がんが未だに「告知」と言われるのは、「再発するかもしれない」「辛い手術が終わっても抗がん剤治療など延々と治療が続くかもしれない」というイメージがあるからです。ただ、早期がんはイボ取りと同じであると奥仲先生はおっしゃいます。胸部CTや気管支鏡検査の進歩により、早期がんを見つけやすくなっており、また、早期がんの段階でがんを見つけることが出来れば多くの選択肢を持つことができます。そのような中で、“低侵襲治療”というものが1つの大きなテーマになっています。
今回は、肺がんの低侵襲治療にについて、山王病院副院長・奥仲哲弥先生にお聞きしました。
低侵襲医療とは、手術や検査などに伴う痛みや出血を出来る限り少なくし、術後の臓器をなるべく温存するというものです。患者さんの身体への負担も少なく、その分回復が早いとされています。腹腔鏡を用いた手術は低侵襲手術の代表と言えるでしょう。胸部を20㎝程度切って覗き込むように行う開胸手術に比べ、内視鏡手術では皮膚に1、2㎝の穴を数カ所あけ、胸腔鏡の先に備え付けられているカメラの映像を見ながら手術を行います。傷口が小さくて済むため痛みや手術後の癒着(組織同士がくっついてしまうこと)も少なく、見た目も綺麗で、出血量も少なくて済みます。
Ⅰ期、Ⅱ期、(ⅢA期の一部)の肺がんの標準治療としては、「肺葉切除+リンパ節廓清(かくせい:取り除くこと)」が推奨されています。肺はいくつかの「肺葉」と呼ばれる部位に分かれていますが、がんが出来た場合、がんの属する肺葉を全て切除します。
しかし、極めて早期の肺がんが見つかった場合、このような治療が果たして適切なのかは疑問です。なぜなら、早期のがんに対しては、以下に述べるような選択肢があるためです。
早期肺がんであれば治療に多くの選択肢を持つことが出来ます。たとえば胸腔鏡下の縮小手術や内視鏡的治療などはその代表例でしょう。
腫瘍が1㎝も満たず、密度が低い場合は転移の可能性は低く、標準手術では「取り過ぎ」になる可能性もあります。高齢者や肺機能の悪い患者さんならなおさらです。こういう場合は、肺部分切除や肺区域切除を胸腔鏡下で行います。つまり、切除する肺を少なくする縮小手術が試みられています。
ただ、身体に負担がないかといっても、どんな場合でも胸腔鏡下の手術が良いかというとそういう訳ではありません。がんの状態や身体の状況によって、開胸手術でなくてはならない場合や、あるいは放射線治療が良い場合もあるでしょう。いずれにしても主治医の先生とよく相談し、治療法を決めることが重要です。
肺がんにおける内視鏡治療には“PDT”という技術があります。PDTは肺がんだけでなく食道がん・胃がん・子宮頸がんのうち、早期がんに対して適応のある治療法です。がんに対して親和性(がん細胞が結合しやすい性質や傾向)のある光感受性物質という薬を投与したのち、レーザー照射によってがんの病巣にのみダメージを与える治療法です。
詳細は次の記事「早期がんの最新低侵襲治療 PDTとは?」をご参照ください。
記事1:肺がんの早期発見のために肺がん検診が重要。X線検査、喀痰検査のススメ
記事2:肺がん検診の精密検査としてのCT、気管支鏡検査
記事3:早期肺がんの治療法 治療の選択肢を多く持つこと
記事4:早期がんの最新低侵襲治療 PDTとは?
山王病院 副院長/呼吸器センター長
山王病院 副院長/呼吸器センター長
日本外科学会 外科認定医・外科専門医日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医日本レーザー医学会 指導医日本呼吸器学会 呼吸器専門医日本癌治療学会 会員
肺がん専門の呼吸器外科医であり、3500例を超える手術実績を持つ。特に低侵襲手術(胸腔鏡手術や早期中心型肺がんに対する内視鏡的レーザー治療)を最も得意とする。手術だけでなく、化学療法や放射線療法に対しても造詣が深く、常に患者に対するベストな選択肢を提案する。肺がん専門の呼吸器外科医として、「診断から緩和ケアまで責任を持って診る」ことをモットーに、多くの患者をもつ。
禁煙の啓蒙を1つのライフワークとして取り組んでおり、多くの書籍を執筆している。セカンドオピニオン外来も行っており、全国から多くの患者が訪れる。
奥仲 哲弥 先生の所属医療機関
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