概要
股関節唇損傷とは、股関節を構成する寛骨臼(股関節を構成するくぼみの部分)と大腿骨が重なる部位の軟部組織である“関節唇”がダメージを受けた状態のことです。
股関節は寛骨臼と呼ばれる寛骨のくぼみの中に大腿骨先端部で球状の大腿骨頭と呼ばれる部位がはまり込むようにして構成されています。関節唇は、この寛骨臼の周りを取り囲むようにして付着した組織であり、吸盤のように大腿骨頭に吸い付くことで関節の安定化を担っています。
この関節唇がダメージを受けると股関節を曲げ伸ばしたり、長時間の座位を続けたりすることで、股関節に痛みやだるさが引き起こされます。スポーツによって発症することも多くありますが、特に明らかな外傷がなく原因がはっきりしないこともあります。疼痛が強く日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
股関節唇損傷は、股関節運動によって寛骨臼と大腿骨頭がぶつかり合うことで生じる“Femoroacetabular Impingement(FAI)”と呼ばれる骨の形に原因があることによって引き起こされることが分かっており、これは根本的には寛骨臼や大腿骨頭の形の異常によるものと考えられています。また、寛骨臼形成不全という支えとなる屋根の部分が不足した状態でも股関節唇損傷が生じやすく、特に女性では注意が必要です。
発症したときは安静や投薬、リハビリテーションなどで改善できる場合もありますが、手術が必要になるケースもあります。
原因
股関節唇損傷は上でも述べた通り、寛骨臼と大腿骨頭がぶつかり合う“FAI”と呼ばれる現象が続くことによって引き起こされます。また、FAIがなくても股関節唇損傷が生じることもあります。
股関節は人体の中でも運動量が多い関節のひとつで、体重がかかるため負担が生じやすい部位でもあります。このため、通常は関節唇や関節軟骨などの軟部組織によって骨同士の摩擦や衝撃は吸収されています。しかし、寛骨臼や大腿骨頭などの形態に異常が生じると、原因のひとつであるFAIが起こりやすくなることが分かっています。
症状
股関節唇損傷を発症すると、しゃがんだり脚を上げたりなど、股関節を強く屈曲させたときに股関節の痛みが生じるようになります。また、長時間にわたって座位を続けていると、次第に痛みが生じてくることも少なくありません。
痛みの程度や現れ方は股関節唇の損傷レベルによって異なり、瞬間的な強い痛みのために股関節運動が著しく妨げられるケースもあれば、股関節やその周囲の慢性的な倦怠感を自覚するのみのケースまでさまざまです。
また、股関節唇がダメージを受けた状態を放置したまま、股関節に負担をかける日常生活やスポーツを続けていると、寛骨臼と大腿骨頭の衝撃を和らげる関節軟骨にまで損傷が波及し、変形性関節症へ移行してしまうことも少なくありません。
検査・診断
股関節唇損傷が疑われる症状が見られた場合、もちろん股関節唇損傷の診断を下すことも大切ですが、股関節に痛みを引き起こす他の外傷や病気を否定するためにも次のような検査が行われます。
X線検査
股関節唇は軟部組織であるためX線写真に描出することはできませんが、寛骨臼や大腿骨頭の変形などを評価するために、まずはX線検査を行うのが一般的です。また、急激に痛みを自覚したときなどは、股関節周囲の骨折の有無を調べるためにも有用な検査といえます。
CT検査、MRI検査
X線写真では描出することができない股関節の構造などを詳しく調べるために行う検査です。CT検査では3次元の骨の画像を描出することができるため、寛骨臼や大腿骨頭の関係性、変形などを詳細に調べ、FAIが起きているかを評価することができます。一方、MRI検査は股関節唇を描出することができ、ダメージの有無などの評価も可能です。ただし、通常のMRIでは股関節唇の詳細な評価は困難であり放射状撮像など特殊なMRIが必要となります。
治療
股関節唇損傷の多くは、股関節唇にダメージを与える動作やスポーツを中止し、痛みに対する消炎鎮痛剤や湿布などの使用による保存的治療が第一に行われます。骨盤や腰のストレッチなどのリハビリテーションも有効です。多くはこれらの保存的治療を継続することで症状は和らいでいきますが、痛みが強く日常生活に支障をきたしているケース、選手生命に関わるスポーツ選手などでは手術によってダメージを受けた股関節唇の修復や骨の変形を改善する必要がある場合もあります。
なお、股関節唇損傷では体への負担を最小限に抑えるため、小さな傷から股関節内に内視鏡や手術器具を挿入して治療を行う“股関節鏡手術”が有効です。
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