座っている状態でも脚の付け根がズキズキ痛んだり、運動するとき股関節に強い痛みを感じたりするとき、「大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)」や「股関節唇損傷」という股関節の障害を発症している可能性があります。これらの疾患は、股関節の治療法のひとつである股関節鏡視下手術(股関節鏡手術)によって治療することができます。
今回は、股関節鏡視下手術とはどのような手術なのか、そして、股関節鏡視下手術の対象となる病気について、横浜市立大学附属市民総合医療センター整形外科部長の小林 直実先生にお話を伺いました。
股関節の外科手術として従来行われてきた方法には、患者さん自身の関節を人工関節に置き換える「人工股関節置換術」や、骨を切って形を変える「骨切り術」があります。しかし、たとえば人工関節置換術では、関節をまるごと人工のインプラントへ置き換えるので、患者さんの体への負担が大きく、レントゲン写真ではほとんど異常が見られないような状態では適していないことも少なくありません。
「股関節鏡視下手術」は、そのような場合の治療の切り札となり得ます。数か所の小さな穴から器具を挿入して行うため、負担が少なく、患者さん自身の関節の形を大きく変えないまま、その中にある病気の部分、痛みの原因をしっかりと治すことが期待できます。
肩関節や膝関節などと比べて体のもっとも深いところにある股関節は、器具を到達させることが難しく、関節の中での細かい操作が他の関節に比べて難しくなります。そのため、実施するには高い技術と経験が求められます。
日本において、股関節鏡視下手術が治療法として認知され始めたのは、およそ10年前ということもあり、股関節鏡視下手術を必要とする患者さんの数に対して、実際に手術を実施している医療機関はまだまだ少ないことが現状です(2019年7月時点)。私自身もその必要性を痛感し、一人でも多くの患者さんの治療を行うため、股関節鏡視下手術を実践してきました(※詳しくは、記事2「股関節鏡視下手術の流れと退院後の生活について」をご覧ください)。
股関節鏡視下手術の対象となる患者さんの多くは、いわゆる股関節痛、鼠径部痛といわれるような、脚の付け根の痛みで受診されます。たとえば、次のような症状です。
など
患者さんによって、痛みの程度はさまざまです。なかには、じっとしていても痛かったり、夜間痛といって夜にズキズキと痛んだりする状態になっている患者さんもいらっしゃいます。しかし通常、このあとご説明する関節唇やインピンジメントによる股関節痛は、何かの動作に伴って起こる痛みです。歩くこと自体には支障がない場合が多いものの、とくに若い患者さんでは、スポーツに際して思うように足を動かせなかったり、体を使う仕事に支障が出てしまったりすることがあります。
股関節痛を感じる場合、関節の中にある滑膜という組織の炎症が起こっていたり、軟骨自体に損傷を伴っていたりすることが多いです。その原因として、「股関節唇損傷」や、「大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)」の発症が挙げられます。次では、この2つの病気についてお話しします。
股関節唇損傷とは、関節を安定させる役割を担う組織である、「関節唇」が損傷した状態のことを指します。
股関節唇損傷が起こる原因として、ひとつはスポーツによる外傷が挙げられます。激しい動作を継続するサッカーなどを行っている方に、とくに多く見られます。
また、股関節部分にある寛骨臼というくぼみの形成に少し異常がある、「境界型寛骨臼形成不全」という状態の方は、関節唇が損傷しやすい傾向があり、女性やバレエダンサーなどに特徴的に見られます。
そのほか、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)でも、関節唇損傷をほぼ伴います(詳しくは後述)。
股関節唇損傷は、レントゲン検査では診断できません。しかし、関節鏡で中を覗いてみると、関節唇が傷んでいることが分かります。強い痛みにより日常生活に支障が出ることがあるにもかかわらず、人工股関節置換術や骨切り術といった従来の手術方法は適さない場合も多いため、関節鏡視下手術(関節鏡手術)は有効な治療の選択肢のひとつとなります。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは、股関節を深く曲げたときに骨と骨がぶつかり合い、軟骨や関節唇の損傷が生じる病気です。
成長期などにサッカーなどの活発なスポーツ活動を継続していると、股関節の骨に盛り上がりが生じる「Cam(カム)変形」が生じることがあります。出っ張った骨と周囲の骨がぶつかり合うと、その間に存在する関節唇が損傷し、痛みが出てきます。関節唇の損傷が繰り返されると、次第に軟骨もダメージを受けるようになります。
やがて、軟骨の変性が生じる変形性関節症へと進んでいく可能性があるため、早期に治療を行うことが大切です。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)のCam変形に対して股関節鏡視下手術を行うときは、損傷した関節唇を修復することに加えて、骨が盛り上がった部分を削る治療が重要になります。余分な骨の盛り上がりを削り取らなくては、再び骨と骨がぶつかってしまうことになるため、骨の変形を治療することが大きなポイントです。
股関節鏡視下手術の対象となる股関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)を診断するためには、レントゲン検査、MRI検査、CT検査という3つの検査が必要です。
レントゲン検査では、細かく撮影することによって、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の骨の盛り上がりを捉えます。少し斜めの状態から大腿骨を診ることで、微妙な盛り上がりを検出することができます。関節唇や軟骨の状態を把握するためには、MRI検査を実施します。骨の形を立体的に把握するためには、CT検査による三次元的評価を行います。
股関節痛の原因について、なかなか診断がつかないという患者さんはよく見受けられます。患者さん自身が痛みを感じていても、その原因が関節唇損傷やFAIであった場合、レントゲン検査だけでは異常がないように見えることも多々あるためです。しかし、実際には、詳しく確認するとFAIの形態を有していることや、MRI検査や関節鏡により、関節唇の損傷などをはっきり確認できる場合があります。これらの疾患を念頭に置いた診察と検査が重要となります。股関節の痛みや違和感があって気になるときは、遠慮なくご相談ください。
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横浜市立大学附属市民総合医療センター 准教授・整形外科部長
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