概要
網膜芽細胞腫とは、眼球内に発生する悪性腫瘍のひとつで、その多くは5歳までのお子さんに発症します。小児期に発症する眼球内腫瘍のなかでは最も頻度が高く、日本においては年間70〜80名の新規発症例があります。早期発見、治療方法の向上もあり、10年生存率は90%以上であると報告されています。治療方法の選択には生命予後以外に、視力の予後についても考慮が必要となる疾患です。
網膜芽細胞腫は、遺伝性疾患として発症することがあります。この場合においては、両側の眼球で発症することがあります。また、将来的に別のタイプの悪性腫瘍を発症することもあります。さらに、お子さんが同じような病気を発症する可能性も伴います。したがって、網膜芽細胞腫の治療においては、長期的なフォローアップ体制や、遺伝カウンセリング体制を敷くことがとても重要です。
原因
網膜芽細胞腫は、網膜芽細胞腫遺伝子(RB1遺伝子)の異常に伴い発症します。RB1遺伝子は「がん抑制遺伝子」と呼ばれる遺伝子の一種です。がん抑制遺伝子は、細胞増殖に対してブレーキをかけて調整するはたらきを持ちます。
RB1遺伝子は人の細胞の中に2本存在しており、それぞれ両親から1本ずつ受け継いでいます。1本に異常が存在するのみでは網膜芽細胞腫の発生には至りません。しかし、2本とも異常を示した場合には、細胞が無秩序に増殖するようになってしまい、悪性腫瘍が発生することになります。RB1遺伝子の異常は網膜芽細胞腫のみならず、骨肉腫など他の臓器における悪性腫瘍とも密接に関与しています。
網膜芽細胞腫は、遺伝性疾患としての側面を持つ場合もあります。この場合、網膜の細胞のみならず全身に異常が指摘されます。また、網膜芽細胞腫が両眼に発生したり、治癒後に別の臓器において悪性腫瘍が発生したりする可能性を伴います。さらに、患者さん自身の兄弟やお子さんにもRB1遺伝子異常が存在する可能性があり、問題はさらに複雑化します。
RB1遺伝子の変異において、生じやすいホットスポットがあることも知られていますが、どの部位においても生じ得ます。なかには、「欠失」と呼ばれるタイプの遺伝子変異を生じることがあります。この場合はRB1遺伝子以外の遺伝子も同時に障害を受けることになります。その結果、成長発達障害や特徴的な顔貌(かおかたち)などの症状を同時に来すこともあります。
症状
腫瘍が小さいうちは症状を認めませんが、ある程度大きくなると出現するようになります。初発症状として多いのは、白色瞳孔(瞳孔が白くなること)です。水晶体の後ろに腫瘍が発育することにより、瞳孔に光が入らなくなり、白く見えます。特にカメラのフラッシュをたいて写真撮影を行ったときや、薄明かりの状況で目立ちやすい症状です。
その他、両側の眼球が同じ方向を向かなくなる「斜視」が生じることも多いです。また、これに関連して眼を細めるような動作をすることもあります。さらに、結膜充血や眼瞼(まぶた)の腫脹(腫れ)、眼球突出などを指摘できることもあります。発生部位や進行の程度によっては、視力低下や失明といった状況を引き起こすこともあります。
検査・診断
網膜芽細胞腫は、眼底検査によって眼球内腫瘍を確認することから診断されます。また、網膜のなかで腫瘍が発生している位置を評価することが重要です。これにより将来的な視力障害の程度が変わってくるためです。
診断がついた後には、網膜に病変が留まっているのか、眼球の外に出ているのか、さらには全身の臓器に広がっているのかを評価することになります。この目的のために超音波検査、CT、MRIなどの画像検査を併用することになります。
また、網膜芽細胞腫は骨髄や髄液にも進展することがあるため、骨髄検査、髄液検査などが併用されることもあります。遺伝性が疑われる場合には、RB1遺伝子の異常を検索するために、G-banding、FISH、メチル化解析などの遺伝子検査が行われることもあります。
治療
網膜芽細胞腫の治療では、生命を救うという観点はもちろんですが、視力や眼球をどれだけ温存できるかどうかも視野に入れながらの方針決定が重要です。
網膜芽細胞腫が眼球内に留まる場合
眼球を摘出するのか、もしくは温存するのかが選択されます。具体的には手術的な眼球摘出術、化学療法(特に抗がん剤の局所療法)、レーザー治療、温熱療法、冷凍凝固治療などが検討されることになります。放射線療法は、治療効果は高いものの合併症が看過できないものであることから第一選択にはなりにくいです。
眼球の外に網膜芽細胞腫の腫瘍を認めた場合
腫瘍を摘出し、放射線治療・化学療法を併用して治療する場合が多いです。化学療法も局所療法というわけにはいかず、大量療法が施行されることになります。
遺伝性の網膜芽細胞腫
網膜芽細胞腫以外にも骨肉腫、松果体腫瘍(三側性網膜芽細胞腫)、皮膚黒色腫(メラノーマ)、脳腫瘍などの2次がんを発症するリスクを伴います。網膜芽細胞腫の治療が終了した後も、こうした悪性腫瘍が発生しないかどうかを注意深く経過観察することが必要になります。また患者さんの同胞や、次世代のお子さんが同様の病気を発症することもあるため、遺伝カウンセリングが必要になることもあります。
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