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内視鏡を用いて関節を治療する、関節鏡視下手術とは?

内視鏡を用いて関節を治療する、関節鏡視下手術とは?
小林 直実 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 准教授・整形外科部長

小林 直実 先生

大石 隆幸 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 整形外科助教

大石 隆幸 先生

目次
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関節鏡視下手術(関節鏡手術)は、先端にカメラのついた内視鏡という器具を関節内に挿入し、内部の異常を詳細に観察しながら、体への負担が少ない治療を行う手術方法です。横浜市立大学附属市民総合医療センター整形外科では、肩関節・膝関節・股関節に対する関節鏡視下手術を実施しており、患者さん一人ひとりに合った治療を提案しています。

今回は、同院で股関節鏡視下手術を実践する小林 直実先生と、特に肩関節を専門とする大石 隆幸先生に、関節鏡視下手術の特徴について伺いました。

大石先生:関節鏡視下手術の最大の強みは、関節の中を直接カメラで覗き、治療できるという点です。関節の周囲を切り開いて関節内を見る従来の手術方法と比べて、小さな穴からカメラを入れて、拡大鏡によって拡大した状態で観察できるところが優れています。

MRI検査やエコー検査などの診断技術の向上により、多くの情報が手術前に得られるようになっています。しかし、実際の組織の状態や、画像診断では捉えることのできない小さな損傷などを調べるためには、体の中にカメラを入れて見るほうが、より多くの情報を得ることができて確実です。

関節鏡視下手術は、小さな穴を数か所開けて、内視鏡を挿入して行います。皮膚を大きく切開するわけではないため、患者さんの筋肉などに対するダメージをできるだけ少なく抑えることができ、出血もごく少量です。患者さんの体への負担を少しでも軽くすることを目指した、体にやさしい手術方法です。ただし、関節内ではそれなりの操作、処置を行うため、術後のリハビリは時間をかけて行うことが重要です。

小林先生:股関節の病気のなかでも、とくに股関節唇損傷(こかんせつしんそんしょう)大腿骨寛骨臼(だいたいこつかんこつきゅう)インピンジメント(FAI)は、関節鏡視下手術でなければ根本的な治療を行うことが難しい疾患といえます。リハビリなどの保存的治療が無効な場合には、関節鏡手術を検討すべきであると考えます。

股関節

股関節は体の深いところにある関節なので、関節唇という組織まで到達するためには、その手前にある筋肉や靭帯を切らなくてはなりません。それに加えて、関節唇は、肉眼で見ながら縫うことが困難なほど小さい組織です。そのため、股関節唇という組織を治療するためには、関節鏡を用いることが適しています(※詳しくは、記事1「股関節痛の原因を取り除く、股関節鏡視下手術とは?」 をご覧ください)。

大石先生:肩関節の病気でいえば、肩腱板(かたけんばん)という腱の損傷に対しては、従来は肩を切開する手術を行ってきました。しかし、器具を到達させにくい体の奥を治療する場合、切開するよりも、やはり関節鏡視下手術のほうが適していると考えられます。

大石先生

大石先生:続いて、関節鏡視下手術の対象となる病気のなかでも、私が専門とする肩関節の病気についてお話しします。

肩関節鏡視下手術を選択することが多いのは、加齢やけがの影響で肩のインナーマッスルが断裂し、肩に痛みを感じる、腱板断裂(けんばんだんれつ)()という病気です。とくに、ご高齢の患者さんが多いです。

腱板断裂が生じると、肩を動かしたときの痛みや、それに伴う肩の動きの制限が見られますが、夜間痛の訴えもよく聞かれます。夜、じっとしているのに肩がズキズキしたり、寝返りするだけで肩の痛みを感じたりして、患者さんにとってはつらい症状です。肩の痛みで眠れないという方もよくいらっしゃいます。

腱板断裂は、肩の骨から腱がはがれたような状態です。そのため、アンカーという小さなネジのようなものを骨に打ち込み、それに付属している糸を損傷した腱板にかけて結ぶことによって、断裂した腱板をもとの骨の位置に縫い付けて修復するという処置を、内視鏡視下に行います。

競技者間の接触があるラグビー、アメリカンフットボール、格闘技などのスポーツに伴って、もしくはスポーツ活動をしていない方でも、転倒などによって肩関節脱臼を受傷することがあります。肩関節脱臼を受傷した後、一部の方が脱臼癖、いわゆる反復性肩関節脱臼の状態になって、手術治療が必要になることがあります。スポーツの種目や活動性によって、鏡視下手術、もしくは直接見て行う直視下手術を選択します。

肩関節の病気のなかでも、肩関節周囲炎は、適切なリハビリテーションを行うことで多くの場合は症状の改善が見込めます。

ただし、肩関節周囲炎によって、肩の動きが過度に制限されている患者さんは、リハビリテーションのみでは改善しないことがあります。その場合は、関節鏡を用いて固くなった関節の袋(関節包)を切ることにより、肩の動きがよくなることが期待できます。

肩関節を専門とする医師にとって、とくに難しい治療となるのは、縫って修復することが困難な「広範囲腱板断裂」です。腱板断裂のなかでも、腱板が切れてから時間が経ってしまった場合や、断裂が大きくて縫合困難な場合などです。

広範囲腱板断裂については、これまで多くの医師により手術方法が研究されてきました。そのなかで、私が行っている術式は「鏡視下上方関節包再建術」といって、太ももの外側から採取した筋肉の膜を肩に移植する方法です。大阪医科大学の三幡輝久先生が考案され、世界的に行われている術式です。さらに、日本では2014年に認可を受けた「リバース型人工関節」も実施できる体制を整えることで、どのような状態の腱板断裂にも対応できるよう努めています。

肩関節に痛みがあっても、なかなか診断がつかなくて困っているという患者さんや、診断がついていても適切な治療を受けることができずに痛みで苦しんでいるという患者さんは、よく見受けられます。まずは、しっかりとした診断をつけることが重要です。肩の痛みの原因として代表的な腱板断裂は、断裂の程度が軽いうちに修復すれば、ほとんど元通りの状態になることが期待できるため、医師としては、できるだけ早い段階で受診していただきたいと考えています。肩の痛みなどでお困りのときは、ご相談ください。

また、多くの肩関節疾患は関節鏡視下手術で対応することが可能です。当院は、患者さん一人ひとりの年齢や活動性を考慮したうえで、実施したほうがよいと判断したときは、積極的に肩関節鏡視下手術をおすすめするようにしています。ぜひ、治療の選択肢のひとつとして考えてみてください。

小林先生、大石先生

小林先生:股関節鏡視下手術は、この10年間くらいで日本でも行われるようになってきた手術方法で、その技術は、肩関節鏡視下手術から応用されてきた部分も多いです。股関節と肩関節は、どちらも関節唇や関節包という組織があり、球関節であり、構造がよく似ているため、技術が先行している肩関節鏡視下手術から学ぶところは多いということです。アンカーという骨の中に糸を固定させる材料を使って縫う技術も、股関節と肩関節のどちらにおいても基本的な手技になります。

股関節鏡手術におけるアンカーを用いた関節唇縫合の様子
股関節鏡手術におけるアンカーを用いた関節唇縫合の様子

当科では、股関節鏡手術において、肩関節鏡視下手術に取り組んできた大石先生の協力を得たり、ディスカッションを行ったりしています。肩関節と股関節の関節鏡を専門とする医師が協力して治療にあたっていることは、当科の特徴のひとつです。

大石先生:肩関節と股関節の関節鏡視下手術で使用する機械や手技は、共通している部分が多くあります。一方、体を支えなければならない下肢の関節と、動きが重視される上肢の関節では、治療に関するアプローチが異なる部分もあります。肩関節と股関節という異なる専門性をもつ医師が、関節鏡視下手術という共通部分で協力することにより、治療の幅を広げていければよいと考えています。

小林先生:どの関節の手術でも共通して重要になるのは、リハビリテーションです。リハビリテーションをしっかりと行うことで、術後のスムーズな回復が期待できます。なかには、術前にリハビリテーションを行ったことで痛みが改善し、手術が不要になったという方もいらっしゃいます。

当院は、リハビリテーション部を有しており、理学療法士と医師とで定期的に勉強会を実施しています。また、医師から手術の内容を共有するだけでなく、看護師や理学療法士から患者の状態を報告してもらうなど情報を共有して、多職種が連携、協力して患者さんの術後のケアにあたっています。

私と大石先生が当院に赴任した2019年4月以降、これまで以上に肩関節や股関節の治療に力を入れています。今後もリハビリテーション部と連携しながら、術前から術後まで、しっかりと患者さんのサポートを行っていきたいと思います。

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