概要
神経鞘腫は、脳や脊髄からなる中枢神経と体全体をつなぎ情報伝達を行う“末梢神経”を取り巻く膜(シュワン細胞)から生じる良性の腫瘍です。シュワン細胞は末梢神経を取り囲み、主に神経線維を守ったり、栄養を与えたり、傷ついた神経の再生に関わったりする重要な役割を持ちます。
神経鞘腫のほとんどは良性で、がんのように転移することはなく、腫瘍は一般的にゆっくりと大きくなっていきます。通常は成人にみられる病気ですが、子どもに発症することもあり、男女差はありません。
この病気は皮下組織や筋肉などの軟部組織*に生じることが多いものの、脳神経や脊髄神経、まれに消化管などに生じることもあります。また腫瘍の多くは1か所にできる単発性ですが、まれに多発することがあります。特に神経線維腫症2型(NF2)という生まれつきの病気があると多発しやすい傾向にあります。
*軟部組織:内臓、骨、皮膚以外の組織のこと。筋肉、腱、脂肪、血管、神経などを指す。
原因
神経鞘腫が生じる原因については、まだ分かっていません。ただしNF2の患者では多発しやすいことが分かっています。NF2の原因は第22染色体にある遺伝子の変異と考えられています。
症状
神経鞘腫は発生した部位によって現れる症状が大きく異なります。以下は、特によくみられる軟部組織、そして脳神経に発生した場合の症状です。
軟部組織の神経鞘腫
無症状で経過することもありますが、圧迫すると痛みが生じる場合もあります。そのほか、神経に沿ってしびれが生じたり、痛みが広がったりすること(放散痛)があります。
脳神経の神経鞘腫
腫瘍の生じる部位によっても症状は異なります。脳神経から発症する神経鞘腫の90%以上は聴神経のうちの前庭神経から、そのほか三叉神経、顔面神経、下位脳神経などによくみられます。
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)では、主に耳鳴りや難聴、めまいなどが現れます。また三叉神経に生じた場合は顔に痛みやしびれがみられ、下位脳神経に生じた場合には飲食物などが飲み込みづらくなるほか、話しにくい、声がかすれる、舌が動きにくくなるなどの症状もみられます。
これらの症状に加え、腫瘍が大きくなると脳が圧迫されることによる頭痛や吐き気、物忘れ、半身の麻痺などの症状が現れる場合もあります。
検査・診断
神経鞘腫の検査では主に画像検査を行います。そのほか、生検や電気生理検査が検討されることがあります。
画像検査
画像検査としては、CT検査やMRI検査が検討されます。腫瘍の位置や形状、性質について確認するほか、手術を検討する場合には治療計画にも役立ちます。
生検
生検とは、病変の一部を採取して顕微鏡で見ることにより診断をつける検査を指します。軟部組織に生じた腫瘍の場合は確定診断のために、全身麻酔のうえで実施される切開生検を行うこともあります。
電気生理検査
神経の機能を確認するために行われることがある検査です。たとえば、聴神経の機能をみる場合は、聴性脳幹反応検査(ABR)*が検討されます。
*聴性脳幹反応検査:おでこや耳に電極を着け、ヘッドホンから音が聴こえた際の脳の反応をみる検査。
治療
神経鞘腫の治療方法は発生部位によって異なります。軟部組織に生じた場合と脳神経に生じた場合は以下の対応を行います。
軟部組織に生じた神経鞘腫の場合
ほとんどが良性腫瘍のため、症状がない場合や治療によって重篤な神経障害を生じる可能性がある場合は経過観察をすることもあります。
末梢神経に生じた神経鞘腫の手術
症状があり、手術で摘出可能と判断された場合には手術を行います。手術では、被膜を切り開いて神経線維を残した状態で腫瘍のみを摘出します。
脳神経に生じた神経鞘腫の場合
脳神経に生じた神経鞘腫が大きくなると脳を圧迫する可能性があるため、慎重に治療を検討します。3cm以下であれば経過観察として定期的にMRI検査を行い、腫瘍の大きさが変わらなければ様子を見る場合もあります。
手術治療
一般的に3cm以上であれば手術治療で摘出します。良性腫瘍がほとんどのため、腫瘍をうまく取り除ければ根治が期待できます。
しかし、脳神経外科手術の中でももっとも難しい手術の1つといわれており、脳神経を傷つける可能性があります。手術中に神経機能を監視するモニターを用いて安全性を確認しながら手術を進められる、頭蓋底外科の専門施設での手術が推奨されています。
放射線治療
前庭神経鞘腫では、ガンマナイフなどの放射線治療が検討されることもあります。具体的には腫瘍が3cm以下で治療を行う場合に実施され、再発して悪性化した場合では、手術療法と組み合わせた治療が検討されることもあります。
放射線治療は腫瘍の縮小や成長を抑える効果が期待されるため、特に高齢者や手術後の再発を考慮して行うこともあります。
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