概要
変形性股関節症は、足の付け根にある“股関節”の軟骨が徐々にすり減り、歩行などの動作時に痛みを引き起こす病気です。
関節とは、骨と骨がつながる部分のことです。手足や体を上下左右に動かす、曲げるなど人間の基本的な動きに関わっています。関節の表面には軟骨があり、関節内部は液体(関節液)で満たされています。これにより、関節をスムーズに動かし、外部からの衝撃を吸収する役割を担っています。この軟骨がすり減ったり(摩耗)、骨の変形が現れたりして関節に痛みや腫れが生じる状態を“変形性関節症”といいます。
股関節は、体重を支える、歩く、立ち上がる、しゃがむなど、下肢や腰の動きを可能にする重要な関節です。この股関節の軟骨がすり減ると、関節の動きがスムーズでなくなり、歩く、立ち上がるなどの日常動作で痛みが生じます。これが変形性股関節症です。
軟骨がすり減っていくにつれて、骨が変形したり、関節周辺の滑膜と呼ばれる部位に炎症が生じたりすることもあります。
日本では、多くの場合、出生後から乳児期までの股関節のつくりに異常がある(発育性股関節形成不全)ことによって発症します。
そのほか加齢に伴う軟骨の摩耗や股関節周囲のけが、過度の運動負荷、肥満による体重増加も原因となります。近年は高齢化が進むにつれて、長年の関節使用による軟骨の摩耗が原因で発症する人が増えているといわれています。
変形性股関節症の治療は、症状の程度に応じて段階的に行われます。初期は股関節への負担軽減と痛みの緩和を目的とした保存療法が主体となります。具体的には、股関節に負担をかけない生活動作の指導、股関節周りの筋力を鍛える運動療法、体重のコントロール、痛みや炎症を抑える薬物療法などを行います。これらの治療を行なっても効果が不十分な場合は、関節温存手術(骨切り術)や人工股関節置換術などの手術療法が行われます。
原因
股関節の病気や怪我で股関節のつくりに異常が生じ、かみ合わせが悪くなったり、加齢に伴い関節軟骨がすり減ったりすると、関節に炎症が生じます。これにより、股関節のスムーズな動きが妨げられ、変形性股関節症が生じます。
変形性股関節症は、発症原因によって“一次性股関節症”と “二次性股関節症”に分けられます。
一次性股関節症
発症の原因となるような病気がない変形性股関節症です。加齢による股関節のすり減りや体重増加、重いものを持つ肉体労働、過度な運動など股関節に負荷が生じる行動が要因となって起こります。
二次性股関節症
股関節の構造異常や股関節周辺に生じたけがなどに続いて発症する変形性股関節症です。寛骨臼形成不全や発育性股関節形成不全などで股関節のつくりに問題があった場合、軟骨に負荷がかかりやすく、変形性股関節症を発症しやすいといわれています。
股関節は骨盤と大腿骨(太ももの骨)が合わさってできています。大腿骨側の先端が球のように丸い形をした“骨頭”と、それを覆うようにして存在する骨盤側の“寛骨臼”の間には軟骨が存在し、関節の動きをスムーズにしています。中でも、日本では寛骨臼の形成が不十分で、股関節のかみ合わせが悪くなる寛骨臼形成不全によるものが多いといわれています。
そのほか、大腿骨頭壊死症や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)などの病気が進行して変形性股関節症へと進展することもあります。特にFAIから発症する変形性股関節症はスポーツ活動の頻度が高い人に多くみられます。
症状
変形性股関節症の主な症状は、股関節の痛みと動かせる範囲(可動域)が狭まることです。痛みの症状は初期段階では、歩いたときや立ち上がったときにのみ生じますが、進行するとじっとしているときや眠っているときにも痛みが生じるようになります。長時間歩いたり、立ったりすることもつらくなり、階段の上り下りには手すりが必要になる方も少なくありません。
また股関節を動かせる範囲が狭まることにより、足の爪を切ったり、靴下を履いたり、しゃがんだり、正座したりすることが困難になる場合があります。さらに進行すると、足をまっすぐに伸ばせなくなるほか、足の長さに左右差が生じることもあります。
検査・診断
変形性股関節症を疑う症状がある場合には、X線検査を行い診断することが一般的です。X線検査では、関節の骨の隙間の広さから軟骨の厚みを確認したり、骨の位置や変形の有無について確認したりすることにより、病気の進行度合いも判断できます。進行した変形性股関節症では、関節内に骨のとげや空洞などがみられることもあります。
また手術療法などが必要となった場合には、より詳しい検査としてCT検査やMRI検査といった画像検査を合わせて行うこともあります。
治療
変形性股関節症の治療方法としては、保存療法と手術療法があります。一般的にまずは保存療法が行われます。治療を行なっても痛みが続く場合は手術療法が考慮されます。加齢とともに徐々に悪化することもあり、適切なタイミングで治療するかどうかを決定することが重要です。そのため、痛みがなくても定期的に専門医を受診し、経過を観察しながら、適切な時期に適切な治療を受けることが大切です。
保存療法
すり減った軟骨や変形した骨などは元に戻ることはありませんが、保存療法を行うことで症状が和らぐ可能性があります。具体的には、生活習慣の改善や運動療法、薬物療法などが行われます。
生活習慣の改善
股関節への負荷を減らすことが大切です。肥満に対しては体重管理が指導されることがあります。また痛みなどが出やすい動きを特定し、なるべくその動きをせずに済むような生活環境を整えたり、飛び跳ねるといった股関節に負荷がかかる動作は控えたりするようにします。そのほか、歩行時に杖を使用することで股関節への負荷を軽減する方法もあります。
運動療法
股関節周辺の筋力を強化するトレーニングや柔軟性を高めるためのストレッチなどが指導されることがあります。これらを行うことにより、股関節が安定し、痛みが和らいだり、病気の進行が和らいだりすることが期待できます。
ただし、過度な運動をすると股関節に負担がかかり、かえって症状を悪化させてしまうこともあるため注意が必要です。水中歩行や水泳のような股関節に負担のかかりにくい運動を行うことが大切です。
薬物療法
痛みの緩和のために痛みや炎症を抑える薬が使用されます。
手術療法
手術療法では、患者の年齢や股関節の状態に応じて関節温存手術(骨切り手術)や人工股関節置換術が行われます。
関節温存手術(骨切り手術)
自分の関節を残して温存することができる手術です。股関節部分の骨を切り、その位置や角度を調整することで、関節にかかる負担を軽減させます。最大のメリットは関節を温存できる点で、特に若年で軟骨の摩耗がまだ少ない場合に選択される治療法です。切った骨同士が癒合*するまでに時間を要するため、人工股関節置換術と比較すると入院期間は長く、リハビリテーションにも時間がかかります。また、手術後に病気が進行するとあらためて人工股関節置換術が必要になる場合があります。一般的に軟骨の摩耗が進行した状態では関節温存術はよい適応ではありませんが、若年者では選択される場合もあります。
*癒合:くっついてつながること
人工股関節置換術
股関節の変性が起きている部位を切除し、人工関節に置き換える治療方法です。特に高齢者や変形性股関節症が進行している場合に行われます。
術後は痛みが軽減され、関節の動きが改善されます。左右差が生じた足の長さをそろえることも可能です。関節温存手術よりも入院期間は短く回復が早いのがメリットです。
一方で、人工関節には関節が外れる脱臼や感染症のリスクもあります。また、術後の活動によって、人工関節のゆるみや破損が起きた場合には再手術が必要になることもあります。人工関節の耐久性には限界があり、一般的には20年前後と考えられています。そのため、若年者に人工股関節置換術を行うと、将来的に人工関節の入れ替え(再置換術)が必要となる可能性が高くなります。
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