリハビリテーションの力には非常に大きいものがあります。痰を出すときに痛みがあれば、その箇所を少し押さえながら出す、あるいは呼吸の仕方を工夫するなど、痰の出し方を教えてもらうだけでも患者さんのつらさはかなり違ってきます。
現在、緩和ケア中心でも訪問診療を行なうかかりつけ医が多くなっています。この三田病院の場合には港区など近隣の方だけでなく、少し離れたところから通ってこられる方がいますので、ご自宅に近い施設の先生にお願いして、訪問看護ステーションから看護師さんに行っていただいたりすることもあります。
ソーシャルワーカーが中心となっていろいろなところに連絡をしてくれますので、お住まいの地域で緩和的なケアを受け、時々は私たちのところに外来でやってくるという方もいます。肺がんは高齢の患者さんに多い病気で、80歳代から患者数がぐっと上がってきます。80歳以上の方などで通院が難しくなってくると、顔を見て話すだけでもいいとおっしゃって、3か月に1度ぐらいはなんとか来て下さっているという方もいらっしゃいます。
私たちは「いつでも、どこでも」を合言葉に、患者さんが質の高い緩和ケアを受けられるようにしようと考えています。「いつでも、どこでも」ということは自宅の近くでも緩和ケアを受けられ、病院でも受けられるということですので、その「つなぎ」を地域とうまくやっていくことが大切です。その役割はソーシャルワーカーが受け持ってくれていますので、その力を借りてチームでやっていくと、とてもうまくいくのだと思います。
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