概要
変形性関節症とは、何らかの原因によって関節の軟骨が摩耗(すり減ること)・変形し、関節の痛みや腫れ、可動域の制限が生じた状態です。
関節とは骨と骨のつなぎ目のことで、軟骨というクッションの役割を持つ組織が存在します。軟骨があることで関節に力が加わっても痛みが出ません。しかし、加齢などによって軟骨が摩耗すると正常な機能を果たせなくなり、体重を支えるときや関節を動かすときに痛みが出るようになります。
変形性関節症は、体のあらゆる関節に起こり得ますが、負担のかかりにくい関節では症状が出づらく、負荷のかかりやすい関節に発症しやすい傾向があります。
好発部位としては、膝関節(変形性膝関節症)、股関節(変形性股関節症)、肘関節(変形性肘関節症)、手足の指関節(変形性指関節症)、手の親指の付け根(母指CM関節症)、首や腰(変形性脊椎症)などが挙げられます。
加齢が主要な原因であるため高齢になるほど罹患率は高く、中でも罹患率の高い変形性膝関節症と変形性股関節症は女性に多いとされています。
原因
変形性関節症の原因の多くは加齢に伴う軟骨の老化です。そのほか成長期における関節の形成不全(関節の作りが不十分な状態)、けがや病気、生活習慣なども原因になることがあります。
変形性膝関節症
変形性膝関節症では関節軟骨の老化が原因になることが多く、加齢によって関節軟骨の弾力が失われ、使い過ぎによって軟骨がすり減って関節が変形していきます。また、膝関節は体重がかかる部位であるため、発症には肥満も関係しています。さらに、O脚や骨折などのけが、化膿性関節炎などの感染性疾患の後遺症として発症することもあります。
変形性股関節症
変形性股関節症の発症者は女性が多くを占め、原因の約80%が発育性股関節形成不全などの発育不全や病気の後遺症といわれています。そのほかの原因としては、加齢が挙げられるほか、成長期のスポーツ活動などによって過剰な負荷が繰り返し加わることで発症する大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)が変形性股関節症の発症に関連することが分かっています。
変形性肘関節症
変形性肘関節症の主な原因としては、スポーツや重労働による肘関節の酷使、肘関節のけが、関節炎などが挙げられます。
変形性脊椎症
変形性脊椎症の主な原因には加齢が挙げられます。脊椎(背骨)の骨と骨の間にある椎間板の弾力が加齢によって失われていき、脊椎が変形します。
手・足・指の関節症
手や足、指の関節症の主な原因としては、加齢、骨折や捻挫などのけが、関節の酷使などが挙げられます。
症状
変形性関節症の主な症状は、関節周囲の痛み、腫れ、違和感、引っ掛かり感です。ただし、部位によって症状が異なるものもあります。
変形性膝関節症
変形性膝関節症では、膝の痛みと膝に水がたまることが主な症状です。はじめは立ち上がるときや歩き始めるときなどの動作開始時に痛みが生じ、通常は休むと痛みがなくなります。関節の変形が進行すると、階段の上り下りや正座、膝の曲げ伸ばしが難しくなり歩行が困難となるほか、安静時にも痛みが出るようになります。
変形性股関節症
股関節の痛みと機能障害が主な症状です。はじめは立ち上がるときや歩き始めに足の付け根に痛みが生じ、進行すると痛みは強くなっていきます。場合によっては安静時にも常に痛みを感じることがあります。
また、日常生活上の動作が困難になり、足の爪を切る、靴下を履く、正座をするなどの動作が困難になったり、和式トイレが使用しづらくなったり、長時間の立位・歩行がつらくなったりします。
変形性肘関節症
変形性肘関節では肘を動かすと痛みが出て、安静にすると軽減します。また、関節軟骨の摩擦の影響で骨棘(骨の突起)ができると関節の動きが制限されて、口に手が届かないなど日常生活上の動作に支障が出ます。
さらに進行するとロッキング(ある角度で肘が固まり動かない状態)が生じ、肘を動かすと激しい痛みを感じるようになります。また、変形性肘関節症では肘の内側にある尺骨神経が圧迫されることがあります。圧迫されて麻痺が生じると、薬指の半分と小指の感覚が鈍くなります(肘部管症候群)。
変形性脊椎症
変形性脊椎症の多くは軽症の場合自覚症状がありません。変形が進むと慢性的な痛みが生じたり関節の可動域が制限されたりします。変形部位によって症状は異なりますが、頚椎が変形した場合には、腕や手の痛み、しびれがみられることもあります。さらに変形が進むと、脊柱管が狭くなり、脊柱管狭窄症を生じることがあります。
手・足・指の関節症
主な症状は痛みと腫れです。手においては通常、手首や指の付け根、手の関節に発症することはなく、指の第1関節(ヘバーデン結節)と第2関節(ブシャール結節)に発症し、物を掴むなどの動作が困難になります。足の場合には歩行が不自由になります。
検査・診断
問診や身体診察によって変形性関節症が疑われた場合、X線検査が行われます。X線検査では骨棘形成、軟骨下骨(軟骨の下にある骨)の硬化、関節裂隙の狭小化や消失などを確認し、一般的にはこの検査で診断がつきます。より詳しく調べるために、CT検査やMRI検査、血液検査などが行われることもあります。
治療
軟骨の摩耗に対する効果的な治療法はまだ確立されていません。したがって、関節炎のコントロールや、関節症の悪化を防ぐための適度な運動、肥満の改善、仕事量の調整などが治療の中心となります。
炎症やそれに伴う痛みに対しては、消炎鎮痛薬の内服や関節内注射などの薬物療法や関節を安定化させるためにコルセットなどの装具を用いることもあります。
また、適度な運動負荷をかけることで軟骨の健康状態を維持し、関節の可動域を広げることができるため、ストレッチや体操、筋力トレーニングなどを行うことも大切です。
このような治療を行ってもよくならない場合には手術が検討されます。手術では変形している骨を切って変形を矯正したり、人工関節を用いたりして症状の改善を図ります。
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