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健康寿命の鍵を握る、運動器の再生医療――現状と展望

健康寿命の鍵を握る、運動器の再生医療――現状と展望
本間 康弘 先生

順天堂大学医学部附属順天堂医院 准教授

本間 康弘 先生

目次
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日本は世界的な長寿国ですが、平均寿命と健康寿命(健康上の問題で日常生活の制限がなく生活できる期間)の間には約10年の差があるとされています。健やかな人生を送るための鍵となるのが、骨や筋肉、関節、神経など体を動かすための組織である“運動器”です。運動器の末期の障害に対する治療はこれまで外科手術が主流でしたが、医療の進歩により近年、再生医療*に期待が寄せられています。順天堂大学医学部整形外科学講座 准教授/フランス国立科学研究センター 客員研究員の本間 康弘(ほんま やすひろ)先生に、運動器における再生医療の現状や展望、ご自身が現在取り組まれている特発性大腿骨頭壊死(とくはつせいだいたいこっとうえししょう)に対する再生医療などについてお話を伺いました。

*再生医療:細胞が持つ力などによって病気やけがで失われた組織や臓器の機能を修復し、再生させる治療のこと。

整形外科は、子どもの手足や背骨の変形などに対する治療として誕生しました。その後、整形外科治療は外傷(けが)の治療が主流となりました。戦争の時代に大きなけがを負う人が増え、外傷治療を中心とした整形外科が発展を遂げたのです。その後、医学の発展により人間が長生きできるようになり増えてきたのが、変形性関節症(足腰の関節が変形して思うように動けなくなる病気)です。2022年に厚生労働省が行った調査では、変形性関節症など運動器の障害は要介護・要支援状態になるもっとも大きな原因であることが分かっています*

*厚生労働省2022年国民生活基礎調査の概況より。ここでいう運動器の障害は、関節疾患、骨折・転倒、脊髄損傷(せきずいそんしょう)の合計を示す。

現在、変形性関節症に対する治療は、障害された関節を人工の関節に置き換える“人工関節置換術”が主流となっています。以前は大がかりな手術が必要でしたが、今は手術の低侵襲(ていしんしゅう)化により患者さんの体にかかる負担が軽減され、人工関節の耐用年数も上がってきています。人工関節置換術を受けることで元気に歩けるようになる方も多く、有用な治療法であると考えます。

ただし、やはり耐用年数には一定の限度があり、手術には細菌感染などの合併症リスクも伴います。また、人工関節置換術は病気の原因を取り除いているわけではないので、あくまでも対症療法となります。そこで近年、変形性関節症に対して“病気そのものを治す治療”が目指され始めています。実際、少しずつではありますが、再生医療などによって障害された骨や関節を元の状態に近づけたり、これ以上悪化しないように進行を抑えたりする治療ができるように前進している状況です。

再生医療を安全に国民に提供するためには、研究によってエビデンス(科学的根拠)を蓄積し、よい結果も期待どおりではなかった結果も含めてきちんと証明することが私たち研究者の責務だと考えています。そしてさまざまな研究成果が非常に多く報告されていますが、すでに存在するエビデンスをしっかりと吟味することが重要だと考えています。

以前、順天堂大学で実施した研究で、その重要性を再認識したことがあります。膝の変形性関節症に対して痛みを減らすなどの一定の有効性が認められているPRP(多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう))療法*について、海外からは股関節(こかんせつ)の変形にも有効とする報告が出ています。しかし、その海外からの報告内容をよく見てみると、日本人(特に女性)にとても多い寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)の患者さんが研究の対象外とされていました。つまり、海外からの報告ではよい結果が示されていますが、日本人に多い病態の患者さんはそもそも解析の対象とはされていなかったので、日本人にも同じようによい結果が得られるかは分からなかったのです。そこで私たちは、寛骨臼形成不全のある変形性股関節症にはPRP療法の効果が乏しいのではないか、という仮説の下で検証を行いました。すると、やはり寛骨臼形成不全がある人では、ない人と比べてその効果が乏しいことが分かりました。

*PRP(多血小板血漿)療法:患者自身の血液から作成したPRPを体の傷んでいる部分に注入し、修復力を促進させる治療法。

すでに海外で効果が認められている治療法であっても、日本人に同じような効果が得られるとは限りません。こうして分析して初めて分かることは非常に多く存在します。たとえ時間がかかったとしても、丁寧に検証を進めていくプロセスを欠かすことはできません。

そして現場の医師は、その時点での最新のエビデンスに基づきながら、治療のメリットとデメリットについて、しっかりと患者さんに説明する責任があると考えます。

現在、私は特発性大腿骨頭壊死症に対する再生医療の一般的な普及に向けた取り組みを行っています。特発性大腿骨頭壊死症とは、股関節の付け根にある大腿骨頭の一部が壊死し、強い痛みが生じる病気です。厚生労働省の指定難病であり、年間約2,000〜3,000人が発症しているといわれています。

治療では、人工関節置換術などの外科手術が選択されるケースが多いです。最近は低侵襲で手術ができるようになってきているものの、手術を受ければ日常生活に一定の制限が生じます。特発性大腿骨頭壊死症は30〜50歳代の働き世代に多いため、本人だけでなくご家族にも大きな負担がかかります。また、耐用年数になるタイミングで人工関節を入れ替える手術を受ける必要もあります。

自分の関節を温存して人工関節に頼らずに生活できるのであれば、そのほうがよいはずです。それを再生医療によって実現できないかという思いで、私たちが取り組んでいる再生医療が“自家濃縮骨髄液局所注入療法”です。

現在、研究として自家濃縮骨髄液局所注入療法を実施しており、患者さん自身の骨髄液を使って壊死した大腿骨頭への効果を検証しています。患者さん自身から骨髄液を採取した後、遠心分離機にかけて“濃縮骨髄液”を抽出します。それを壊死した大腿骨頭に注入することで血液や骨の再生を期待するものです。

足や腰の変形性関節症で悩んでいる患者さんが非常に多くいらっしゃいます。人工関節置換術をはじめ、現在保険診療で行われている治療法は有用な治療法です。むやみに治療を先延ばしにすることなく、適切なタイミングで治療を受けるようにするのが大事かと思います。患者さんの中には「実はまだ知られていない新しい治療法があるのではないか」と期待されている方も多いかもしれません。確かに医学・医療の世界は日進月歩で進歩しており、次々と新しい治療が登場しています。ただ、新しい治療が優れた治療とは限らないのが、医学・医療の世界です。

現在、治療を受けていて気になることや疑問があれば、ためらわずに主治医に相談してみてください。そのうえで、より専門的な話を聞きたい場合には、専門的な治療を実施している施設を紹介してもらうとよいでしょう。日本の医療はフリーアクセスであり、受診する医療機関を自由に選ぶことができます。納得のいく治療を受けるためには、いろいろな医師の話を聞いて情報収集することが大切だと思います。加えて、学会などの第三者が発信している情報も参考になると思います。日本再生医療学会では、再生医療ポータルなどをとおして、市民に向けて再生医療に関する情報提供などの活動を行っているので、こうした情報源もぜひ参考にしてみてください。

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