早期肺がんに対する内視鏡的治療の代表として、「光学力学的治療(PDT)」というものがあります。早期中心型肺がんに対する治療としては最も低侵襲(患者さんの負担が少ない)で、かつ効果の高い治療法の1つですが、なかなか馴染みのない技術です。実際のところ、PDTは年間100〜200件しか行われていません。
肺がん患者数は年間約8万人、その中で中心型肺がんに分類される患者さんの数は、地域性の違いはありますが10〜30%といわれています。つまり、単純計算で本当は少なくとも1万人近くの患者さんにPDTにより治すことができる可能性があるという計算になります。
いったいPDTとはどのような治療法なのでしょうか? なぜなかなかPDT治療は広がらないのでしょか?PDT治療の第一人者である山王病院副院長・奥仲哲弥先生にお聞きしました。
PDTは、がんに対して親和性(がん細胞が結合しやすい性質や傾向)のある「光感受性物質」という薬(タラポルフィンナトリウム)を投与し、その後の低出力のレーザー照射によってがんにのみダメージを与える治療法です。PDTを行うことで、正常な組織のダメージを最低限に抑え、選択的にがんにのみダメージを与えることができます。
また、PDTであれば手術で切除が難しい気管や太い気管支にできた早期がんの治療も簡単に行うことができます。
以下のように、レーザー照射前に病巣の範囲を確認できます。
左画像のように肉眼ではわかりにくい早期がんの発生部位ですが、PDTを用いれば右画像のように、がんの部分に取り込まれた光感受性物質が赤く光ります。
PDTを用いるときに唯一懸念すべき合併症として、光感受性物質(タラポルフィンナトリウム)による「光過敏症」に注意しなくてはなりません。光過敏症とはその名のとおり、光に対して過敏に反応してしまう症状のことを言います。タラポルフィンナトリウムは肝臓や消化管により分解・排泄されるため毒性はありませんが、この副作用により日焼けしやすくなります。PDT治療後、1〜2週間は、直射日光が当たるのを避けなくてはなりません。ただし、室内での生活には全く問題はないため、欧米では外来で治療を行っています。
PDTは、太い気管支に出来た肺がん・食道がん・胃がん・子宮頸がんのうち、早期がんに対してのみ適応がある治療法で、保険適応されています。近年、進行肺がんの気管閉塞、原発性悪性脳腫瘍、再発食道がんに対して保険適応が認められ、適応疾患が広がりつつあります。また、舌がんや皮膚がんなどに対しては、保険適応外ではありますがその有効性が確認されています。
しかし、PDTは画期的な治療法である一方で普及が遅れているのも現実です。これには以下のような理由があります。
肺がん治療の目指す方向として、まずその基礎となるのは「早期発見」です。早期発見は患者さんに多くの治療選択肢を与えます。今後、肺がん検診が広がり、同時に医療技術が1つ1つの課題をクリアしていくなかで、PDT治療は間違いなく肺がん治療に重要な役割を果たしていくでしょう。中心型の肺がんではなく、現在急増している早期末梢型肺がん患者さんに対するPDT治療もこれから1つの課題となります。また、PDTと他の治療法の融合(例えば手術の前にPDTを行い、切除する範囲を小さくする)という新たな治療も、今後大きく期待されています。
記事1:肺がんの早期発見のために肺がん検診が重要。X線検査、喀痰検査のススメ
記事2:肺がん検診の精密検査としてのCT、気管支鏡検査
記事3:早期肺がんの治療法 治療の選択肢を多く持つこと
記事4:早期がんの最新低侵襲治療 PDTとは?
山王病院 副院長/呼吸器センター長
山王病院 副院長/呼吸器センター長
日本外科学会 外科認定医・外科専門医日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医日本レーザー医学会 指導医日本呼吸器学会 呼吸器専門医日本癌治療学会 会員
肺がん専門の呼吸器外科医であり、3500例を超える手術実績を持つ。特に低侵襲手術(胸腔鏡手術や早期中心型肺がんに対する内視鏡的レーザー治療)を最も得意とする。手術だけでなく、化学療法や放射線療法に対しても造詣が深く、常に患者に対するベストな選択肢を提案する。肺がん専門の呼吸器外科医として、「診断から緩和ケアまで責任を持って診る」ことをモットーに、多くの患者をもつ。
禁煙の啓蒙を1つのライフワークとして取り組んでおり、多くの書籍を執筆している。セカンドオピニオン外来も行っており、全国から多くの患者が訪れる。
奥仲 哲弥 先生の所属医療機関
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