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骨転移で起こるがんロコモティブシンドロームにおける整形外科の役割

骨転移で起こるがんロコモティブシンドロームにおける整形外科の役割
土屋 弘行 先生

金沢大学附属病院 整形外科 主任教授

土屋 弘行 先生

目次
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ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)とは、運動器障害が原因で運動機能に低下が生じた状態です。このロコモとがんには、複雑な関係があることをご存知でしょうか。がん患者さんの中には、がんの骨転移やがん治療によってロコモティブシンドロームになる、“がんロコモティブシンドローム”の方がしばしばおられます。がんロコモが進行すると日常生活に支障が生じるだけではなく、全身状態が悪化して標準的ながん治療が受けられなくなってしまうこともあります。金沢大学病院整形外科教授の土屋 弘行(つちや ひろゆき)先生は、これからのがん医療を発展させるためには整形外科医がもっとがん治療に関与して、がんロコモのケアに携わっていくことが求められるとおっしゃいます。骨転移で起こるがんロコモを中心に、がんロコモにおける整形外科医の役割についてお話しいただきました。

がんロコモティブシンドローム(以下、がんロコモ)とは、がんの骨転移(がんが骨に転移すること)、がんの治療、もともと持っている運動器疾患など(変形性関節症骨粗しょう症腰部脊柱管狭窄症など)が原因で運動器(骨・筋肉・関節・神経)に障害が起こり、動くことが困難になった状態を指します。がんロコモが進行すると、日常生活に支障が生じ、要介護になるリスクが高まるとされています。

そもそもがんは中高年を中心に発症する病気で、がんにかかる前から整形外科基礎疾患(変形性関節症・骨粗しょう症・腰部脊柱管狭窄症・リウマチなど)をお持ちの方も多くおられます。そのような患者さんが、がん治療で化学療法や放射線療法を受けた場合、神経障害や筋肉の萎縮が起こることが予測されます。筋肉が委縮すると運動器に力が入りづらくなり、進行すると徐々に歩行や軽作業などの日常生活動作も困難になっていきます。つまり、がんロコモを放置して治療だけを続けると、やがて患者さんの生活が制限され、QOL(生活の質)が著しく低下してしまうのです。

肺がん腎臓がんなどから生じるがんの骨転移は、疼痛(とうつう)骨折、脊髄麻痺などを起こしやすいとされており、特にがんロコモに注意しなければなりません。このため今回は、主に骨転移によるがんロコモについてお話しします。

先に述べたとおり、がんロコモの原因の1つは、がんの骨転移であることが知られています。がんの骨転移が起こった骨は、下記のいずれかのタイプによって異なる変化を生じます。

溶骨型

骨転移によって骨が溶けてしまうタイプです。腎臓がん肺がんによる骨転移では溶骨型が多くみられます。

硬化型

溶骨型とは逆に、骨転移によって骨が作られて丈夫になるタイプです。前立腺がんは硬化型の骨転移を起こすことが多いとされています。

混合型

溶骨型と硬化型が混ざり合ったタイプで、乳がんの骨転移などで比較的多くみられます。

骨梁間型

骨梁(こつりょう)の間にびまん性に腫瘍細胞が広がるタイプで、骨融解や骨形成のいずれもほとんど起こりません。

4種類の骨転移の中でも、骨が溶ける溶骨型の骨転移を起こす肺がんや腎臓がんの患者さんは、骨転移によるQOLの障害が著しいことが予測できます。骨が溶けやすいとささいな動作でも骨折をしやすくなるので、溶骨型の患者さんは強い運動制限および歩行制限を強いられるとともに、骨転移に対する治療が必要です。

一方、造骨型の骨転移の場合は骨折のリスクがほとんどないので、運動制限や治療はほとんど必要ありません。

つまり、一口にがんの骨転移といっても、どの種類の骨転移であるかによってQOLの障害の程度や治療方針は変わってくるのです。

がんを扱う各診療科におけるがんロコモへの対策は、2019年1月現在、あまり積極的に行われていないのが現状です。たとえば背骨にがんが転移して脊髄麻痺をきたし、下半身がまったく動かなくなってしまった患者さんは、末期状態と判断されて、そのままベッド上で寝たきりにされてしまっていることも少なくありません。

このように、骨を専門に診る整形外科ががん治療に関与せず、原発がん(転移のもととなった大元のがん)の担当診療科だけで骨転移を同時並行で診ている状態は、大きな問題だと考えます。あまり知られていない事実ですが、このように骨転移のあるがん患者さんの治療に整形外科が関与し、骨転移に対する手術治療を行えば、がんロコモを改善できる、すなわち患者さんのQOLを改善あるいは維持できる可能性があります。

ただし、骨転移のみられる全ての患者さんに手術を行うわけではありません。整形外科における骨転移の治療方針は、患者さんの容体と治療後の日常生活を総合的に考えたうえで判断されます。こちらのページでもお話ししましたが、手術は基本的に、薬物療法や放射線療法で効果が芳しくない場合に検討される最終的な手段であり、手術によって患者さんにメリットがあるということが適応の大前提です。

整形外科がどれだけ骨転移の治療に関与するのかについては、原発がんの治療を担当している医師と相談して決定します。患者さんの余命と全身状態、骨転移の治療によるQOL向上の程度を比較検討したうえで、全身状態が悪ければ手術はせず、装具固定のみとする場合もあります。これだけでも、まったく動けなかった体が寝返りを打てるようになるなど、患者さんにメリットがあります。一方、次にご紹介するような、全身状態は良好だが背骨にがんが転移して麻痺が出ており、薬物や放射線では治療が追い付かないなどの場合は手術を検討します。

本項では、骨転移に対する整形外科の関与で患者さんを治療した実際の事例を1つご紹介します。

その患者さんは肺がんの背骨への転移が原因で、足に麻痺が生じていました。患者さんはご自身で情報を集めてがんロコモのことを知り、先に麻痺を治してほしいと、当院整形外科に手術を依頼されました。患者さんの全身状態は良好で、年齢的に体力にも余裕があったので、われわれは直ちに骨転移に対する手術を実施しました。

手術が終了した翌日、患者さんの麻痺は改善されて足が動くようになりました。さらに手術から1か月後には、自立して歩行できるまでに回復したのです。その後肺がんの手術を呼吸器外科で受けた患者さんは、今も元気に生活していらっしゃいます。

骨転移に対する手術でがんそのものを治すことはできませんが、手術後には自立して歩いたり、1人でトイレに行ったりすることもできるようになる方が多くいらっしゃいます。自立した生活を送れることは患者さんのQOLを向上させるだけでなく、治療に対する前向きな気力をもたらして、原発がんへの治療にもポジティブな影響を与えることが期待できます。

このように、整形外科のがん治療への関与はがんロコモの改善のみならず、がん治療全体に好循環を生むはずです。

だからこそ、私が原発がんの治療を行う各診療科の先生方に何よりもお願いしたいのは、骨転移のある患者さんをまずは一度整形外科に紹介していただきたいということです。繰り返しになりますが、これまで末期状態で治療の見込みがないと思われていた患者さんも、整形外科で骨転移の手術を行うことでがんロコモが改善されれば、治療が可能になるかもしれません。原発がんを治療する診療科と整形外科が積極的にコミュニケーションをとって患者さんの治療にあたることが大事です。では、どのような場所でコミュニケーションをとればよいのでしょうか。

他科と整形外科がコミュニケーションをとるために重要なのは、キャンサーボード*の活用です。

当院では月に1度、任意参加のキャンサーボードを開催しています。今後はこの頻度を増やしたり、より細かい点まで話し合ったりなど、キャンサーボードを今まで以上に推進して、整形外科医が適正にがん治療に関与できる仕組みを作りたいと考えています。

*キャンサーボード:がん患者さんの治療方針などを決めるためにさまざまな分野の専門家が集結し、ディスカッションや共有などを行うカンファレンスのこと。

土屋弘行先生

がんロコモの解決のためには、「がんだから運動制限は仕方ないものだ」と考えず、がん治療とがんロコモ治療を同時並行で進めていく必要があります。繰り返しになりますが、がんロコモが進行すると日常生活に支障をきたして全身状態が低下し、適切ながん治療を受けられなくなってしまいます。患者さんに適切ながん治療を受けていただくために、整形外科医はがんロコモの解決に向けて積極的に行動していくことが大事です。

これからのがん医療は、多診療科・多職種連携を意識したチーム医療で取り組むことが求められています。整形外科医はその中で、がんロコモに対する知識を深め、がんロコモのケアを担う中心的役割を果たさなければなりません。

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