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インタビュー

末梢型早期肺がんと小型肺がんに対する気管支鏡的診断-がん治療における診断の位置付け

末梢型早期肺がんと小型肺がんに対する気管支鏡的診断-がん治療における診断の位置付け
岩崎 賢太郎 先生

岩崎 賢太郎 先生

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この記事の最終更新は2018年07月03日です。

手術により根治(完治)を目指すことができる早期肺がんのなかには、レントゲンやCT検査でははっきりと描出されないがんもあります。また、既に進行しており抗がん剤治療を選択する必要のある肺がんでも、直径が2cm以下の小型肺がんの場合、画像検査で確定診断をつけることは困難です。しかし、肺にある淡い影の正体を突き止めないことには、適切な治療選択をすることはできません。早期肺がんと小型肺がんの疑いがある場合に行われる気管支鏡的診断とはどのような診断法なのか、三田病院の岩崎賢太郎先生にお伺いしました。

肺がんは、発症部位により末梢型肺がんと中心型肺がんの二つに大別されます。一般の方にもイメージしやすい肺がんは、レントゲン検査などを行なうと肺に影がうつる末梢型肺がんです。一方、気管支の内腔に腫れのように生じる中心型肺がんは、レントゲンやCT検査では発見されづらいがんです。

本記事のテーマである「気管支鏡的診断」(気管支鏡を用いた診断)は、前者の末梢型肺がんのうち、早期のがんと小型のがんをターゲットとして行われています。

早期がんとは手術により根治を目指せるがんを指し、小型のがんとは直径2cm以下のがんを指します。原発巣の腫瘍の直径が小さくとも、胸膜播種(きょうまくはしゅ)などを伴うステージ4のがんであることもあるため、小型がんと早期がんは異なります。

胸膜播種とは:がん細胞が、肺の表面を覆う胸膜に種をまくように転移すること。

たとえ病変が小型であっても病状が進行している肺がんは、手術により根治を目指すことはできないため、抗がん剤治療などを選択します。しかし、治療方針を決定する際には必ず「がんであることの確定診断」が必要であり、画像には描出されないような小さな小型がんでも組織や細胞を採取しなければなりません。気管支鏡は、このようなごく小さな腫瘍の組織採取にも有用です。

さて、気管支鏡的診断の対象は末梢型肺がんと述べましたが、私が医師となった当時は、気管支鏡的診断は中心型肺がんをターゲットに行われていました。

口から近い気管支に生じる中心型肺がんは、早期がんでなければ喀痰細胞診により診断することができます。しかし、レントゲンやCT検査を行っても、正常な気管支とがんのある気管支は同じように写ってしまうため、病変部を特定することはできません。

そのため、過去には喀痰細胞診により異常がみられた場合は、自家蛍光気管支鏡で正常部と病変部の色の違いをみる「光診断」を行っていました。私が医師となって、最初に興味を持った分野も、自家蛍光気管支鏡による中心型早期肺がんの診断です。

まずは過去に遡り、外科医である自身が気管支鏡的診断を専門に決めた理由と、肺がん治療における診断の位置付けについてお話しします。

私の出身母体である東京医科大学外科学第一講座は、古くから「外科医は手術をするだけではいけない」という理念を掲げてきました。診断から患者さんを送り出すところ、あるいはお看取りするところまで、外科医が責任を持って行なうことが医局のポリシーだったのです。

そのため、医局員のなかには手術を専門するために腕を磨く医師だけでなく、より正確な診断を極めようとする医師も存在しました。私は後者に該当します。

岩崎先生

このような背景があるため、私は手術を選択しないで根治を目指せる道がある場合は、患者さんの心身に負担をかける手術は回避することが望ましいという信条を持っています。

また、医師の家系に生まれたわけではなく、患者家族の立場になった経験も持っていたことから、私はもともと「手術」のイメージを患者側の目線で捉えていました。仮にレントゲンやCT検査によって、明らかにがんだとわかる所見が認められた場合は、患者さんも手術を受けることに納得がいくでしょう。

しかし、がんなのか否か疑わしい所見がみられた場合はどうでしょうか。このとき、患者さんには「できれば切りたくない(あるいは切ることに対し納得できる理由が欲しい)」という心理が芽生えることが多く、積極的に手術を選択する主治医とは精神的な方向性が真逆を向いてしまうことがあります。

ですから私は、手術を決定するならば患者さんに納得してもらうだけの材料がなければいけないという考えを持っています。診断とは治療方針を決定づけるものであり、同時に治療を受ける患者さんの納得材料にもなるものだと考えています。

このような思いから、レントゲンやCT検査ではほとんど描出されない早期肺がんや、確定診断が難しい小型肺がんに対する気管支鏡的診断に注力しています。

冒頭で中心型肺がんと末梢型肺がんの違いについて解説しました。現在、喫煙を主な原因とする中心型肺がんは喫煙率の低下とともに減少しており、末梢型肺がんは検査精度の向上と共に増えています。つまり、過去には発見できなかったがんもみつかるようになったということです。私の入り口は中心型肺がんであったものの、時代の転換期に医師となったため、現在では末梢型肺がんを対象としているのです。

現在、肺がん治療の世界では個別化医療が進んでおり、それぞれの肺がんに応じた治療を行なうために、遺伝子検査が重要な立ち位置を占めています。ここで重要なことは、遺伝子変異の有無は「腫瘍細胞があってはじめて調べられる」ということです。肺がんに関連する遺伝子変異は血液検査でも調べることができますが精度は高くはありません。正確性の高い結果を得るためには、腫瘍自体の組織を採取して遺伝子検査を行なう必要があります。手術適応となる患者さんには腫瘍があるわけですから、がん細胞の採取も容易です。しかし、手術ができない進行がん患者さんで遺伝子検査などを行なう必要がある場合の診断は、口から気管支鏡を挿入し、組織を採取するしかありません。このような場合、気管支鏡的診断を行います。

現時点では、レントゲン検査で500円玉大の影が写るような明らかな肺がんも、気管支鏡的診断によりやっとわかるような1a1期の肺がんも、同じ侵襲の手術を行なう必要があります(※早期がんの場合)。

しかし、今後は末梢型の早期肺がんであれば、手術以外の治療法が選択される時代が来る見込みもあると期待しています。たとえば、既に導入している施設もある定位放射線治療が、ガイドラインで標準治療として示される可能性は高いと考えます。また、臨床段階にある末梢病変に対するPDT(フォトダイナミックセラピー、光を照射することでがん細胞を死滅させる治療)の確立も待たれます。

将来的に早期肺がんの患者さんに「切らない」という選択肢を提示できるようになれば、自身が専門としている気管支鏡的診断により負担を減らすことのできる患者さんも増えるのではないかと感じています。

次の記事では、気管支鏡的診断とは具体的にどのようなものかを解説します。

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