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変形性股関節症に対する治療――人工知能や手術支援ロボットを活用した人工股関節全置換手術とは?

変形性股関節症に対する治療――人工知能や手術支援ロボットを活用した人工股関節全置換手術とは?
薮野 亙平 先生

大阪中央病院 整形外科 部長

薮野 亙平 先生

目次
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変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)は、股関節(足の付け根)に痛みや機能障害が現れる病気です。進行とともにさまざまな症状が現れ、日常生活にも支障が出るようになります。近年では、変形性股関節症の治療方法が進歩し、手術支援ロボットを用いた人工関節手術も行われるようになりました。

今回は、大阪中央病院 整形外科 部長の薮野 亙平(やぶの こうへい)先生に変形性股関節症に対する治療についてお話を伺いました。

変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ることによって股関節の痛みや機能障害が起こる病気です。

変形性股関節症の原因の1つは、臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)です。臼蓋形成不全とは、骨盤側の臼蓋(通常は大腿(だいたい)の骨頭を覆う形をしている、股関節の屋根のような部分)の深さが浅いために、股関節の変形が進行しやすくなる状態を指します。この臼蓋形成不全は女性に多いため、日本では女性の発症が多いと考えられています。

加齢を原因として発症するケースもありますが、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)ほど多くはありません。

変形性股関節症の症状は、初期、進行期、末期といった進行度によって異なります。

発症初期では、なんとなく違和感を覚えることが多いでしょう。足の付け根が引っかかるように感じることもあります。

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画像提供:PIXTA

進行期は、関節軟骨が大きくすり減っているような状態です。この段階になると、日常生活で以下のような症状が現れるようになります。

  • 階段の上り下りで痛みが現れる
  • 歩行時に痛みが強く現れる
  • 足の爪切りがしにくい
  • 靴下を履きにくい
  • お風呂の椅子に座りにくい

など

さらに進行し末期になると、病変がある側の軟骨が大きくすり減るために左右の足の長さが異なる状態になり、膝や腰などにも負担がかかります。ここまで進行すると、痛みで眠ることが難しくなり睡眠障害を起こすこともあります。

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症状の現れ方には個人差がありますが、病気の進行を可能な限り防ぐためには、日常生活で足の付け根に痛みを感じることがあれば一度整形外科を受診していただくことをおすすめします。

変形性股関節症と診断されたら、まずは以下のような保存療法(手術以外の治療法)が適応されます。

運動療法

運動療法ではストレッチや筋力トレーニングによって体重のコントロールや筋力保持を図り、症状の改善を目指します。

薬物療法

関節の炎症が強い場合には、ステロイドや痛み止めの薬を使用して治療を行います。

末期の状態まで進行し、安静時にも痛みが現れるようなケースでは手術が適応されます。主な手術方法には、以下のようなものがあります。

股関節鏡手術

股関節鏡手術とは、小さなカメラ(股関節鏡)によって股関節内部を確認しながら傷んでいる軟骨の修復などを行う手術です。この股関節鏡手術は、日本よりもアメリカなどで多く行われています。

骨切り術

骨切り術は、痛みの解消を目指して骨の一部を切り取り股関節の形を矯正する手術です。現状、日本における変形性股関節症は臼蓋形成不全を原因とするケースが多いことから、変形している臼蓋を広げるために股関節鏡手術よりも骨切り術を行うことが多いです。

ただし、40歳以上の患者さんでは、骨切り術の治療成績はあまり良好でないこともありますので、主治医と相談してください。さらにリハビリテーションにも時間がかかる傾向にあります。

人工股関節置換術

人工股関節置換術は、傷んだ関節を人工関節に置き換える手術です。近年は3D技術が進歩したことも影響し、若い方や股関節の変形が強い状態の方など幅広い患者さんに実施されています。

大阪中央病院では、AI(人工知能)や3Dプリンター、手術支援ロボットを用いて、変形性股関節症に対して人工股関節全置換術(低侵襲 前方アプローチ)に積極的に取り組んでいます。

当院では、手術が必要と判断された全ての症例に手術支援ロボットを用いた人工関節全置換術を適応しています。同手術は術前にAIを用いて手術計画を立てていくので、特殊な変形や強い変形があるケースでも3Dプリンターによるオーダーメイドで行うことができ、保険も適用されます。

まずは手術の日程を決めさせていただいた後、全身麻酔の検査や健康診断を行います。また、当院が提携する歯科あるいは患者さんのかかりつけの歯科で、歯茎が腫れていないか、虫歯の治療中ではないかなど、口腔内(こうくうない)の健康状態を確認していきます。手術では感染が起こらないよう努めなければならず、可能な限り感染症のリスクを避けるためには、口腔内のケアが非常に重要です。

そのほか、術前計画や股関節模型を作成するためには3次元の情報が必要になるため、CT検査も行います。

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AIの手術計画ソフトを用いて、人工関節を設置した状態での可動域をシミュレーションします。具体的には、CT検査のデータをもとにコンピュータ上で患者さん自身の骨の3次元モデルを作って実際の股関節の動作解析を行い、人工関節、大腿骨、骨盤がどのように衝突するかを3次元的に確認していきます。コンピュータ上で接触した部分があれば、赤マークが表示される仕組みになっています。

このシミュレーションによって、できる限り正確な術前計画を立てることができます。

股関節の形状は患者さんごとに異なります。違和感のない股関節を再現することを目指して、3Dプリンターを用いて実物大の股関節の模型と手術支援デバイスを一人ひとりオーダーメイドで作製します。

当院では患者さんの体の状態や治療計画などをデジタル化した情報をもとに、手術支援ロボットを用いた“ロボティックアーム支援下人工股関節全置換手術”に積極的に取り組んでいます。

股関節の手術には前方、側方、後方という3つのアプローチがありますが、当院では主要な神経損傷がない方法を用いた前方アプローチを採用しています。前方アプローチは、インナーマッスル(体の深い場所に位置する筋肉)が温存されるために回復が早かったり、脱臼リスクが少なかったりするなどの特徴があります。

当院が取り組む手術支援ロボットを用いた人工股関節全置換手術は、可能な限り自分の骨を温存しながら治療できるため、若い患者さんにも適した手術方法であると思います。

患者さんが若年であるほど、手術をした後に日常生活を送る年数が長くなり、人工関節の摩耗などの問題で再置換術を行う可能性が高くなります。そのような場合であっても、最初の手術の際にできるだけ骨を削らずに温存しておけば、比較的対応しやすくなります。

また、手術支援ロボットを用いることで、操作のブレがなくなり正確なアプローチが可能になります。これによって、左右の足の長さをきちんとそろえることも可能です。さらに、出血量が少なく脱臼しにくい角度を狙って人工関節を入れることができるなどのメリットもあります。

手術支援ロボットを用いた人工股関節全置換手術のデメリットは、計画から手術まで通常の手術よりも少し時間がかかる点です。

また、現状ではどこの施設でも受けられる手術ではありません。精度の高い手術を実現するためには執刀する医師の経験も重要であり、導入したとしても習熟するまでには一定の時間が必要です。そういった意味では、国内での普及にある程度の時間がかかる点も、1つのデメリットかもしれません。

股関節に到達するまでに、後方、側方、前側方、前方アプローチがあります。その中でも前方アプローチは、唯一のインターナーバスプレーンを利用した筋肉を切らないアプローチであるため、早期回復による入院期間短縮、脱臼率低下による生活レベル向上につながります。しかし、前方アプローチは習得に時間がかかることが医師側にとってのデメリットです。

当院における変形性股関節症の手術後のリハビリテーション(以下、リハビリ)では、歩行アシストロボットを活用します。このロボットは患者さんの神経や筋肉の動きをサポートするため、歩きやすくなり早期回復を目指すことが可能です。

また、歩行時の体の角度や下肢の振り幅、歩くスピードなどを測定し、リハビリによってどの程度回復したかを患者さんに数字でお知らせすることができます。このため、歩行アシストロボットによるリハビリは患者さんのモチベーションアップにもつながる方法だと考えます。

近年は、脱臼の予防や左右の足の長さの一致など、変形性股関節症の治療の精度がさらに求められるようになってきました。手術支援ロボットやAIによる手術計画の活用などによって、このような患者さんの細かなニーズに対しても応えることができる体制が築かれつつあると思います。さらに、人工関節の素材の発展も、関節のより自然な動きにつながります。

変形性股関節症の治療は現在も発展が続いているので、今後はさらにより精度の高い治療が実現すると考えています。

変形性股関節症の治療においては、医師の意見を聞きながら、どのような治療法があるのかについて理解していただくことが大切です。足の付け根に痛みが出てきた方や、変形性股関節症で悩んでいる方は、一度この病気を専門とする医師に相談していただきたいと思います。

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