骨軟部腫瘍とは、骨にできる骨腫瘍と、軟部組織にできる軟部腫瘍の総称です。一般的には腫れ(腫瘤あるいはコブ)や痛みなどの症状がみられるほか、骨が溶けるタイプの悪性骨腫瘍では骨がもろくなるため、ささいな衝撃でも骨折してしまいます。また、痛みを伴う5cm以上の大きな腫れがみられる場合、悪性軟部腫瘍の可能性が高いと考えられています。患者数の少ない骨軟部腫瘍を正しく診断・治療するためには、良性・悪性の区別をつけるためにも症状の違いを知っておくことが大事です。骨軟部腫瘍の診療を積極的に行われている、金沢大学病院整形外科教授の土屋 弘行先生にお話しいただきました。
骨軟部腫瘍とは、骨に発生する腫瘍である“骨腫瘍”と、軟部組織に発生する腫瘍である“軟部腫瘍”を総称した呼び名です。骨腫瘍と軟部腫瘍の症状には共通点がありますが、その病態や進行は異なることがあるので、両者は別物として分けて考えることが大事です。
それでは、骨腫瘍と軟部腫瘍それぞれの特徴についてお話ししましょう。
骨腫瘍とは、その名のとおり骨の組織に発生する腫瘍です。
骨腫瘍は、骨そのものに発生した原発性骨腫瘍(良性骨腫瘍・悪性骨腫瘍)と、ほかの場所のがんや腫瘍が骨に移ってできる転移性骨腫瘍に大きく分けられます。
原発性悪性骨腫瘍とは、骨自体からがんが発生するタイプの骨腫瘍で、骨肉腫や軟骨肉腫など複数の種類があります。
骨肉腫は膝関節や肩に多くみられます(高齢者が骨肉腫を発症するケースもあります)。
2019年1月時点で、骨肉腫の原因は明らかにされていませんが、一部の骨肉腫では、DNA増殖抑止機能を持つ網膜芽細胞腫遺伝子という遺伝子などの異常や骨パジェット病、電離放射線が発症に関与しているという説もあります。
軟骨肉腫は軟骨組織が増殖した骨腫瘍の一種で、主に四肢(大腿骨や上腕骨)、骨盤などに多く発生します。骨肉腫と異なり、30歳以降の成人の患者さんが多く、進行も緩やかだと考えられています。ただし、子どもの頃に軟骨腫や骨軟骨腫(外骨腫)などの良性骨腫瘍を多発していた場合は、成人以降にこれらが悪性化して軟骨肉腫となる場合もあります。
転移性骨腫瘍とは、肺や乳房、腎臓、前立腺など、もともと別の臓器に発生したがん(原発がん)が骨に転移することでできた腫瘍を指します。原発性悪性骨腫瘍よりも患者数が多く(年間に15~20万人が発症)、悪性骨腫瘍の大半は転移性骨腫瘍が占めていると考えられています。
どのがんにも骨転移を起こす可能性がありますが、肺がん・乳がん・腎臓がん・前立腺がん・甲状腺がんは特に骨転移の頻度が高いことで知られます。これらのがんがなぜ骨転移を起こしやすいのかは分かっていませんが、骨組織との親和性の高さ(骨肉腫の細胞が肺の組織を好んで接着するのと同様に)が関係しているのではないかと推察します。
また、骨肉腫などの原発性悪性骨腫瘍から他臓器へ転移する場合もあります。その場合、多くが肺に転移します。骨腫瘍の肺転移もがんの骨転移と同様に、骨腫瘍細胞と肺の細胞の親和性の高さが影響していると考えられます。しかし、この理由も分かっていません。
良性骨腫瘍は膝や股関節周囲、手の骨に多発することが分かっています。
悪性と違って転移の可能性がなく、大きくなる場合も通常は経過が緩やかです。良性骨腫瘍は20種類以上存在すると推定されますが、いずれも直接的に患者さんの命を脅かすリスクはほとんどありません。
ただし、遺伝性の多発性内軟骨腫症や多発性外骨腫症など、一部の良性骨腫瘍を幼少期に発症していた場合、年月がたってから悪性化する可能性があるので、良性骨腫瘍であっても入念に腫瘍の状態を経過観察することが大事です。
無症状の時点では経過観察で問題ありませんが、痛みや変形、それに伴う成長障害などの症状が現れ、生活に支障が生じてきた場合は治療を開始します。また、骨巨細胞腫という良性骨腫瘍では、骨が溶ける・再発しやすいという特徴があるので、骨折や変形を防ぐためにも手術が必要です。
人の全身は、皮下組織や皮膚の直下にある脂肪組織、筋肉、血管、神経、関節など、あらゆる軟部組織によって支えられています。軟部腫瘍は、これらの組織に発生する腫瘍の総称です。このため軟部腫瘍は、脂肪組織にできる脂肪腫、心筋に発生する軟部肉腫など、軟部組織の存在するところであれば、どこにでも発生する可能性があります。
軟部腫瘍の大半は脂肪腫や血管腫などの良性腫瘍です。ただし、30%程度の確率で悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)が発生することもあります。悪性軟部腫瘍は大腿(太もも)や腕、肩、腋周囲など、体の中心付近に生じやすいことが知られていますが、この詳しい理由は分かっていません。
骨部腫瘍・軟部腫瘍共に、明確な原因は明らかにされていません。
一部の悪性骨軟部腫瘍は、特異的な遺伝子の異常が発症の要因になっているという報告があり、研究が進められています。しかしながら、遺伝子異常が要因になるケースはごく一部に過ぎず、今後のさらなる原因究明が求められます。2019年1月時点では、遺伝子変異と環境要因(発がん物質の刺激など)の両方が複雑に絡み合って発症するという説が一般的です。また、親から子へ遺伝する病気ではありません。
骨腫瘍の主な症状は痛みと腫れです。原発性悪性骨腫瘍と原発性良性骨腫瘍、転移性骨腫瘍では、痛みの強さや頻度に差がみられます。
原発性悪性骨腫瘍の場合は、進行性のずきずきとした痛みが特徴です。初期段階では体重をかけた部分が鈍く痛む程度ですが、時間の経過とともに痛む頻度や強さが悪化していき、徐々に安静時にも痛みを感じるようになります。また、悪性骨腫瘍が進行すると、腫瘍が骨を侵食して溶かしていくので、歩行や窓の開閉などのわずかな外力が骨に加わるだけでも骨折してしまいます。骨折してから発見されることもありますが、この時点でかなり進行してしまっていると考えられるので、じっとしていても痛みを感じるようになった場合は、早急に整形外科を受診してください。
転移性骨腫瘍の場合、悪性骨腫瘍と同様に痛みや骨折がみられるほか、脊髄圧迫、高カルシウム血症などの症状が特徴です。ただし、初期段階では無症状のことも少なくありません。
良性骨腫瘍の場合は悪性骨腫瘍のような進行性の痛みではなく、痛みが強くなったり弱くなったり、場合によっては消失することもあります。また、良性骨腫瘍の痛みは安静時には感じられません。
痛み以外の症状として、内軟骨腫症などの一部の良性骨腫瘍では、腫瘍発生部の変形や脚長不等(手足の長さが違うこと)がみられます。
軟部腫瘍の発症初期には痛みを感じないこともありますが、腫瘍が大きくなると神経が圧迫されて、徐々に痛みが生じてきます。
また、軟部腫瘍の場合、腫瘍の大きさが良性・悪性を区別する指標の1つになります。腫瘍が5cm以上の場合、組織の深部に発生して痛みや炎症を伴う場合、癒着している場合は悪性軟部腫瘍の可能性が高いと考えられます。これに対して腫瘍が5cm以下の場合は良性であることが多いです。
ただし、腫瘍の大きさだけで良性・悪性を判断することはできません。診断は、次のページでご紹介する複数の検査を実施したうえで総合的に確定します。
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