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肺がんの外科手術−治療法や術後について

肺がんの外科手術−治療法や術後について
松本 順 先生

NTT東日本関東病院 呼吸器外科部長

松本 順 先生

目次
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肺がんの外科手術では、がんを取り除くために肺の一部を切除する治療を行います。肺がんの外科手術は胸腔鏡*を使った手術が主流となってきていますが、さらに近年はロボットを使って行う胸腔鏡手術が徐々に行われ始めてきています。

今回はNTT東日本 関東病院の呼吸器外科部長である松本順先生に肺がんの外科手術の具体的な方法や術後についてお話を伺いました。

*胸腔鏡…胸の中を観察するための小型カメラ

肺がんの外科手術の適応

ステージ0期からⅢAの一部まで

肺がんのステージは、

  • T因子…腫瘍自体の大きさや広がり
  • N因子…リンパ節転移の広がり
  • M因子…遠隔転移

の3つの因子の組み合わせから、0期、Ⅰ期(ⅠA1~ⅠA3、ⅠB)、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期に分類されます。

臨床・病理 肺癌取り扱い規約 2017年1月(第8版)
日本肺癌学会編「臨床・病理 肺癌取り扱い規約 2017年1月(第8版)」金原出版より引用、一部改変

一般的に、このステージ分類のうちステージ0からⅡまでの肺がんであれば外科手術を行います。またステージⅢAであっても、縦隔などへのリンパ節転移が広範でない場合には、外科手術を検討します。その際には、外科手術の成功率を高めるために、術前に抗がん剤を投与する「ネオアジュバンド化学療法(術前化学療法)」を併せて行うこともあります。

それ以上のステージにある進行肺がんについては、化学療法や放射線治療を行います。患者さんの中には、これによってがんの進行度が下がり、外科手術を行うことができる方もいます。また術前にステージⅠと考えて手術を行うも、最終的にリンパ節転移があることが分かり、術後に再発予防のための化学療法を行うこともあります。

肺がんの外科手術の種類

標準治療は肺葉切除+リンパ節郭清

肺

肺がんの標準治療は、肺葉切除+リンパ節郭清(かくせい)です。

肺は、右肺が3葉(右上葉・右中葉・右下葉)、左肺が2葉(左上葉・左下葉)に分かれています。肺葉切除は、がんを含む肺葉ごと切除する手術方法です。それに加えて、肺がんが転移する可能性の高い肺門部*や縦隔*にあるリンパ節を取り除く、リンパ節郭清も行います。

*肺門部…肺の入り口にある太い気管支

*縦隔…左右の肺を隔てる空間

縮小手術−区域切除や部分切除

肺は、肺葉よりさらに小さい区域(右肺が10区域、左肺が8区域)という単位に分かれます。その区域ごとに肺を切除する方法を「区域切除」、がんがある部分だけを切除する方法を「部分切除」といいます。区域切除と部分切除は、肺葉切除よりも切除範囲が小さいことから「縮小手術」と呼びます。

縮小手術を行うケースは大きく2つです。ひとつは、肺葉ごと切除せずとも根治の可能性が高いケースで、「積極的縮小手術」と呼ばれます。

もうひとつは、肺葉切除が望ましい症例ではあるが、体力的な問題などで肺葉切除に耐えられないと予想されるケースです。これは「妥協的縮小手術」と呼ばれています。また、肺葉切除を行っても、リンパ節郭清の範囲を小さくしたり、リンパ節郭清を行わなかったりすることも妥協的縮小手術に該当します。

肺がんの外科手術におけるアプローチの方法

主なアプローチ方法は胸腔鏡下手術

肺がんの外科手術におけるアプローチ方法には、胸を大きく開けて行う「開胸手術」と胸腔鏡を使って行う「胸腔鏡下手術(VATS:Video-Assisted Thoracoscopic Surgery)」があり、近年は胸腔鏡下手術が主流となっています。

胸

胸腔鏡下手術では、空気を抜いた肺を取り出すための約2〜4cmの皮膚切開を1箇所、胸腔鏡や鉗子(かんし*を出し入れするための約5〜10mmの穴(ポート)を2〜3箇所に開けます。手術内容は開胸手術とほぼ同等で、開胸手術とおおむね同じ範囲のリンパ節郭清を行うことも可能です。

*鉗子…組織を引っ張ったり、掴んだりするための医療器具

ロボット支援で行う胸腔鏡手術もある

さらに近年は、ロボットを使った「ロボット支援下胸腔鏡下肺葉切除術」も少しずつ行われてきており、当院でも2018年12月から保険診療で開始しています。

患者様への説明書

ロボット支援下胸腔鏡下肺葉切除術では、上のイラストに示した位置に皮膚切開と4つの穴(ポート)を開けて行います。

手術は、術者がロボットの動きを司る機械を両手で操作して行います。ポートから挿入した鉗子は、術者の両手の動きに合わせて細かく動くうえに関節もあるため、精密に動かすことができます。

またロボット支援下手術では、両眼視できる特殊なカメラを使用します。これによって、通常の胸腔鏡手術ではモニター上に平面でしか映し出されなかった術野が、立体的に見えるようになりました。

肺がんの術後

空気漏れのコントロールに対する処置

手術に伴い、臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)(肺を覆う膜)に傷が付くことで、肺から空気漏れが起こることがあります。特に喫煙によって肺が脆い場合には、空気漏れの制御に苦労することがあります。

空気漏れに対しては、術中に空気漏れが生じている部分を縫合したり、フィブリン糊という接着剤を塗布したりする処置を行います。さらに術後は、デジタル胸腔ドレナージシステムを使って、ドレーンと呼ばれる管を通して肺から漏れた空気を持続吸引します。

痛みのコントロールに対する処置

術後の痛みに対しては、痛み止めや硬膜外麻酔を使用します。硬膜外麻酔とは、手術の際に脊髄近くの硬膜の周囲に麻酔薬を注入する方法です。術後は、硬膜外麻酔を注入した管から数日間痛み止めを持続的に注入することで、痛みをコントロールすることが可能です。

また当院では、硬膜外麻酔を使用するほどでもない患者さんに対しては、傍脊椎(ぼうせきつい)ブロックを行うことで痛みを緩和しています。

肺がんの手術を受けるうえでの注意点

術後の肺炎を防ぐために、術前から「禁煙」を徹底してほしい

手術前から喫煙習慣のある患者さんは、術後に肺炎を起こすリスクが高くなります。特にもともと(たん)が多い患者さんは、非常に高い確率で肺炎を発症します。

このような合併症を防ぐために、喫煙習慣のある患者さんは、術前の禁煙を徹底してください。当院では術前3週間前から禁煙していただくようにお話ししています。なかなか禁煙ができない患者さんに対しては、禁煙外来へご紹介することもあります。

松本順先生から、肺がんの患者さんへ

松本先生

肺がんという診断を受け止めること自体が簡単ではないうえに、外科手術を受けることはさらに勇気が必要なことです。その勇気に対して、私たちはできるだけ苦痛も少なく、がんをしっかりと取り除くことができるように最善を尽くしたいと思います。一人ひとりの患者さんが、ご自身にとって最適な治療を受けることができるよう、できる限りの治療の選択肢を提示できるように努めていきます。