概要
線維肉腫とは、筋肉や脂肪、血管などの軟部組織に生じる悪性腫瘍(がん)の1つです。コラーゲンを産生する線維芽細胞が何らかの原因で悪性化することで発症すると考えられており、四肢(手や足)、体幹に発生します。
線維肉腫の発生頻度は、成人の肉腫*全体の約1~3%程度であり、非常にまれな腫瘍です。『軟部腫瘍診療ガイドライン 2020(改訂第3 版)』によれば、線維肉腫の患者の年齢中央値は49歳で、男女比はやや男性に多いとされています。
線維肉腫には1歳未満の乳児に発症しやすい“乳児型線維肉腫”も存在しますが、このページでは成人型の線維肉腫について解説します。
*肉腫:骨や筋肉、脂肪、神経などから発生する悪性腫瘍。希少がんの1つで、悪性腫瘍全体の約1%といわれる。
原因
線維肉腫はさまざまな遺伝子異常を伴っていると考えられていますが、詳しい発生原因は具体的に解明されていません。
症状
線維肉腫の主な症状は、手足をはじめ、胸や腹部、首などに発生するやや硬い腫瘤(しこり)や腫れです。しこりの大きさは、1cmほどの小さなものから10cmを超える大きなものまでさまざまです。しこりには痛みがないことが多いため、患者さんが症状に気付いても長い間放置されてしまうこともあります。また、体の深部に発生した場合は病気が大きくなって、ようやく気付かれる場合もあります。しこりが大きくなり周辺の神経や血管を圧迫して、しびれや麻痺、手足の腫れが現れることもあります。
検査・診断
問診を丁寧に行い、しこりの状態やこれまでの変化、痛みや可動域制限などの症状について確認します。その後、画像検査や病理組織検査を行い、診断を確定します。
なお線維肉腫は、ほかの悪性腫瘍で使用されるような血液腫瘍マーカーがないため、血液検査を行っても鑑別診断には役立ちません。
画像検査
MRI検査やCT検査などを行います。腫瘍の形や大きさ、部位や広がりを判断するうえでもっとも有用な検査方法はMRI検査であり、CT検査は肺などへ転移していないかを確認する際に有効です。
そのほか、PET-CT検査*を行って腫瘍の部位や広がり、良性・悪性の区別の助けにすることもあります。
*PET-CT検査:PETとはPositron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)の略。放射性薬剤を投与し、特殊なカメラで体内に分布した薬剤を画像化する核医学検査の1つで、がんの病巣など全身の状況を一度に可視化できる。
病理検査
診断確定のために腫瘍部分を一部採取して検体を採取(生検)し、顕微鏡で見る検査(病理検査)を行います。検体の採取方法は腫瘍の位置や大きさなどによって異なり、特殊な針を腫瘍に刺して検体を採取する“針生検”と、手術によって腫瘍の一部を切除採取する“切開生検”があります。
治療
線維肉腫の治療は、手術によって腫瘍を完全に取り切ることがもっとも重要です。
腫瘍の進行や大きさなどに応じて手術前後に薬物療法や放射線治療を組み合わせます。手術の難しい例では薬物療法や放射線治療を中心に治療を行うこともあります。
手術
線維肉腫を再発なく取り切るためには、腫瘍を正常な組織でくるむように大きく切除(広範切除術)することが必要です。
腫瘍が重要な神経や血管に接していて手術のみで広範切除が困難な場合には、手術前に薬物療法や放射線治療を行って腫瘍を小さくすることを試みてから手術を行うこともあります。また術後、再発リスクが懸念される場合は、手術後にこれらの治療を行うこともあります。
手術で広範な皮膚や筋肉、重要な血管などが欠損する場合には筋皮弁移植や血行再建などの再建手術を併用します。
薬物療法
腫瘍の切除が困難な場合や多発転移がある場合は、薬物療法を中心とした治療が検討されます。第一選択薬は“ドキソルビシン”で、第二選択薬には“エリブリン”、“パゾパニブ”、“トラベクテジン”などの治療薬が検討されます。
なお、このほかにも保険適用外の治療薬が検討されることもあります。治療を受ける際は、薬剤によって予測される効果と副作用を主治医とよく相談して方針を定めることが大切です。
放射線治療
放射線治療は手術と併用するほか、手術が難しい場合などに対して単独で行うこともあります。
2016年には手術のできない骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療も保険適用となりました。手術による切除が難しい腫瘍には、通常の放射線治療よりも粒子線治療のほうが有効という報告もありますが、いまだ十分なエビデンスは確立されていません(2023年9月現在)。
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