肺がんの治療にはいくつかの方法があり、肺がんの進行の度合いによってその選択肢は変わってきます。手術をするのはどんなときなのでしょうか。また、手術の方法にはどんなものがあるのでしょうか。
これまで2,000例以上の肺がん手術を執刀されている化学療法研究所附属病院副院長の小中千守先生に、肺がんの手術についてお聞きしました。
「肺がんの治療——ステージごとの治療法」でお示ししたように、肺がんのステージ(進行の度合い)によって、治療の選択肢は異なります。
このように、ステージⅠおよびⅡの段階では、手術が治療の中心となりますが、ステージⅢでは状況に応じて手術以外の治療―化学療法や放射線療法との連携が必要になります。しかし、ステージIVまで進んでいる場合は手術による治療は困難となり、抗がん剤主体の治療になります。
肺がんが発生した場所や大きさによって、肺を切除する範囲は異なります。肺の構造は右肺が3つ、左肺が2つの肺葉(はいよう)に分かれていて、それぞれの肺葉がさらにいくつかの区域に分かれます。右は全部で10の区域、左は8の区域からできています。切除する範囲が大きいものから順に列挙すると以下のようになります。
がんが小さい場合には、肺の機能をできるだけ温存して患者さんの負担を少なくするため、医師は切除する範囲を最小限にとどめる方法(縮小手術)を検討します。
肺がん手術の術式は大きく2つに分かれます。ひとつは背中から脇にかけて大きく切開して行う開胸手術で、従来から行われているオーソドックスな手法です。もうひとつは小さく切開した部分から胸腔鏡と呼ばれる内視鏡を使って行うもので、開胸を伴わない完全胸腔鏡下手術(完全鏡視下手術)のほかに部分切開を併用する胸腔鏡補助下手術があります。
胸腔鏡の先端にはライトがついていて、カメラが映し出す範囲を照らしています。開胸手術でも場所によっては陰になって見にくい場合がありますが、胸腔鏡下手術ではより深い場所でも良好な視野で手術ができるという利点があります。また切開する傷が小さいため患者さんの負担が少なく術後の回復も早くなります。
しかし、胸腔鏡手術に慣れないうちはかえって時間がかかる場合もありますし、予期しない出血が起こった場合、とっさの対応が難しいなどの問題もあります。
また、縦隔リンパ節郭清が必要な場合には開胸手術のほうが確実であるとされていましたが、現在では胸腔鏡手術の技術が進歩したためどちらでも問題なく手術が行えるようになっています。
いずれにせよ、安全性や確実性とのバランスを考慮して、患者さんひとりひとりの状態に合わせたベストな方法を選択できることがもっとも重要です。
肺がんの手術後に起こりうるさまざまな合併症の中で特に重要なのは肺瘻(はいろう)・気管支瘻(きかんしろう)・急性間質性肺炎の3つです。
肺瘻・気管支瘻は手術の際に切開したところが塞がらず、空気が漏れてしまうことをいいます。
間質性肺炎は肺胞壁や支持組織など、肺の中で間質と呼ばれる組織が広範囲に傷つき、炎症を起こすものです。肺がんのために肺機能が低下して手術前から間質性肺炎を併発している方は、術後に症状が急激に悪化する場合があります。術後に患者さんが亡くなってしまうケースのうち、もっとも多いのがこの急性間質性肺炎です。特に患者さんが高齢の場合には注意が必要です。
外科切除後の5年生存率は全体で約50%です。性別でみると男性が約48%、女性が約60%と、女性のほうが良好です。
切除したがんの組織からみた実際のステージ(がんの進行の段階)ごとの5年生存率では、以下のデータがあります。(小細胞肺がんが3.4%含む)
ステージI(1期)
ステージII(2期)
ステージIII(3期)
ステージIV 19.3%
また、外科切除の手術後1ヵ月以内に亡くなった方は1.4%、手術後に退院することなく院内で亡くなった方は1.7%です。
赤羽リハビリテーション病院 院長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医・終身指導医日本臨床細胞学会 細胞診専門医・細胞診指導医日本呼吸器学会 呼吸器専門医・呼吸器指導医国際細胞学会 国際細胞病理医
日本において肺がん治療の伝統がある東京医科大学外科第一講座で、長年にわたり指導的立場で診療に従事してきた。気管支鏡専門医、細胞診専門医として診断を行い、呼吸器外科指導医としては現在まで2,000例以上の肺がんの手術を執刀した。1980年より全国に先駆けて胸腔鏡を用いた診断・治療を行い、肺がんに対しても、より侵襲の少ない手術を行っている。肺がんの化学療法にも力を入れており、呼吸器疾患における最新の診断・治療の実施をめざしている。
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