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編集部記事

神経に発生する“神経鞘腫”ってどんな病気?~発症部位によって聴力低下や感覚異常などが起きる~

神経に発生する“神経鞘腫”ってどんな病気?~発症部位によって聴力低下や感覚異常などが起きる~
山本 哲哉 先生

横浜市立大学附属病院 脳神経外科 主任教授

山本 哲哉 先生

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神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)(別名シュワン細胞腫)は脊髄(せきずい)神経や脳神経などの神経の周りを覆っている神経鞘から発生する良性腫瘍(しゅよう)であり、悪性はまれです。神経鞘腫は発症する神経の場所によって名称が異なります。なかでも90%以上が聴神経腫瘍とよばれる前庭神経鞘腫だといわれていますが、実際にはさまざまな場所で見られ、その発症部位によって症状や治療も異なります。

本記事では、神経鞘腫の特徴や症状、治療について詳しく解説していきます。

神経鞘腫はシュワン細胞が元になって発生すると考えられる腫瘍のため、シュワン細胞腫とも呼ばれます。シュワン細胞とは末梢(まっしょう)神経(脳や脊髄などの中枢神経から、全身に分かれた神経)の周りを覆う細胞で、神経線維の保護や再生に関わっています。

神経鞘腫は通常は良性ですが、まれに悪性の神経鞘腫が発生することがあります。これは悪性末梢神経鞘腫(悪性シュワン細胞腫)と呼ばれ、再発を繰り返したり遠くの臓器に転移したりすることもあります。

神経鞘腫が発生する理由は明らかになっていませんが、神経鞘腫の一部は神経線維腫症という遺伝性疾患にともなって発生することがあります。また、脳腫瘍の9%、脊髄腫瘍の30%が神経鞘腫によるものだとされています。なお、一般的に神経鞘腫は成人に見られる病気で、発症する性別に差はありません。

神経鞘腫は発生部位によって症状が異なります。多くの場合は皮下組織や筋肉のような軟部組織に発生しますが、消化器官などのさまざまな箇所に発生することもあります。なかでも脳・脊髄神経に発生するもののうち、聴神経、三叉(さんさ)神経に発生することが多いといわれています。

聴神経鞘腫

脳神経から発生する神経鞘腫の90%以上が聴神経の1つである前庭神経に発生し(前庭神経鞘腫)30~60歳の女性に多く見られるといわれています。診断にはMRI検査と聴覚検査が行われます。聴力低下は突発性難聴や加齢によっても生じるため、MRI検査ではじめて診断されることもあるので注意が必要です。

三叉神経鞘腫

三叉神経から生じる腫瘍で、顔や口の中の左右どちらか片方に麻酔がかかったような感覚に鈍い感じやしびれ、強い痛みといった感覚異常や、ものが二重に見えるなどの初期症状があります。

そのほか、舌咽神経から生じる舌咽神経鞘腫もあり、舌咽神経痛を引き起こします。この場合は喉の奥や舌が痛むような初期症状が出るので、ものを噛んだり飲み込んだりする場合に痛みが出ます。また、舌の半分が委縮してしまう舌下神経鞘腫もあります。

神経鞘腫の検査は主にMRIのような画像診断検査を行います。撮影した画像データから、腫瘍の大きさや形状・位置などを特定します。また、神経に影響を及ぼしているかを判断するために、聴力検査や音に対する脳の活動を記録する電気生理検査(ABR)を行うこともあります。

神経鞘腫の治療は、腫瘍の大きさ、患者の年齢、症状などを考慮して選択されるほか、これまでに目立っていなかった腫瘍が大きくなってきていることが検査で確認されているかによっても異なります。一般的には定期的な経過観察、手術による摘出、定位放射線治療のどれが適切かを判断します。通常は良性のため特に小さいものでは早期治療の必要はないとされていますが、経過観察を行い治療のタイミングを計ることもあります。

摘出は耳の後ろの部分の開頭手術になります。手術で全摘ができれば根治(完治)が期待できます。また、手術中は神経への影響を早期に判断して合併症を避ける目的で、顔面神経や聴(内耳)神経などの電気生理モニタリングをしながら摘出を行うのが一般的です。神経鞘腫は良性の場合、通常は治療を行わなくても年間に1~2mm程度の増大を示すとされています。発生箇所が脳幹に接していたり、脳神経や重要な血管を巻き込んでいたりする場合には、高度な技術が必要となり全摘の可能性が低くなります。しかし適切な手術が行われれば、少しの取り残しが再発につながるわけではありません。神経鞘腫の手術はあくまで神経機能を悪化させない範囲で安全に最大限の摘出を行うことが非常に重要だとされています。

一方小さな神経鞘腫の場合、高い確率で放射線治療によりで腫瘍の成長を防いだり、縮小させたりすることが可能です。さらに放射線治療の場合は、顔面神経障害や聴力障害などの発生リスクを低く抑えることができるとされています。

前述のとおり、神経鞘腫は手術で全摘出をすることができれば、根治できる可能性が高いといわれています。しかし、腫瘍が大きく、脳神経や血管などを巻き込んでいる場合などには、全摘出をすることが困難になり、さらに術後に神経の後遺症として機能障害が残ることもあります。

神経鞘腫の治療はいくつかの条件を総合的に判断する必要があり、また現在入手できる医学データは5年程度の期間の観察にもとづくものが多く、長期間の正確な予想が容易ではありません。そのため、治療の方法や経過観察の方針、治療後の生活については担当医に十分に説明を受け、納得した治療を受けるようにしましょう。

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