概要
骨軟部腫瘍とは、骨や軟部組織(筋肉・脂肪など)に発生する腫瘍のことをいいます。骨にできる“骨腫瘍”と、軟部組織に生じる“軟部腫瘍”に分けられます。
骨軟部腫瘍には良性と悪性があり、悪性骨軟部腫瘍のことを“肉腫”と呼ぶこともあります。そのほか、別の部位に発生した悪性腫瘍(がん)が骨や軟部組織に転移したものを転移性骨軟部腫瘍、骨軟部組織自身から発生した腫瘍を原発性骨軟部腫瘍と分けることもあります。
転移性の軟部腫瘍はまれで、転移性骨軟部腫瘍の多くは転移性骨腫瘍です。原発性骨軟部腫瘍のおよそ90%以上は良性腫瘍であり、悪性の原発性骨軟部腫瘍は非常に少なく、希少がんに分類されています。
骨軟部腫瘍は子どもから高齢の方まで幅広い年齢層にみられる病気で、発生部位もさまざまです。
種類
前述のとおり、骨軟部腫瘍には良性腫瘍、悪性腫瘍があるほか、良性と悪性の中間的な性質を持つ“中間型腫瘍”も存在します。
良性腫瘍
良性腫瘍とは、腫瘍から離れた部位への転移を原則として生じない腫瘍のことをいいます。主な良性骨腫瘍として、骨嚢腫、非骨化性線維腫、骨軟骨腫、内軟骨腫、主な良性軟部腫瘍として、脂肪腫、神経鞘腫、血管腫などが挙げられます。
中間型腫瘍
良性と悪性両方の性質を併せ持つ腫瘍のことをいいます。主な中間型腫瘍として、骨巨細胞腫、デスモイド型線維腫症、孤在性線維性腫瘍などが挙げられます。
悪性腫瘍
悪性腫瘍は腫瘍が周辺の組織へ広がりやすく、腫瘍から離れた位置に転移する可能性もあります。手術の際に腫瘍を傷つけてしまうと悪性の腫瘍細胞が散らばり、より治療が困難になるため注意が必要です。
骨や軟部組織から発生する原発性悪性腫瘍としては、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、脂肪肉腫、粘液線維肉腫、未分化多形肉腫、滑膜肉腫などが挙げられます。このほかに、内臓などのがんが骨や軟部組織へ転移して生じる転移性骨軟部腫瘍もあります。
原因
骨軟部腫瘍の多くはいまだ発生原因が分かっていませんが、基本的にはほかのがんと同様に遺伝子の異常によって生じるものと考えられています。中には原因となる遺伝子異常が明らかになっているものもあり、現在世界中で研究が進められています。
悪性軟部腫瘍の一部は血縁者間での遺伝が起こり得ることが分かっているほか、良性骨腫瘍の中にも遺伝が関与して発症するものがあります。
症状
骨軟部腫瘍の主な自覚症状は腫瘤(しこり)と痛みで、骨腫瘍と軟部腫瘍でそれぞれ特徴が異なります。
骨腫瘍の主な症状
体の骨の一部に硬いしこりを触るものの特に痛みなどは感じないもの(骨軟骨腫など)から、腫瘍による骨の破壊のため、運動時や荷重時に病変部に痛みを感じるもの(骨嚢腫、骨肉腫など)まで、発生部位や腫瘍の性質によってさまざまな症状が現れます。
腫瘍が関節の近くに発生した場合、関節がうまく曲がらなくなり気が付くこともあります。特に骨の破壊を生じる腫瘍では、進行するとちょっとした負荷(起立、歩行など)で骨が折れる(病的骨折)こともあるため注意が必要です。
軟部腫瘍の主な症状
太ももや上腕、指などに痛みのないしこりが生じ、徐々に大きくなることが一般的です。大きさは、1cm以下の小さなものからボールほどの大きなものまでさまざまです。悪性軟部腫瘍が大きくなると、腫れた部分に温かさを感じたり表面に血管が浮き出てきたりします。
神経鞘腫という神経に生じる良性腫瘍では、腫瘍部を叩くとビリッとした痛みを感じることもあります。
検査・診断
骨軟部腫瘍が疑われた場合、まずは現在の症状や、しこりや痛みなどを自覚してからどれほどたっているか、その経過などを問診で確認します。そのうえで診察(理学検査)を行い、必要な画像検査、病理検査を実施します。
理学検査
理学検査とは、いわゆる触診や打診などのことで、医師が直接病変部を診察することで性状を把握します。しこりの大きさを測定するほか、押して痛みが生じるかどうか、動きはあるかどうかなどを確認します。悪性腫瘍が疑われる場合には、リンパ節の腫れがないかなども確認します。
画像検査
画像検査としてはまず単純X線検査や超音波検査を行った後、必要に応じてCT検査やMRI検査などが検討されます。悪性腫瘍が疑われる例ではPET検査による腫瘍の悪性度やほかの部位への転移の有無などを確認することもあります。
病理検査
問診・理学検査・画像検査のみでおおよその診断が可能な場合もありますが、骨軟部腫瘍は種類も多いため、多くの場合、確定診断のためには病理検査が不可欠です。
病理検査では、針(生検針)による穿刺や小手術によって腫瘍の組織を採取し、それを顕微鏡で観察することによって腫瘍の性質を判断し、診断します。
治療
骨軟部腫瘍の治療方法は病気の種類(悪性度、部位、症状など)によって大きく異なります。
良性骨軟部腫瘍
骨腫瘍の場合、無症状であれば経過観察となることもありますが、骨がもろくなっている場合や痛みがある場合には手術治療(切除、あるいは掻爬*と骨移植の組み合わせ)も検討します。軟部腫瘍も同様で、無症状であれば経過観察、痛みなどの症状があれば、症状緩和を目的とした手術も検討されます。
*掻爬:腫瘍など体内の組織をかき出すこと
中間型腫瘍
骨巨細胞腫、孤在性線維性腫瘍などでは手術による治療が検討されます。デスモイド型線維腫症に関しては手術後の再発率が高いこともあり、経過観察や薬物療法などの保存的治療が第一選択となります。
悪性骨軟部腫瘍
骨腫瘍の場合、転移がなければ手術治療で腫瘍を完全に取り除いたうえで、人工関節などを用いて患肢機能を再建(患肢温存)できるか検討します。MRIなどの画像診断法、効果的な薬物療法の開発によって、以前に比べて切断せざるを得ない患者さんの割合は減少してきました。
転移性骨腫瘍の場合、患者さんの状況や体力、もとのがんの種類や進行状態などに応じて手術治療が検討されることもあります。
軟部腫瘍の場合も、転移がなければ手術治療で腫瘍を完全に取り除き、必要に応じて皮膚や軟部組織の再建を行います。腫瘍の取り残しがないよう、切除範囲を大きく取ること(広範切除)が必要です。病気の種類や腫瘍の位置、大きさなどによっては、術前・術後に放射線治療や薬物療法を組み合わせることもあります。
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