膝に痛みが現れる変形性膝関節症は、加齢によって誰でも発症する可能性がある病気です。
可能な限り進行を防ぐためには、早期治療が大切です。近年では変形性膝関節症の治療が進歩し、手術支援ロボットを用いた手術も行われています。今回は、大阪中央病院 整形外科 副院長・リハビリテーション科部長の坪田 次郎先生に変形性膝関節の治療についてお話を伺いました。
変形性膝関節症とは、膝の関節軟骨が徐々にすり減っていくことで、膝に痛みが現れる病気です。
もっとも多い原因は加齢で、肥満やO脚の方も発症しやすいことが分かっています。男女差では、女性に比較的多くみられます。
<変形性膝関節症になりやすい人>
発症初期は、なんとなく膝に違和感があったり、階段の上り下りの際に痛みを感じたりすることがあるでしょう。中でも特徴的な症状は、膝を動かしはじめた時に現れる痛みです。椅子から立ち上がって歩きはじめた時に膝が痛む場面をイメージしていただくとよいかもしれません。しかし、このような痛みは、無理せず少し安静にしていると改善することがほとんどです。
病気が進行すると、膝が伸び切らない、曲がり切らないなど動きに制限が出てくるようになります。また、膝が腫れたり、水がたまったりすることもあるでしょう。正座や階段の上り下りが難しくなるなど、日常生活にも支障が出てきます。
さらに初期と異なり、歩きはじめだけではなく歩いている最中にも痛みが起こるようになり、徐々に長時間の歩行が困難になります。
進行・末期になると、運動や歩行時のみではなく、安静時にも痛みが現れます。痛みに加えてO脚やX脚など見た目の変形が目立つようになります。膝の変形が強くなると腰も曲がって歩行姿勢が悪くなり、歩く速度も目に見えて遅くなります。そうなると、歩くこと自体が億劫になり、外出の頻度が減っていきます。
病気の進行を可能な限り防ぐために、以下に当てはまる症状に注意してください。
【膝関節のチェックポイント】
動作時の膝の痛みの頻度が増え、休んでも痛みが持続する、安静時にも痛みがある、これまでに経験したことのないような痛みを自覚する、腫れや熱感が続く、膝の曲げ伸ばしが十分にできないなどの症状があれば病院を受診することをおすすめします。
初期や中期の患者さんに対して最初に行う治療が保存療法(手術以外の治療法)で、以下のような方法があります。
一定期間保存療法を行っても症状が改善しない場合には手術を行います。
関節鏡手術とは、関節鏡(関節に入れる内視鏡)によって関節内を観察しながら、割れた半月板や剥がれかかった軟骨、骨の欠片(関節内遊離体)など関節の動きを阻害するものを除去し(クリーニング手術)、関節の動きを滑らかにする手術です。
関節鏡手術は基本的に、薬物療法や装具療法などの保存治療を1~2か月程行っても改善しない場合に適応されます。なお、進行期・末期の段階では効果はあまり期待できません。
骨切り術とは、変形したO脚やX脚を矯正する手術です。たとえば、O脚の方の場合、脛骨(すねの内側の骨)を切って真っ直ぐからややX脚気味になるように矯正することで、内側に偏った体重負荷を軽減し症状の改善を図ります。
骨切り術は、年齢が比較的若く(40~50歳代)、活動性が高い人に適応されます。
人工膝関節置換術は、変形した膝関節表面を人工関節に置き換える手術です。人工膝関節置換術には、膝関節全体を置き換える全置換と、一部を置き換える部分置換があります。
基本的に部分置換は中期~進行期の方に、全置換は末期の方に適応されます。
大阪中央病院ではAI(人工知能)による術前計画作成とロボティックアーム手術支援システムを用いた人工膝関節全置換手術に積極的に取り組んでいます。
手術前には、股関節から足首まで下肢全体のCT検査を行います。そのデータをもとに、コンピュータ上で患者さんの骨の3次元モデルを作成します。
AIを搭載した3次元の術前計画作成ソフトを用いて術前プランニングを作成し、患者さん自身の3次元骨モデルを用いて骨切除の量や角度、人工関節設置後の下肢の変形矯正の状態の確認など、手術のシミュレーション(術前計画)を行います。この計画が間違っていると、想定と違う仕上がりになることがあるため、非常に大切な工程です。
ロボティックアーム支援下人工膝関節全置換手術(以下、ロボティックアーム人工膝関節手術)は、ロボットが全自動で手術をするのではなく、レジストレーション(コンピュータに患者さんの骨の位置を認識させる操作)によって患者さんの骨の位置と手術支援ロボットを連動させたうえで、医師の操作によって手術を行っていきます。
その特徴としては、(1)緻密な術前計画とその再現(2)術中の関節靱帯バランス調整(3)ロボティックアームの制御の3つのポイントが上げられ、できる限り安全かつ正確なインプラントの設置を目指すことが可能になります。
1.緻密な術前計画とロボティックアームによる高い再現性
CTデータをもとにした緻密な術前計画を、ロボティックアーム人工膝関節手術では0.5mm/0.5°の精度で計画どおりに実施・再現することが可能で、インプラント(人工膝関節)の設置をより正確に行うことができます。
2.術中の靱帯バランス調整
術中の靱帯バランスの状態はこれまで術者の勘に頼っていましたが、ロボティックアーム人工膝関節手術ではリアルタイムで関節ギャップ(関節の硬さ・緩さの指標)が評価でき、術中に術前計画の骨切除を微調整して軟部組織の剥離の必要度を下げ、術後の適正な関節安定性を再建することができます。
3.ロボティックアームの制御
従来の手術では、髄内ロッドやピンを用いて骨切りガイドを骨に取り付けて骨切り操作を行っていましたが、ロボティックアーム人工膝関節手術ではガイドを用いずにロボティックアームの制御によるダイレクトカットが可能であり、余分な骨への侵襲を減らし、術後の出血量を減少させる効果もあります。骨を切除する刃は従来のものより厚く短い刃が利用でき、骨切除のぶれを最小限に抑えることができます。またロボティックアームを用いて骨を切っている最中は、画面での状況確認(視覚)、音による通知(聴覚)、切除範囲以外をブロックすること(触覚)などで神経・血管や靱帯損傷の合併症を防ぎます。
変形性膝関節症に対するロボティックアーム人工膝関節手術は、現時点では人工膝関節全置換手術に対応しており、部分置換術の導入も始まっています。ただし、現状では、このシステムで金属アレルギーに対応した人工膝関節の機種を使用できないため、金属アレルギーがある患者さんに対しては使用できません(2021年時点)。
なお、人工膝関節置換手術は保険診療が適用されるため、手術支援ロボットを使用した場合であっても追加費用をご負担いただく必要はありません。
メリットとしては以下の3点が挙げられます。
一方でデメリットは、現状ではロボティックアーム手術を受けられる医療機関が限られている点です。
また、ロボティックアーム手術では術前計画が非常に重要です。仮に術前計画が誤っていた場合には、誤ったまま手術が進んでしまうことになります。このようなケースが起こりうることを考えると、術前計画の重要性が従来の手術と比べて増した点は1つのリスクといえるかもしれません。
当院では、術後のリハビリで歩行アシストロボットを活用しています。このロボットは股関節の屈曲角度を感知して歩行をアシストするものになっており、効率よく歩く感覚を思い出していただくために有効だと考えます。
また、リハビリでの歩行の状態、距離や歩数、スピードやかかった時間などのデータを測定して患者さんに共有しています。数字のデータ化により目に見える形で回復を感じられるので、患者さんのモチベーション向上にもつながっていると思います。
人生100年時代で健康寿命を延ばすためには、歩行能力の維持が大切だと思います。
膝の変形が進み、痛みの程度が強くなると人工膝関節手術の適応となります。しかし、人工関節の手術はハードルが高いと感じる人も多く、治療時期が遅れることも少なくありません。しかし、歩けなくなる前に治療をすることが実はとても大切です。
人工膝関節手術は痛みの原因である傷んだ関節表面を人工の関節に置き換えるもので、歩けない人が歩けるようになる魔法の治療法ではありません。いったん筋肉が衰えて歩行能力が低下してしまうと、いくら手術をしても回復には長い期間を要し、十分な回復が望めないこともあります。歩行に重要な筋肉が衰える前、つまり歩けるうちに治療することで術後の回復も期待できますし歩行能力の維持につながります。
ですから、歩く速度が目に見えて遅くなる、痛みのある膝をかばって反対側の膝や腰などほかの部位に症状が出てきたら、放置せずに手術を検討していただきたいと思います。
医療法人伯鳳会 大阪中央病院 整形外科 副院長兼リハビリテーション科部長
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