肺がん手術はよりからだに負担の少ない方法へと移行してきました。従来の大きく切る方法からより侵襲の小さな手術法である胸腔鏡手術へと移行し、胸腔鏡手術の普及によって、術後の患者さんの生活の質(QOL)も向上しました。飯塚病院における胸腔鏡手術の普及の背景にある現状について、飯塚病院の呼吸器外科部長であり呼吸器病センター長の大﨑敏弘先生にお話を伺いました。
飯塚病院での肺がんに対する胸腔鏡手術の割合は、『肺がんの手術。体に負担が少ない手術法「胸腔鏡手術」とは』でもお話ししたように84%であり、そのほとんどが完全胸腔鏡手術で行われています。
肺がんの進行度はTNM分類(病期、ステージ)と呼ばれる分類で評価されます。Tは肺にできたがんの大きさや広がり程度(T因子)、Nはリンパ節転移の程度(N因子)、Mは遠隔転移の有無(M因子)で、これら3つの因子を総合的に組み合わせることで病期が決定します。肺がんの病期は、1期(1A、1B)、2期(2A、2B)、3期(3A、3B)、4期にわけられ、手術の適応となるのは基本的には1期、2期および3期の早期の肺がんに限られます。
肺がん手術に胸腔鏡が導入された当時は、胸腔鏡の適応もきびしくしていました。飯塚病院でも腫瘍の大きさは2㎝未満一部の患者さんのみを対象としてスタートしましたが、現在では3㎝未満を超えても行っており、適応範囲も広がってきています。胸腔鏡手術の適応に関しては、さらに拡大してきており施設によって差があるのが現状です。
このように、胸腔鏡手術は比較的早期の肺がんが対象です。医療機関によっては、リンパ節への転移のある肺がんでも胸腔鏡で行っているところもあるようですが、我々のところでは、現時点ではリンパ節転移のある方には行っていません。
飯塚病院がある筑豊地区の高齢化は全国平均と比べると5年ほど進んでいると考えています。病院を受診する患者さんも高齢の方が多く、そのため手術を受けられる方の年齢も当然高くなるという地域的な特徴があります。
このグラフは飯塚市における高齢者人口の推移です。1990年からのデータですが、これをみると65歳以上の高齢者が毎年増えているのがわかります。飯塚市の高齢者比率は2010年で24.6%と、全国平均の23.1%を上回っていますが、その差は少しずつ小さくなってきました。
一方、このグラフは飯塚病院における呼吸器外科手術の推移です。2008年からのデータですが肺がんの手術数は年々増加しています。
過疎地はどこも同じだとは思いますが、ここ飯塚病院でも肺がんの患者さんの年齢も毎年高くなっています。
次のグラフは飯塚病院における肺がん手術を受けた患者さんの年齢分布です。なお、肺がん治療における高齢者の定義に決まったものはありませんが、2015年の肺がん診療ガイドラインでは、抗がん剤治療に関しては75歳以上が高齢者とされています。しかし手術に関しては、一般的に80歳以上を高齢者として考えます。手術を受けられる方の平均年齢は70歳ですが、80歳以上の患者さんも13.8%を占めています。
またこのグラフは飯塚病院で肺がん手術を受けた患者さんの高齢者の割合を年代別に見たものです。1999年からの5年毎にまとめたデータなのですが、このグラフからもわかるように高齢で手術を受ける方が増え続けています。2009年から2013年までの5年間では80歳以上の高齢者の割合は17.8%で、約5人に1人となっています。
肺がん手術において高齢者が増えた理由については、やはり侵襲(体への負担)が少ない胸腔鏡手術の導入が大きいといえるでしょう。手術時間が短く、出血や合併症も少ないからだに負担の少ない胸腔鏡が高齢者に受け入れられているからだと予測されます。
より侵襲の少ない治療法を必要とする高齢の患者さんにとって、胸腔鏡手術は治療の選択肢を広げる大切な治療法だといえます。
飯塚病院 呼吸器外科部長・呼吸器病センター長
飯塚病院 呼吸器外科部長・呼吸器病センター長
日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医・終身指導医日本外科学会 外科専門医・指導医日本胸部外科学会 指導医日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡指導医・気管支鏡専門医日本気管食道科学会 気管食道科専門医
飯塚病院呼吸器外科部長兼呼吸器病センター長。肺がん治療の柱として「低侵襲治療」「個別化治療」「集学的治療」を中心に地域医療に取り組む。2007年に飯塚病院に着任。以来、高齢化の進んだ筑豊地区だからこそ低侵襲な胸腔鏡手術が受け入れられる、と胸腔鏡手術の普及に尽力してきた。ひとりひとりの患者さんに応じたからだにやさしい治療をこころがけている。
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