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インタビュー

肺がんの免疫療法――​​ニボルマブをはじめとする免疫チェックポイント阻害剤とは

肺がんの免疫療法――​​ニボルマブをはじめとする免疫チェックポイント阻害剤とは
金 永学 先生

京都大学医学部 呼吸器内科 助教

金 永学 先生

この記事の最終更新は2017年08月14日です。

肺がんの治療で今最も注目されているのが、免疫療法です。なかでも免疫チェックポイント阻害剤は肺がんの治療成績を劇的に向上させています。

今回は肺がんにおける免疫チェックポイント阻害剤とその適応条件などについて京都大学医学部附属病院 呼吸器内科 助教の金 永学先生にお話を伺いました。

がんの免疫療法には、民間療法的な要素の強いものから、医学的に効果が実証されているものまではさまざまなものがあります。今回は、現在肺がん治療の分野で大変注目されている医学的なエビデンスに基づいた「免疫チェックポイント阻害剤」による免疫療法についてご説明いたします。

がん細胞には体内のリンパ球と結合し、免疫の攻撃から身を守る特性があります。本来リンパ球はがん細胞を異物として認識し攻撃するのですが、がん細胞の表面のPD-L1という分子とリンパ球の表面のPD-1という分子が結合するとリンパ球の攻撃にブレーキがかかってしまうことが明らかにされています。従来の免疫療法ではリンパ球の活性を高めるなど、がん細胞に対する攻撃力を高めようとしてきましたが、思うような効果を出せませんでした。これは車でたとえるなら、ブレーキを思い切り踏んだ状態でアクセルをふかしているようなものです。

免疫チェックポイント阻害剤には、がん細胞表面のPD-L1とリンパ球表面のPD-1が結合するのを防ぐことによりブレーキを解除し、リンパ球が本来の力を発揮してがん細胞を攻撃できるようにする働きがあります。

肺がん治療の分野で最初に承認された免疫チェックポイント阻害剤は「ニボルマブ」です。ニボルマブはリンパ球の表面にあるPD-1という分子と結合することにより、PD-1とPD-L1が結合するのを防ぐことによって効果を発揮します。

記事1『肺がんの分子標的薬−適用条件と効果は?』でご説明した分子標的薬と同じく、免疫チェックポイント阻害剤もすべての肺がん患者さんに有効な治療方法というわけではありません。これまでに得られているデータによると、手術のできないステージ4の肺がん患者さん全体のおよそ20%に劇的な効果があるいっぽうで、およそ50%の患者さんにはまったく効果がないことがわかっています。

免疫チェックポイント阻害剤の効果のあるなしを前もって完全に予測する方法は、残念ながらまだありません。しかし、がん細胞の表面にPD-L1が多く発現している患者さんでは効果が高い傾向があることがわかっています。

PD-L1ががん細胞の表面にどのくらい発現しているかを調べる方法として、免疫染色による検査があります。免疫染色とは抗体を用いて特定の抗原(この場合はPD-L1)のみを検出、可視化する手法です。

免疫染色による検査は、非小細胞肺がん患者さんであればそれが扁平上皮がんであっても、非扁平上皮がんであっても行われます。ただし、非扁平上皮がんの場合にはまず先に遺伝子変異の検査を行い、分子標的薬の適応があるかどうかを調べ、その適応がなかった場合に免疫染色の検査を行います。扁平上皮がん、非扁平上皮がんの説明については記事1『肺がんの分子標的薬−適用条件と効果は?』を御覧ください。

2017年現在のガイドラインでは、免疫染色による検査でがん細胞上のPD-L1の発現が50%以上認められた場合、診断後すぐに免疫チェックポイント阻害剤を投与することがすすめられています。一方、PD-L1の発現がそこまで多くはない患者さんの場合には、何らかの抗がん剤による治療効果を行ったあとであれば免疫チェックポイント阻害剤を使用することが認められています。

PD-L1の発現が50%以上の患者さんに最初から投与が認められているのは、「ペムブロリズマブ」だけです。

免疫チェックポイント阻害剤の効果はニボルマブの第一相試験を受けた患者さんの予後によって証明されています。この試験は手を尽くしてあらゆる治療方法を行っても効果がみられず、抗がん剤治療を中心に治療されていたステージ4以降の患者さんを対象に行われました。つまり、ほとんどの患者さんは有効な治療を使い切ってしまっていたわけですが、それにもかかわらずこの第一相試験でニボルマブによる治療を受けた患者さんの5年生存率は16%でした。

もう助からないと考えられていた患者さんのうち16%がニボルマブの治療によって5年以上生存することができたわけです。

免疫チェックポイント阻害剤は抗がん剤と比較すると、副作用が軽い治療方法といわれています。実際、吐き気や抜け毛、白血球の減少といった抗がん剤特有の副作用はほとんど生じることがありません。

ただし、そこまで頻度は高くないのですが、まれに免疫関連の副作用が認められます。活発化したリンパ球が、がん細胞だけでなく、正常な細胞にも攻撃を仕掛けてしまうことがあるからです。リンパ球は全身に影響を与えるため、免疫チェックポイント阻害剤の副作用は体のどこにでも起こりえます。

比較的頻度が高いものとして、甲状腺や大腸の障害があります。リンパ球が甲状腺を攻撃してしまった結果甲状腺ホルモンが出にくくなったり、大腸の粘膜を攻撃してしまい酷い下痢や大腸炎に発展したりすることがあります。

また極まれではありますが、急激な筋炎、糖尿病なども引き起こし、発見が遅れると命にかかわることもあります。

免疫療法による副作用がひどく生じたときはステロイドホルモン剤を処方し、過剰な免疫反応を抑えることでその症状を和らげることができます。免疫チェックポイント阻害剤は副作用が起きる頻度は低いのですが、全身いたるところに症状が現れるおそれがあるため、診療科をまたいだ診療や細かな問診、血液検査等の数値の確認が大切です。これまでと違うと感じることがあったら、必ず医師に相談しましょう。

ちなみに、ステロイドホルモン剤で過剰な免疫を抑えても、がんに対する効果が弱まることはありません。

免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法は2017年現在、肺がんメラノーマ皮膚がんの一種)、腎細胞がんにのみ承認されています。しかし今後は他のがんに対しても適応が拡大されていくことでしょう。また、がん細胞とリンパ球の結合はPD-L1とPD-1だけでなく、他の分子でも起こっているといわれています。それらを解明し、それに対する免疫チェックポイント阻害剤を開発する動きも盛んに行われています。肺がん治療の分野では現在、下記のような課題に取り組み、免疫チェックポイント阻害剤をより適切に使用する方法を検討しています。

免疫チェックポイント阻害剤はある一定の期間投与すると、リンパ球ががん細胞を記憶し、みつけただけで攻撃を開始するようになるため、短い治療期間で済むのではないかといわれています。しかし、効果的な治療期間などは現段階で明らかになっていません。免疫チェックポイント阻害剤は価格も比較的高価で、患者さんやご家族への負担が大きいため、より短期間で確実な効果が得られるよう研究を行っています。

前述の通り、現在のところ免疫チェックポイント阻害剤は免疫染色による検査でPD-L1の発現が多い患者さんに有効性が高いことがわかっています。しかし、なかにはPD-L1の発現が多くない患者さんであっても、免疫チェックポイント阻害剤が劇的に効果を示す患者さんもいらっしゃいます。つまり、免疫染色による検査で免疫チェックポイント阻害剤の効果を完全に予測することはできません。

そのため現在、免疫療法が劇的に効果を示す患者さんにどのような特徴があるのかを研究し、効果を予測するうえでどのような検査が最も有効なのかが熱心に研究されています。

これからの時代、肺がんの新薬といえば免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬が主流になってくることでしょう。しかし現状としては免疫チェックポイント阻害剤も分子標的薬も効果のない患者さんもまだまだいらっしゃいます。

そのような患者さんを治療していくために、免疫チェックポイント阻害剤はさまざまな他の治療方法と組み合わせて使用することも検討されています。たとえば、免疫チェックポイント阻害剤と抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬、あるいは免疫チェックポイント阻害剤同士を組み合わせるなど、さまざまな研究が行われているところです。今後は更に効果的な治療方法が次々に発見されることが期待されています。

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