肺がんとは、気管支や肺胞の細胞に生じるがんです。日本では男女ともに4番目に多いがんで、年間12万5,000人ほどが肺がんと診断されます。特に男性に多く、好発年齢は60歳以降です。早期には症状が出にくいため発見が難しく、見つかったときには進行しており手術が行えない場合が多いことなどから、治療の難しいがんとして知られています。
では、どのような症状が現れた場合に肺がんを疑えばよいのでしょうか。また、早期発見のためにでは何ができるのでしょうか。
肺がんは特徴的な症状がなく、初期の段階では無症状で経過することもあります。そのため、早期発見が難しいがんだといわれますが、発生部位や種類、進行度によって症状が現れる場合もあります。ただし、その症状も発生した部位によって異なるので注意が必要です。
肺門型肺がんとは肺の中心部にある太い気管支部分に生じる肺がんで、代表的なものに喫煙者によくみられる扁平上皮がん・小細胞がんなどがあります。
肺がんの中では比較的早く咳や痰、血痰などの自覚症状が現れ、がんが大きくなると気管支が閉塞しやすくなり、咳、発熱、胸痛などを伴う閉塞性肺炎が生じることがあります。さらに進行すると気管支の閉塞によって肺の一部に空気が入らなくなる無気肺が生じ、これが広範囲に及ぶと呼吸困難の症状を現します。
このような症状のほとんどはほかの呼吸器疾患でもみられ、肺がん特有の症状とはいえないため見落としやすいといわれています。しかし、咳の症状が1週間以上続くなど、気になる症状が継続して現れている場合には病院の受診を検討しましょう。また、血痰が生じている場合には肺がんの可能性があるため、速やかに病院を受診することを検討しましょう。
肺野型肺がんは肺の末梢部分に発生する肺がんで、代表的なものに喫煙をしていない人などにもみられる腺がんが挙げられます。
このような肺がんの場合、早期は無症状で経過することが一般的で、進行すると体重減少や体のだるさ、食欲不振、発熱などの症状がみられることがあります。
また、がんが肺にとどまっている間は無症状で、周辺の臓器に浸潤したり、遠隔臓器に転移したりした際の症状によって異変に気づくこともあります。たとえば、がんが胸膜や胸壁などに浸潤した場合には胸や背中に痛みが生じ、上大静脈という血管に浸潤した場合には顔や腕に浮腫が生じることがあります。脳に転移した際には、頭痛、吐き気、めまいといった症状が現れることがあります。
早期発見するためには、40歳を超えたら年に1回肺がん検診を受けることが大切です。
日本では公的な予防対策としてがん検診を実施しています。肺がん検診の場合、40歳以上の方を対象としており、主な検査方法は問診と胸部X線検査です。なお、50歳以上で一定以上喫煙をしている方はハイリスク群と呼ばれ、これらの検査に加えて喀痰細胞診検査が行われます。
胸部X線検査は自覚症状のない早期の肺野型肺がんを発見することに長けています。一方で、早期の肺門型肺がんは発見しづらいという特徴もあります。喫煙習慣があり肺門型肺がんに罹患しやすい方は、公的ながん検診だけでなく人間ドックや健康診断でCT検査を受けることも検討しましょう。
定期的ながん検診を受けるほか、そもそも肺がんを予防することも重要です。
肺がんの予防法には、第一に禁煙することが挙げられます。国立がん研究センターによれば、喫煙者は非喫煙者と比較すると男性で4.4倍、女性で2.8倍肺がんにかかりやすいといわれています。すでに喫煙している方でも10年間禁煙を継続させれば肺がんのリスクをおよそ半分に抑えられるといわれているため、喫煙している人は早めに禁煙を心がけましょう。
また、本人が喫煙をしていなくても家族などに喫煙者がおり、その副流煙を吸ってしまう場合(受動喫煙)、肺がんのリスクを20~30%高めるといわれているため、たばこの煙を避けて行動するようにしましょう。
肺がんに限らず、がん全般を予防するためには禁煙以外にも適切な飲酒量、バランスの取れた食事、適度な運動、健康的な体型の維持、感染予防などが重要です。
特に肺がんの場合は、まだ明確な結論は出ていませんが、野菜や果物を適度に摂取することで発症リスクを抑えられる可能性があるといわれています。厚生労働省の策定する“健康日本21”によれば、1日あたり350gの野菜と50gの果物を取ることが推奨されています。
肺がんには特徴的な症状はほとんどありませんが、気になる症状が続く場合には呼吸器内科など病院の受診を検討しましょう。また、40歳以降は喫煙者の方もそうでない方も年1回の肺がん検診を受け、早期発見に努めましょう。
なお、肺がんは禁煙や生活習慣の改善によって発症リスクを下げることが期待できます。日頃から予防に努めることを意識しましょう。
日本大学医学部附属板橋病院 呼吸器外科 部長、日本大学医学部外科学系呼吸器外科学分野 主任教授
日本大学医学部附属板橋病院 呼吸器外科 部長、日本大学医学部外科学系呼吸器外科学分野 主任教授
日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医日本胸部外科学会 会員日本外科学会 指導医・外科専門医日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡指導医・気管支鏡専門医
肺がん患者さんの根治を目指して
山梨医科大学(現山梨大学)を卒業後、国立がんセンター(現国立がん研究センター)でのレジデント時代に627例の手術を経験。現在までに通算2,000例以上の手術を経験し、2016年より日本大学医学部外科学系呼吸器外科学分野 主任教授に赴任し、後進の育成に力を注ぐ。国立がんセンター時代に描いた手術記録は全国的に高く評価されており、その絵は静岡がんセンターの電子カルテや肺癌取扱い規約などにも使用されている。
日本大学医学部呼吸器外科HPはこちら
http://nichidai-kokyukigeka.com/
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